0052 籠城戦
中央アスラン大陸の山岳地帯の地下深くに建造された第6司令部にて、王光貞大将は要塞惑星テラース各地に設置された望遠鏡から、宇宙から来る北海途宇宙軍の様子を捉えていた。
「あれが、作戦「ロンギヌス」って奴か。なる程な、ここまでの戦力を整えるのに、あれだけの時間を使ったのか」
サラティー・サラド・王戦姫中尉は、夫の隣で言う。
「ここから先、苦しい戦いになりそうですね」
「まぁ、苦しくなるかどうかは敵の出方次第だ。要塞化したとはいえ、敵がそこを上手く処理してきたら、案外アッサリこっちが負ける可能性だってある。無敵の要塞なんて無いからな。こっちも備えを過信しないで、真剣にやらないとな」
デバッカー・サレント作戦中尉は、その後ろから言い放つ。
「敵の数はこちらのざっと2倍。対してこちらは要塞化しているとはいえ、惑星に籠城して戦うほか無い。地の利、地の利と言いますがね、お互いに全ての武器が、どんな環境よりも過酷な宇宙空間での戦闘に対応できる性能なんですから、そこを勘違いすると痛い目を見るのは確かですな」
相変わらず「過激」であるが、「真相」を見抜いている言葉である。マルティナ・ガベル戦姫少佐もこれに乗っかる。
「飛び道具は全て使えないからね。あの罠、設置するだけでも無茶苦茶大変だったんだから、上手く使えないと私達の方が間抜けだったって事になるわね」
「くだらん」
テル・メイソン機甲少尉は、その隣で言い放ち、更に付け加える。
「俺達なら出来る。調子に乗った阿呆どもとは違う所を見せるぞ」
その言葉で、この司令部に居るスタッフ達の気持ちが一つになる。俺達なら出来る。その一念のみが、この劣勢にて彼らを支える唯一の気持ちであった。戦力比は1対2、幾ら要塞化させた惑星に籠城しているからと言って、過信は出来ない。それでも、自分達なら出来る。それだけである。その一念のみで、ここに居るのだ。
第1陣と第2陣に分かれた北海途宇宙軍は、惑星テラースを完全に包囲下に置くと、地上部分を徹底的に調べ上げていた。惑星テラースに何か手を加えているのは、事前の情報として知られていたが、軌道上からの観測では何らおかしい点はなかった。
分かっているのは、司令部と思しき設備が、見つかっているだけでも11箇所発見されたと言う事だけである。こちらを観測しているであろう望遠鏡も無数に発見されている。これらの事実は、一つの結論へと辿り着いていた。沖那波宇宙軍は、完全に地下化された基地に籠城しているのだ。補給を断たれるのも想定の内だろうから、補給物資もたっぷり用意している筈だ。1ヶ月や2ヶ月では、決着は付かないだろう。
第1陣の司令官、マックウェル・サートス中将は、その事実を後方のゼハーダンテ・カッシュ大将に報告する。「ダンテの大将」は、静かに、だが断固とした口調で言い放つ。
「弱点は突かない。小手先の作戦も使わない。小細工も要らない。大軍にて敵を磨り潰す。それだけの戦力がこちらにはある。敵が籠城戦に入ったのであれば、敵を表に誘い出して戦うだけだ」
流石は、「ダンテの大将」。これから先、命を預ける大将の言葉に、全軍が奮い立つ。だが、「ダンテの大将」には懸念材料があった。こちらは敵の倍。兵站は完璧に整えた。しかし、籠城戦に入った敵と何時までも付き合える程の物資が用意できたとは言えない。部下に対しては強気一筋であるが、1ヶ月や2ヶ月ならばまだしも、半年や1年も同じ状況が続くとなると、物資は底を突いて撤退せざるを得なくなる。
そうなると、士気にも関わってくる。半年や1年も包囲戦を続けるなんて、どんな人間だろうと耐え抜ける筈が無い。身体能力は勿論、精神力にも限界というものがある。こちらが揃えた戦力は敵の2倍。充分に余裕のある戦力比とも言えない。理想を言えば、せめて4倍あれば、ローテーションを組んで惑星テラースを包囲し続けられるのだが。
……無い物ねだりは、敗北への第一歩だ。「ダンテの大将」は自分にそう言い聞かせると、第1陣に地上への降下を命じていた。地上に基地を建設して、地下に潜った敵をあぶり出して、今度こそ勝つのだ。
「どうやら、上手くいったらしい。敵はこの惑星の地上に基地を建設した。これでようやく第一関門は突破だ。あのまま宇宙からの包囲を続けられていたら、物資との戦いになっていた。半年や1年も籠城戦をやれる程の物資は、こちらにもない。敵が地上に基地を建設した目的は、ただ1つ、短期決戦だ。敵の物資も余裕がないと見える。我々は地上に侵出した敵に対して、多少お下品な表現を使うと、「嫌がらせ」を目的としたゲリラ戦を仕掛ける。半年や1年は粘れないが、敵にそう錯覚させるだけの状況を作り出す」
王光貞大将以下、司令部に居るスタッフ達は全員、覚悟を決める。この土地で骨を埋める結果になろうとも、いや、そんな事には決してならない。この土地に骨を埋めるのは自分達ではなく、あいつらだ。ここは自分達の墓ではなく、あいつらの墓だ。
「では、早速、始めようか」




