0048 鳴かぬなら
開拓暦146年1月29日。沖那波の首都星にて、政府閣僚と軍上層部は結託して、「北海途侵攻作戦」を押し通そうとしていた。その作戦会議場にて、王光貞中将は声高く主張する。
「現時点で、こちらから侵攻するのはリスクが大きすぎます。ハッキリ言います。今侵攻すれば負けます。下手すれば、投入した兵力を全て失った上での全面潰走も冗談では無く、高い確率で発生するでしょう」
会議に参加している閣僚と軍上層部の将軍や元帥は、全員表情を変える。王光貞中将、第1次・第2次テラース攻防戦にて敵を打ち倒した、「不良軍人」と呼ばれてはいるが、無能ではない。それが、「反対」と言っている。
賛成派は、「理由を言え」と言う意味の沈黙を返す。光貞中将は、此処ぞとばかりに持論を展開する。
「我々は確かに2度の戦いにて敵を追い返しました。しかし、敵軍に対して与えた損害は限定的であり、致命傷には至っていません。敵軍は大半が健在であり、我が軍とほぼ同数、あるいは若干多いと見るべきであり、今からこちらから北海途侵攻を敢行しても、補給を断たれて悲惨な結末になるのは目に見えています。敵が反撃不可能なレベルまで消耗させてから後の本土決戦ならば兎も角、まだ敵の戦力が充分ある内に侵攻すれば、純粋に数のみが全てを決する宇宙空間での戦闘にて、同数同士の対決は宇宙統一戦争の決戦と同様に、双方に甚大な損害を与えて、何も出来ずに終わるだけです。本土決戦であれば、敵は完璧な「防御優位」で、「兵站」も楽です。この侵攻作戦に必要な戦力は、敵の3倍と見積もっても少なくはありません。理想を言えば、5倍は必要です。ですが、今の我が国にそんな戦力はありません。よしんば揃えられたとしても、兵站の負担も現在の5倍になります。加えて、兵站線はかつてなく長くなり、現地調達しようものならば、取り返しの付かない事態にもなります。現在の兵力で北海途の星々を制圧下において、敵軍と決戦して勝利し、首都星を攻め落とすのは、下品な表現を使うと、「調子に乗っている」としか思えません。現実でやれば、手痛い教訓と損失を被って虚しく撤退するしかありません」
これを皮切りに、これまで沈黙を強いられていた反対派が次々と異論・反論を述べていく。それら全てを一言で要約すると、「時期尚早」となった。賛成派は全員押し黙る。反対派がこんなにも大勢居たとは、想像できていなかったらしい。現役の、それも沖那波宇宙軍最高の知性と言われている中将からの反対意見は、それだけで反対派の勇気を奮い立たせていた。
賛成派は、「取り敢えず本日はこれまでとする」として議論を有耶無耶にして言う。もう既に北海途侵攻作戦は既定路線であり、その成功後の選挙、軍備計画、等々のスケジュールを組んだばかりで、今更中止すれば全部ご破算だ。いや、それはそうなっても構わない。侵攻作戦が失敗して、全軍潰走となるよりは遙かにマシだ。
「……クソ! あの「不良軍人」が。食う為に軍人になったと公言している奴に!」
「しかし、1人や2人ではなく、参加者の3分の1以上が反対派だったとは。こちらの見通しが甘かったな」
「……それよりも、これからどうする。どうやって説得する」
「その必要は無い。反対派は侵攻部隊に参加させずに、惑星テラースにてゆっくり観戦させようではないか。あの20代で中将になった「不良軍人」も、はれて辞める事が出来るだろう」
「では、矢張り、侵攻作戦は行うのだな」
「当たり前だ。既に民間向けのキャンペーンも始めているんだ。今更やっぱり辞めますなんて言えるか」
「……それで、勝ち目があるのですか。当初の目的では、侵攻作戦の検討・立案・実行に至るまで、全て王光貞中将に任せる方向で検討されたものです。その光貞中将が反対派に回ったとあらば、代理は誰にやらせるのですか。最低、彼クラスの人材がいなければ、最悪の場合、1人も生きて帰れない可能性だってあります」
「……もう少し、こちらも別の切り口で説得に回らなければ」
開拓暦146年2月3日。北海途の首都星にある大統領府にて、セルドア・マークベルク大統領は集まった閣僚達に言う。
「敵はまだ迷っている様だな。2度目の敗北の後に、勝ち馬に乗ってこちらに向かってくると思っていたが、冷静な奴が敵に居るのか、二の足を踏むと言う形で、時間だけが過ぎていると言うのが実状だ」
閣僚達は、それを聞いて顔を顰める。折角、今まで防衛策や決戦計画を練り続けていたというのに、敵が石の如く動かないのであれば、意味が無い。
敵軍は、一体どう言う理由で出撃を渋っているのか。こちらの戦力に対して正確な評価をした上での躊躇であろう。2度負けたとは言え、こちらは国が傾くほどの損害は受けていない。惑星テラースを巡る戦いで2度の勝ち星をあげたとは言え、損失は限定的である。
「攻めて来ないのであれば、来る様に仕向ければ良い。敵に攻め込ませるのだ。今、一番我々がすべき事は、「挑発」だ」
具体的に、何を如何すれば良い。
「敵が攻めてこまなければ、こちらから攻め込ませるしかない。我々もまた敵に倣って、奇襲作戦を行うべきだ。ホトトギスを鳴かせる為ならば、そうするしかない」
何処へどうやって奇襲を行うのか。
「惑星テラースを大きく迂回して突破、一番人口の居る惑星に無差別攻撃を加え、すぐに撤退。それで動かなければ、何度でも繰り返し敵の都市を焼く。それで良い」
なる程、そうして誘き寄せた敵をこちらに引き込んで、致命傷を与えるというのですか。
「敵の侵攻作戦を迎え討つ。敵の攻勢限界点が来るまで待ち構えて、その時が来たら包囲殲滅する。オーソドックスではあるが、王道の戦略だ。それ故に誰もがそうしてきた」
こちらの市民からの批判はどうかわす。
「それを考えるのは広報部の役割だ。プロパガンダ合戦となるだろうが、ここまで戦った末での狼藉だとすれば、誰もが神経が麻痺する筈だ」
それであれば、やりましょう。作戦名は、何にしましょうか。
「「NO FATE」。「運命なんて無い」と言う意味だ」
……待っていましたとばかりに言うセルドア・マークベルク大統領に、最初はあんまり乗り気では無かった閣僚達の顔の色が変わる。「NO FATE」作戦。これまで惑星テラースに散っていった友軍達に報いる為に、やらねばならない。戦争に銃後なんて無いと、敵国にも教えてやる必要がある。
大統領府にて一番広い会議室を使っての会議にて、セルドア大統領は重ねて言う。
「運命なんて無い。人生は自分の手で掴むものだ。天佑を信じても良いときと言うのは、我々が全力を出し切った時のみだ。天佑を受けるべく、自らで出来る限り努力して勝つべきである」
開拓暦146年2月15日。その一撃目が加えられていた。




