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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第3章 北沖戦争篇
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0050 女の未練

 無謀な侵攻作戦を支持した内閣は当然として、それを立案した軍部の上層部も根こそぎ総取っ替え、全員辞職の上で新しい体制での、それも困難な闘いへの船出となるのを覚悟の上での再出発である。一部では「降伏論」も出て来ていたが、まだ全軍の内の半分は生き残っている。そして、惑星テラースは沖那波宇宙軍きっての知性であり「不良軍人」として有名な王光貞中将による「魔改造」が加えられており、「要塞惑星」に相応しい状態となっている。

 こうして、組閣された沖那波の戦時内閣は「戦争の継続」を決定し、惑星テラースを「絶対防衛線」として策定し、北海途に対して徹底抗戦する運命を選択していた。王光貞中将は、その時点で大将に昇進、実質上、対北海途戦の前線指揮官を担っていた。予備軍として残されていた4割に加えて、「トールハンマー作戦」の生き残りの1割、合計すると半分が残っていたが、その全てが王光貞大将の指揮下に入る。事実上、実戦部隊の最高指揮官となる。

 そして、その後方支援全般を担う戦時内閣の長、首相の名前を見て、王光貞大将は思わず唸り、次いで確認をとる。そしてそれが事実であると知ると、何でそんなに動揺しているのか気になる部下達に、光貞大将は照れ臭そうに言う。

「元交際相手が首相とはね」


 テレサ・ミルウェイ首相は、認知させてもらえなかった双子の娘を実家に預けて、惑星テラースに視察に訪れていた。あの「トールハンマー」作戦の失敗から5ヶ月後の、開拓暦146年9月4日の事である。中央アスラン大陸の山岳地帯の地下に建造された地下司令部に案内されて、テレサ首相は光貞大将に言う。

「あれから北海途軍も動きがありませんが、何が理由でしようか。思い当たる節はありませんか」

「損害の補充です。それ以外には有り得ません。完全な包囲殲滅戦だったとは言え、10対6では味方もただでは負けなかったのでしょう。2割か3割は道連れにした筈です。また北海途軍から報復の侵攻作戦を行うにせよ、軍の再編が必要です」

「それで、さし当たって今必要な物はなんでしょう」

「時間です。軍の再編ではなく、再建なのですから、敵よりも金も時間も人手もかかります。半分まで減った軍を、敵と同程度にまで回復させるのには、時間が必要です」

「資金はどうするのですか。あまりにも極端な増税は、市民の戦意を削ぎます」

「それは我々の領分ではありません。市民への負担に対する説明は、政府の仕事の筈です」

「……全く、あなたは全然変わらないのね」

「急にどうした」

「私、今でもあなたが好きよ」

「止めてくれ。もう過ぎた事だ。それに、私ももう妻帯者だ」

「……御免なさい。うちの両親が、せめて娘の認知くらい賛成してくれれば」

「だから、もう過ぎた事だ。全部私が悪かった。それで良いんだ。君は何も心配する必要は無い」

「心配だなんて。私、心配なんてこれっぽっちもしていないんだから」

「未練は、断ち切った方が良い。忘れるんだ。忘れるしかないんだ。それに、今の自分の置かれた立場をよく考えるんだ。学生時代の関係を公にされれば、折角組閣された戦時内閣だって崩れかねない。メディアの目が何処にあるのかなんて分からないんだ」

「……ええ、そうね、御免なさい。でもね、人間、感情を完全に切り離して生きるわけにも行かないのよ」

「分かっている、つもりだ」

「なら、サラティー・サラド・王戦姫中尉をここへ呼んで」

「……分かった」


 お互いに気まずい。なんて相手に遠慮した感情は抱かなかった。なんなら、お互い暴力に訴えても良い資格を与えられたとすれば、この場にてすぐ様使いたい気分である。

「何で本官をお呼びしたのでしょうか。首相閣下」

「少し、聞きたい事があるのよ」

「何で御座いましょう。本官に答えられる質問であればよろしいのですが」

 お互いに、「こいつムカつく」と胸の内にて呟く2人。

「誰の紹介で、現在の夫と知り合ったのかしら」

「当時の統合作戦本部長からです」

「そう、人事権の行使かしら」

「元本部長の真意については理解しかねます」

「別に、真意なんて分かりきっているわ。引き留めたいからよ、軍にね」

「それとこれと、何の関係があるのでしょうか」

「彼に言われたのよ、未練は忘れるしかないって」

「お忘れになれば宜しいでしょう。本官の軍務には関係ありません」

「私が公私混同だとでも言うのかしら」

「その様なつもりはありません。ですが、思い当たらぬ因縁をつけられては、少々頭にくる事もあります」

 もうそろそろ、ゴングが鳴りそうであった。この場には、全ての元凶である王光貞は居ない。であればこそ、2人の私闘は更にヒートアップする。

「良いのよ、遠慮無く、不満があったらぶつけなさい。私は遠慮しますが」

「遠慮なんてしておりません。私は最初から」

「……1度、あなたを娘に会わせたいわ。とっても可愛いのよ、あの人に似ていて」

「落ち着きましょう。お互いに。私もあなたも、女である以前に、節度のある大人として振る舞うべきです」

「申し訳ありません、幾ら何でも、子供を武器にするのは良くないわ。私が迂闊でした。でも、これだけはハッキリとさせてください。私、未練は忘れるつもりはありません。でも、それを公務に持ち込む事は、今後はしません。もししてしまったら、その時は先程の様に叱って下さい」

「了解しました。首相閣下」


デバッカー・サレント作戦中尉は、廊下にて1人佇む王光貞大将に向けてキツい一言をぶつけていた。

「王の姓が泣いていますよ」

「ぐうの音も出ないね。身から出た錆だ、ざまぁない」

「しかし、大将閣下がそこまで異性にモテるとは思いませんでしたな」

「若気の至りだ、と片付けるのには重たい過去だよ」

「責任を取らなかった理由は?」

「お家騒動だ。政治家一族のご令嬢と不良軍人の結婚が許可されなかった」

「そいつは職業差別ではないですかね。第一、軍人の何が悪いんでしょうかね。世間に対する貢献度では、政治家よりも大きいと思うのですが」

「由緒正しい軍人一家であれば良かったんだろうが、生憎食う為に軍人になったんだからな」

「考古学に志があるのですよね。歴史家にはならずに」

「歴史家は、半分タレントみたいなものだからな。考古学の方がそれっぽくて良いんだがな」

「もう大将になっちゃいましたね。これからは下手に辞職も出来ません」

「しても、予備役として永久服役さ。まさかこんなに出世するとは思わなくてね。もう仕方が無い、腹を括るさ」

 そこまで喋った所で、件の2人は部屋から出て来た。2人とも、右の頬が真っ赤にはれている。サラティー戦姫中尉は、光貞大将の前に来て釈明する。

「私が先に手を出しました。首相閣下には非はありません」

「非は誰にも無い。次に殴るのは私にするんだ。良いな」

 テレサ・ミルウェイ首相は、何も言わずに、足早にその場を後にしていた。まさか、学生時代の過ちがこんな形で現れるとは思わなかった。


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