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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第3章 北沖戦争篇
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0045 お見合い婚

王光貞中将は、その任に就くのと同時に、「テラース方面軍指揮官」と言う肩書きも加わり、いよいよもってこれまでになく「責任」の重たい役職に就かされそうになっていた。政府並びに軍上層部は、どうしても王光貞を「北沖戦争」の切り札というキャラクターに仕立て上げたいらしく、公共放送は勿論、こう言う時には冷静になる事を要求される民間放送でさえ、深夜放送以外の時間帯を全部王光貞の人生・青春時代・軍人としての成果を誇張・糊塗・拡張して伝えている。

 自分の志は考古学にあるのだから、こんな嫌な稼業からは一刻も早く足を洗いたいところであるが、「上」の人間達はより具体的なやり方で引き留めを図っていた。


「結婚……ですか」

「それも、戦姫の中でもトップクラスの強さを持つエリート中のエリート、サラティー・サラド戦姫少尉だ。既に話はサラティー戦姫少尉に回してある。後は君の返事待ちだ」

 言われて、光貞中将は相手の画像を見る。美人である。しかし、何処か陰がある。何かが光貞中将の嫌悪感なり違和感なりを刺激する表情であった。恐らく、何かがあったに違いない。それも口に出さないままにした方が良い「何か」だ。

 ……仕方が無い。これも何かの「縁」だ。駄目だったら離婚でも何でもすれば良い。自分のキャリアに傷が付くかも知れないが、そもそも自分の望んだキャリアでも無いのに、そんな事に拘る必要はこれっぽっちもない。

「この縁談、謹んでお受けいたします」


 サラティー・サラド戦姫少尉は、この日も剣の手入れに余念が無い。その剣と言うのは、並の剣の1.5倍は大きい、伊達を決めた男が使いそうな代物であるが、これでも大人しい代物である。伊達者の中には、巨大なハンマーを振り回す奴もいる。

 そのサラティー戦姫少尉の公用端末から呼び出し音が鳴る。応答すると、こんな指示が飛んでくる。

「結婚が決まったぞ。光貞中将がOKを出した」

「はい」

「と同時に、君も最前線へ再配置だ。これから準備をすると良い」

「はい」

「これからも国家の為に、戦姫としての役割に忠実でいてくれたまえ」

「はい」

 通話が終わり、サラティー・サラドは天井を仰ぐ。男って奴は、どうしてこうも政治にかかわると、ゲスで意地悪な本性を露わにするのか。自分を「首都星防衛隊」に左遷したのだって、サラティーが指揮官の狼藉の末に妊娠、流産したのを隠す為にやった仕打ちではないか。

 立派な軍人なんていない。居るのは優れた軍人か無能な軍人かのどちらかだ。それでも、サラティー・サラドが戦姫としてここに居る理由は、体よく「追い出し部屋」に放り込んだ上層部に対する嫌がらせである。しかし、こんな形で最前線送りにされるとは思わなかった。ここでひたすら使う見込みも無い剣を研くだけの日々とはおさらばである。

 どうせ戦姫として産まれたからには、戦場に出たい。そこで戦功の1つや2つもあげてみせれば、自分をここまでコケにした上層部への嫌がらせにもなる。


 セルドア・マークベルク大統領は、この月にて何度目か、否、何十度目かの会議の席にて、繰り返し言う。

「惑星テラースは何としても奪還しなければならない。この際、犠牲はやむを得ない。何か妙案は無いのか」

 大統領以下閣僚全員が「未経験」の役職に就いている戦時内閣であったが、それでも海千山千の政界に1度足を踏み入れた者達である。何か気の利いた事の1つでも口に出来はしないのか。

 ……出来ないらしい。そう思った直後に、会計庁長官が手をあげて発言する。

「軍隊というのは保有しているだけでも金がかかります。金だけではありません、本来国家の運営に携わるべき国民も、徴兵と言う形で前線に放り込まなければなりません。元軍人であった大統領閣下にはおわかりの筈です」

「だからこそ、犠牲覚悟で攻めるべきだと言っている。必要とあらば、私自ら前線に指揮官として出るつもりだ」

「あのですね、閣下。私は経済の話をしているわけでして、精神論は」

「では逆に問うが、このまま惑星テラースを連中に握られ続けて睨み合うままに任せていている内に、我が国は何もしないままに傍観者たれと言うのか。それこそ不経済ではないか」

「では、どうするのですか。何か妙案でもあるのか」

 セルドア・マークベルク大統領の胸の内で、何かが弾けた。よろしい、妙案と呼べるかどうかは分からないが、ここは1つ、こちらのアイデアをぶつけてやろうでは無いか。


王光貞中将とサラティー・サラド・王戦姫少尉の夫婦は、別にぎこちない感じでもなく、毎日を平凡に過ごしていた。お見合い結婚というか、政略結婚に近い形での婚姻であったが、それでもお互いに嫌な感じになっていないと言うのは人間関係にて大事な事であった。

「あれから、半年かぁ」

 光貞中将は思わず呟く。あの敵のプライドを粉々に打ち砕いた第一次テラース攻防戦から既に半年、開拓暦145年7月22日にもなるのに、敵はさしたる動き無し。しかし、あのままで終わりにはしないだろう。

こちらも、あの時のままでは無い。テラース方面軍は当初よりも3倍の戦力を揃えており、これを何時でも、何処でも、動かす事が出来た。簡単には動揺しようの無い状況である。

 しかし、王光貞中将は確信していた。敵は必ず反撃に出る。それも、これまでに無く壮大な構想でもって、こちらの度肝を抜こうとしてくるはずだ。

 ……いや、度肝なんて抜こうとはしないだろう。もっと楽して勝とうとする筈だ。作戦にしても、味方が付いてこれる簡単な内容にするだろう。

 作戦班の連中も、自分の配下に赴任する前は堅苦しい軍人であった筈なのに、今はテニスコートでラケットを振っている。他にも、限定的ではあるが酒類も許可している。

 人間の能力は、フィジカルだろうとメンタルだろうと限界があるから、幾らかは遊びが無いと機能不全を起こして斃れてしまう。その王光貞中将のたっての提案に、軍上層部が折れた格好である。本当はサッカーにしたかったのだが、怪我のリスクを指摘されて、仕方が無くテニスにしていた。


「……こちら沖那波宇宙軍司令部。王中将、聞いているか」

「はい、感度良好であります。敵ですか?」

「ああ、しかし、凄い「量」だ。あれを相手にするのは骨が折れるぞ」

「ざっとこちらの1.5倍と言ったところですかね」

「いや、2倍近いと言う報告だ。連中、偽装工作も箝口令も敷かずに、堂々と自分達の艦隊の出撃している光景を見せつけてきた。余程自信があるらしい」

「今度ばかりは、楽をさせてはくれなさそうですね」

「次のサッカーリーグを観戦したければ、せいぜい努力したまえ」


 通話を終えた王光貞中将は、サラディー・サラド・王戦姫少尉に顔を向けて云う。

「これから忙しくなる。作戦班に集合の命令を出してくれ。休暇は終わりだ」

 それは、第二次テラース攻防戦の始まりを告げるゴングであった。


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