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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第3章 北沖戦争篇
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0054 厭戦気運

 開拓暦147年11月18日、沖那波宇宙軍は罠として仕掛けた衛星や機雷、ジャミング装置を回収し終えて、惑星テラースにて捕虜にした北海途軍を後方の収容所にて収監して、後はゆっくりと宇宙軍の再建に取りかかっていた。

 今現在、戦力比は完全に互角。1対1でぶつかり合うのは、宇宙空間での戦いではリスクが大きすぎる。今は兎も角、「形」だけでも良いからなんとか軍を再建させなければ、今はまだ戦える状態では、お互いにはない。

 つまり、今は小休止である。お互いに大きな損失を被った今、官民相手に多大な負担を強いるのを説得しなければならなかった。何しろ、開戦時に存在していた軍事力より、3度に渡る惑星テラース攻防戦、そして「トールハンマー」作戦の結果、その数は半減していた。これは事情を知る人間にとっては悪夢そのものであった。増税や耐久生活、人的動員、つまり「徴兵」、そして民間の船や武器になりそうな宇宙船や物資を「徴用」しなければ、とてもでは無いが間に合わない。まともな方法で再建なんぞ出来るものではない。


 沖那波政府は、テレサ・ミルウェイ首相の指揮の下で、軍再建に向けて官僚の各部署、それに経済界の組合や委員会といったVIPに対して、頭を垂れながら言う。

「この提案を呑んで欲しいのです」

 呑んで欲しいのです。こう言う言い回しで提案されるプランなんて、大抵がろくな代物ではない。そして、会議室の机に顔を向けたまま、それを上げようとしないテレサ首相の態度からも、嫌な予感しかしない。

 会議用端末にて、その場に居た全員が凍り付く。そこに示されていたのは、正に苛政としか言い様が無い代物である。今後は人間は勿論、燃料も食糧も水も資材も、全部が徴用の対象となり、民間に流通するものは値段が大きく跳ね上がり、量は不足しがちになる。下手すれば、配給制を導入する羽目になる。

「……これを、呑め、と?」

「閣僚は説得しました」

 言い訳なのは分かっていたが、それがかえってこの場のVIPの怒りに油を注ぐ。

「ふざけるな! 戦時内閣だから倒閣しないと思って、好き放題になると思ったら大間違いですぞ!」

「軍からの要求全部呑んで、政府閣僚は何の為に存在しているのですか! 少しはこちらの立場も考慮して交渉してもらわなければ!」

「何時から沖那波政府は軍国主義になったのですか! 市民の代表たる我々に何の相談も無しに、こんな提案を出されて、ハイそうします、と言えると思っているのですか!」

等々、あらん限りの罵詈雑言が飛び交ったが、テレサ首相はひたすら頭を垂れたまま動かない。

「戦争自体、止めるべきでは無いですか。今の戦況は互角、相手も多数の犠牲や捕虜を出しています。こんな提案を呑んで、民力低下を齎せば、下手をすれば共倒れです」

 テレサ首相は、それでもまだ頭を垂れ続ける。それが正解だと分かっていても、テレサ首相は頭を上げなかった。軍組織の再建にこれだけの手間暇をかけるのであれば、戦後になってゆっくりやるべきである。その理屈は分かる。だが、その代表は一番肝心な部分を理解していない。

「引き分けに終わらせれば、遅かれ早かれ何かしらの形で決着をつけなければなりません。その度に戦争をしていれば、次もまた犠牲が発生し続けるでしょう。ここはどんな犠牲を払ってでも、北海途に勝利しなければならないのです」

 テレサ・ミルウェイ首相は、粘った。粘って粘って、粘り抜いて、結局、全てを呑み込ませるわけには行かなかった。内心、10回でも20回でも、100回でも説得の為の場は設けるつもりであった。人と交渉をするのには、そのくらいの根性がなければ駄目である。ましてや、生活に直結する、何なら生死に関わる問題ならば、尚更である。


 惑星テラースにて、戦いの勝利の余韻に浸る間もなく、王光貞大将は、疲れ果てた身体を休ませていた。第三次テラース攻防戦、敵の「ロンギヌス」作戦を阻止して以来、戦勝パーティーに出突っ張りで、クタクタであった。元帥への昇進案も囁かれていたが、軍の人事上、現場の指揮官を元帥にするのには抵抗が存在していた。惑星テラースの要塞惑星としての機能は、一部しか使われなかったが、もし次に戦う事があれば、同じ手は2度と通じない。

 それに、だ。第二次「トールハンマー」作戦が行われる可能性だってある。その時は、今度こそ全力で反対するつもりであった。侵攻作戦に打って出れば、敵もまた全力で迎え討つ。しかし、今は彼我の戦力比は1対1だ。同じ戦力同士がぶつかり合えば、お互いに大きな犠牲を被った上での停戦条約や休戦協定、と言ったオチになるのに違いない。

 そうなる前に、戦争を止めなければならない。本来、必要ではない犠牲が発生するのであれば、それは社会全般に対する損失であり、無駄な犠牲である。

 しかし、それでももう1戦か2戦はするだろう。その時の戦場は、何処が選ばれるのか。惑星テラースがまた最前線になるのか。その時は、前回と同じ展開になると言う保障は1個も無い。


セルドア・マークベルク大統領は、議会の場にて叫ぶ。

「これが出来なければ、この戦争、我々が負けるぞ! もう少し真剣に検討してくれ! 民需を大幅に圧迫するのは心苦しいが、そうでもしなければ問題を先送りする事になるぞ! 後世の人間にどう弁明する! ここで犠牲を払わなければ、我々は未来永劫殺し合う羽目になるぞ!」

 議事堂にて、セルドア・マークベルク大統領が吠えるのは、この議会に提出した軍再建案が否決される見通しとなったからである。

「戦時内閣として、官・民・軍を説得する為の労は惜しまない! 1度否決されても、2度でも3度でも同じ再建案を提出させてもらう! これが可決されなければ、北海途に未来はない! 断言する!」

 「ダンテの大将」の愛称で慕われたゼハーダンテ・カッシュ大将は、前線勤務から後方勤務に降格処分となったが、まだ指揮官として期待できる人間は1人だけ居る。彼がそう断言するのであれば、この再建案はなる程、必要なのかもしれないが、自分達の支持層である有権者の生活を脅かすレベルでの「徴兵」及び「徴用」は、自分達の支持基盤を奪い、ひいては戦後の選挙にて落選である。

 それが分かるだけに、全面的には賛成は出来ない。せめて期限を区切っては、あるいは幾らか妥協させてもらうか、そのどちらかでなければ無理だ。

 実際にそう口にした議員に対して、セルドア・マークベルク大統領はまたもや吠える。

「もしこの予算から0が1つでも減れば、我々は負ける! そうなれば、我々は全員戦犯として沖那波政府に裁かれる羽目になる。そうなってから後悔しても遅いのだぞ!」

 セルドア大統領は言葉を尽くして説得し続けていたが、議会の空気は反対寄りである。これ以上はどうにもならない。あとは、議会の3分の2以上が賛成してくれるのを祈るだけだ。

 結果としては、セルドア大統領は1週間後には一部修正を加えた上で再提出したが、又もや修正を加えなければならなかったが、これも通らない。ウカウカしていたら、本当にまた本土決戦をしなければならないと言う緊迫感は、まだない。



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