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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第3章 北沖戦争篇
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0051 男の未練

「軍人大統領」

 それが、セルドア・マークベルク大統領の頂いたあだ名である。別にそこまで的外れな表現ではない。現に開戦前まで軍人だったのだ。そして、8ヶ月前の北海途本土決戦での勝利に貢献した「戦歴」もある。

 姉のマリナ・マークベルクの元に訪れたセルドアと、その親友であり戦友でもあるゼハーダンテ・カッシュと共に、つかの間の休暇を過ごしていた。こう言う場合の「休暇」と言うのは、その後は食事や睡眠だってする暇も惜しんでの激務が待ち構えていると言う事であり、この場合は沖那波への大規模軍事作戦の前兆であった。


「ダンテ、お前のお陰で助かっている。俺の半身として、お前は完璧な仕事をしてくれた」

「セルドア、休暇の時くらい仕事の話は止めなさい。それに、1度や2度の勝利では勝ちは動かないと言ったでしょう。忘れたの?」

「姉さんこそ、仕事の話をするのですね」

 万事が万事、そんな調子であるが、3人は心の底からリラックスしていた。そして、セルドアはダンテを見つめる姉の視線に、「何か」を感じ取っていた。その「何か」を認める勇気が、自分にあるのか。そう問われると、かなり厳しい問題であるが、この親友ならば、と言う思いもある。

「何か」が、例え「あれ」であったとしても、自分がこれを差し止める理由も、そして差し止めて良い権利も無い。全く、折角の休暇なのに、気分があんまり晴れない休みになってしまった。

 しかし、ダンテは気が付いているのだろうか。いや、愚問だ。あの瞳に宿っている光を見て、それに気が付かない訳が無い。そして、それに応えるつもりであるのも、間違いない。もしその時が来たとすれば、馬に蹴られて地獄へ落ちるのは嫌なので、独りで山のコテージにでも住んで、酒でも飲んでゆっくり過ごそう。そうだ、それが一番良い。

 「軍人大統領」。ピッタリな名前だ。一生独り身でもいい。姉以上に完璧な女性になんて、出会えそうにもない。もし居たとしても、それで姉に対する未練を断ち切れるとは思えない。彼女以上の、恋人以上の、妻以上の女性。

 ……見苦しい。男の嫉妬は、未練は醜いだけだ。親友と親愛なる姉の「恋」を、何で嫌がるであろうか。逆に祝福してやれないのか。全く、何でこうもスッキリと生きられないのか。戦場では、あんなに生き生きとして戦えるのに、戦地以外の所へ行くとこれだ。

 セルドア・マークベルクは、ダンテとマリナの愛の営みを見ながら、自分の今後の人生設計を既に済ませていた。沖那波との戦争を終わらせたら、北海途の適当な所にある山のコテージにて隠居して、独りで慎ましく酒でも飲んで過ごそう。無論、独りで、だ。


「セルドア、どうしたの? 何をそんなに浮かない顔をしているの?」

「……いえ、これから大仕事に取りかからなければならないのが、億劫なのです」

「そうなの、でもダンテと一緒に働けば、何とかなるでしょう。あの時も何とかなったのですから」

「いえ、あれは敵が侮ってくれたからこそ、作戦通りに事が運んでくれたので」

「そんな、謙遜する事は無くてよ。セルドア、あなたはあなたの職務に忠実になりなさい。そうすれば、皆が認めてくれるわ」

 ……ああ、男の未練なんて最低だ。しかも、その対象が実の姉なんて、こんなのありだろうか。いや、案外そんなものかもしれない。男の子あるあるかもしれない。でも、何で自分がそんな気持ちを抱かなければならないのか。

「ダンテ、セルドアに苛められたりしていない? 何か嫌な目に遭っていないかしら?」

「いえ、むしろ過分な地位に置いて頂き、有り難く思っております。私の役割は、セルドア閣下の為に戦う事です」

「あら、ダンテはまるで王に仕える騎士ね」

 王女様はそう言うと、王に言う。

「セルドア、あなたは皆が頼りにしています。これからも、北海途の為に戦い続けなさい。それまで、今はお休みなさい」

 その日の晩は泊まっていったが、その夜は眠れなかった。


 翌日には、セルドア・マークベルクは、大統領として精神のチャンネルを切り替えていた。それはゼハーダンテ・カッシュ大将も同じであった。次の作戦の準備の為の作業・監督・指示の日々に追われる事になっていた。対沖那波侵攻作戦、「ロンギヌス」の始まりである。

 全軍の2割が、前回の戦いにて失われていたが、それでもこちらよりも敵の数は少ない筈だ。スパイからの報告では、あの惑星テラースは要塞化されているらしいが、具体的に何処がどう要塞化されているのかは情報が届いていない。どの道、要塞なんて物は補給を断って時間をかけさえすれば何時かはおとせるものだ。

 今度は、こちらが物量の面では圧倒的に優位。補給を断ちさえすれば、どんなに魔改造を加えた要塞とは言え、陥落が不可能な要塞というのは歴史上存在していない。「ロンギヌス」に投入される戦力は、「トールハンマー」作戦阻止戦の後に残された戦力の過半数。残る半数は、第2陣として後方に待機し、第1陣が消耗した場合に交替するべく休養させる。

 敵には、もはや予備として後方に備えるだけの戦力は残されていない。敵の2倍の戦力で戦えるのであれば、消耗戦を仕掛ければ、単純に戦力が倍あるこちらが勝てる計算だ。

 その為には、補給物資の準備、補給線の確保、輸送用宇宙船の確保、その為の官・民への負担の説得、特に小売業界、物流関連の企業への説得、そして第1陣、第2陣に再編された軍の人事と編成と訓練。等々の、面倒な作業を1日数時間の仮眠と栄養満点だが味は悪い食事、そして眠気覚ましの為の苦いコーヒーで請け負うのだ。

 本当、誰かが代わりにやってくれるのであれば、やってもらいたい仕事である。本来、その役割を担うべきであった前大統領は、与党のVIP諸共、宇宙の塵となっている。自分達でやる他ない。

 第1陣の指揮官は、マックウェル・サートス中将。第2陣はクルック・スタン中将。後方にある総司令部にて全軍の指揮を執るのはゼハーダンテ・カッシュ大将。今回、セルドア・マークベルク大統領は不参加である。

 準備を重ね続けて、完全に用意が終わったのは、年が明けて、そろそろ春が来る開拓暦147年3月19日になってからである。その頃には、沖那波宇宙軍も北海途宇宙軍の「ロンギヌス」作戦の予兆を察知して、準備を整えていた。「ロンギヌス」作戦、又の名を第3次テラース攻防戦の始まりであった。



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