0049 運命の裁き
開拓暦146年3月25日。沖那波宇宙軍は北海途侵攻作戦「トールハンマー」を正式に認可した。投入兵力は全軍の6割。残る4割は予備軍として後方にて待機する。この4割と言うのは、反対派の急先鋒たる王光貞中将が「これ以下ならば辞表を出す」と脅して残させた数字である。賛成派としては、予備人員や訓練用の教官のみを残して全軍を投入したいところであったが、反対派はかなりの数に増えた結果、その声を無視できなくなった為、4割を惑星テラースにて残す事になっていた。
この1ヶ月近い間に、北海途軍は沖那波の有人惑星を次々と無差別攻撃でもって焼き払っていた。流石に首都星に近い中枢都市への攻撃は行われなかったが、敵の思う壺にがっぽりはまった、と言うよりは良い口実を得られた賛成派は、「これを機に北海途への全面攻勢をしかけるべきだ」として、反対派を捻じ伏せて作戦の採用を強行、こうして「トールハンマー」作戦は実行に移された。
「決戦なんてね、戦う前から勝敗が決まっているんだよ」
王光貞中将はそう言いながら、北海途のある宇宙へと進軍する友軍を見送りながら言う。
「決戦なんかで優劣は、勝敗は決まらない。結局、何でも事前にどれだけの物量を揃えられたかどうかなんだ。仕掛けた時の時と場合にもよる。完全に追い詰められた状態で、戦場で1度や2度勝ったところで、意味は無い」
「それは、中将閣下のオリジナルですか」
そう尋ねてくるのは、作戦班のデバッカー・サレント作戦中尉である。遠慮しないで自分の意見を言う事と、その言う内容があまりにも過激な事から、「劇物軍人」のあだ名を頂戴している。
「オリジナルなんて無いよ。そうでなければ、アウトサイダーアートになるしかない。半端な知識では、矢張り半端な模倣しか考えつかない。結局、物事には王道ってものがあるんだよ」
「敵の思う壺にはまって友軍を殺すのも王道ですか」
戦姫のマルティナ・ガベル戦姫少佐も口を尖らせる。それに対して、光貞中将は返す。
「そこは政治的判断とか、人間力学的結果とか、そう言う話になるな」
「くだらんな」
ドスのきいた低い声で言うのは、機甲のパイロットであるテル・メイソン機甲少尉である。これもどうしようもない口の悪さと態度のデカさで、軍中枢からは徹底的に嫌われている。それでも軍を抜けないのは、成績が群を抜いて優秀だからだ。
そして、最後に王光貞中将夫人の、サラティー・サラド・王戦姫中尉がその場の空気を代表する言葉を口にする。
「どれだけ帰ってこられるでしょうか」
もはや名実共に独立愚連隊となっている予備軍の中枢となった光貞中将はバッサリと言い放つ。
「1人も帰って来れないさ」
不吉な予感であり、確信でもあった。
北海途軍の「NO FATE」作戦もまた、完璧とは言い難い状態であった。流石に反対派は出てこなかったが、作戦案について批判的な意見が其処彼処から出されていた。
「もし沖那波軍が、こちらの無差別攻撃の報復で街を焼き払ったら如何するのか」
「攻勢限界点まで敵を誘い込むと言うが、その間の市民の安全は100%保障出来るのか」
「最低限、市民の安全確保の為の人員は残すべきではないか」
これらの懸念の声に対して、セルドア・マークベルク大統領は断固たる口調で言い返す。
「元よりその覚悟で、同作戦を決行した。こちらの都市が一つか二つ、焼き払われたとしても、最終的な勝利を得られるとすればお釣りがくる」
「作戦中の100%の安全の保障は出来ない。但し、作戦後に発生した損害に対する補償は100%保障する」
「戦力を分散させるわけには行かない。これは本土決戦だ。こちらの戦力は、10割全部敵の邀撃に使わせてもらう」
今回、陣頭指揮を執ると頑なに主張して、その立場に収まったセルドア大統領は、予備人員と訓練用の教官のみを残した全軍を投入、この作戦に全力で投球する覚悟を示していた。前線指揮官は、矢張り「ダンテの大将」ことゼハーダンテ・カッシュ大将。その下には北海途宇宙軍のきら星如くの精鋭が集う。
何としても勝たなければならない。これで負けたら、文字通りお仕舞い。運命に負けたと言う事になる。そんな結末は絶対に許容出来ない。自分の手で運命は掴む。そう言う意味を込めての「NO FATE」である。
沖那波宇宙軍侵攻部隊は、無計画に無防備な星々を荒らしていった訳では無く、むしろ首都星に向けてなるべく最短コースを選んで進軍していた。それでも、敵軍は一切訪れない。
途中の星々でも、トラブルが無かった訳では無い。だが、致命的な事態に陥る事も無く、このまま首都星まで行けそうだが、敵は何か企んでいるのは間違いないと不安に思いながら、7度目のハイ・ワープを行おうとしたその時、沖那波宇宙軍侵攻部隊を取り囲む様に北海途宇宙軍の全軍が一斉にハイ・ワープで現れた。
「運命など無いっ。自分達の未来は自分達で掴む。全軍突撃!」
全滅にはならなかった。悲痛なSOSを発信して、這々の体で逃れてきた沖那波宇宙軍の敗残兵が、散り散りとなって、惑星テラースに戻ってきていた。
「だから言ったんだ。絶対に負けるって」
王光貞中将は、苦い表情を浮かべて言う。6割しか投入出来なかったからだ。と言うのは言い訳に過ぎない。10割持ち込んだとしても、犠牲が増えただけで何の得にもならなかったに違いない。
「何で、もっと正直になれないかな」
自分の事は棚にあげてでも、言わずにはいられなかった。賛成派としては、捕らぬ狸の皮算用をしている内に引っ込みがつかなかくなったのだろう。その結果として、全軍の6割を失うというのは、あまりにも酷い結末であるが、これも運命という奴だ。出来る限りのベストを尽くさない奴を、運命は許さない。残酷な奴なのだ、こいつは。
「「NO FATE」作戦か。運命は、今回は連中に付いていたな」
次こそは、こちらに振り向かせてやる。その為に、強引なやり方で可能な限りの保険をかけたのだ。残る4割の軍。その元に集う、一癖も二癖もあるが、能力は買ってもいい連中。そして、双方の中継地点として一番価値のある星。ここで全力で戦えば、次こそ運命をこちらの味方にしてみせる。
王光貞中将は、自分の元に集った独立愚連隊に向けて宣言する。
「これからは、何かと苦労の多い戦いになるだろう。正直言って、勝てる見込みはそんなに無い。それでも、付いてきてくれるかな」
愚問なりと、全員の表情が語っていた。むしろ、馬鹿で間抜けな上司や政治家連中が全員しくじって辞めた今、自分達の理想通りの戦争が出来ると、前向きに考えてもいた。
一方の北海途宇宙軍は、降伏した沖那波宇宙軍侵攻部隊指揮官以下作戦班達を軍刑務所に送り込んでいた。中には「死刑にすべし」とする意見もあったが、やり過ぎであるとして早々に却下されていた。
ギリギリまで追い詰められた上で、最後の最後で大逆転。まぁ地の利もない相手に10対6で完全にこちらの包囲下に置いて戦ったのだから、誰がどうやっても勝てる環境であったのは間違いない。それでも、勝ちは勝ちだ。セルドア・マークベルク大統領は、戦時内閣としての初勝利をようやく掴み、市民からの信頼をようやく勝ち得ていた。




