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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第3章 北沖戦争篇
42/49

0042 失敗

「奇襲作戦大成功」

 の旨が、沖那波宇宙軍の作戦班に齎されたのは、その翌日のことであった。北海途の現職大統領は勿論、閣僚クラスの人間、更には与党のVIPまでも巻き込んで、全員仕留めたらしい。立案者の王光貞准将は、この戦功にて少将への昇進が決定していた。

 この一撃の後、沖那波宇宙軍は全面的攻勢に出る筈であったが、思っていた以上に北海途宇宙軍の建て直しは早く、双方の境界線に位置する惑星テラースへ向かった沖那波宇宙軍の目の前には、こちらとほぼ同数の軍勢が待ち構えていた。

 宇宙空間には地の利は無い。ただ広いだけの虚無の空間にて、逃げも隠れも出来ない戦場にて、同数の敵と戦うと言う事は、同数の、そして深刻な損害を受ける事を意味している。止むなく、沖那波宇宙軍は一時撤退、今後の戦略の練り直しを迫られていた。


 王光貞少将は、北海途の現大統領の情報を引き出して、これを確認していた。

「セルドア・マークベルク。20歳。北海途宇宙軍幼年学校を経て士官学校へ進学、シミュレーションにて当時学内にて最優秀の学生相手に完勝を演じる。父は「獅子王」と呼ばれていたマルスト・マークベルク元大統領。母は元「戦姫」」

 作戦班の面々は、その内容を聞いて、思わず唸る。20歳、20歳にして大統領! 何かの間違いでは無いかと思ったが、与党にしてみれば野党に隙を見せるくらいならば、「獅子」だろうが「狼」だろうが、その息子に引き継がせようという理屈は、まぁまぁ理解出来た。人間同士が作る組織を突き動かす力学は、こう言う理不尽を起こす事がよくある。

 王光貞少将は、他にも気になる問題があった。大統領の人選は分かっている。だが、その大統領を補佐する人材は、まだよく分かっていない。

「まぁ主役はその補佐役達だろう。幾ら士官学校で評判の優等生でも、20歳で大統領として権勢を振るうのには、まだ早すぎるからな。幾ら才能があっても、20歳ではなぁ」

「どんな宝石も磨かないと輝かない。そこで、職人が磨かなければ、原石は醜く切り刻まれてしまう」

 等々、色々な意見が飛び交ったが、王光貞少将は、これらの意見を一刀両断にする。

「この際、年齢は関係ありません。現に彼は良くやっています。その証拠に、混乱に乗じて攻め込もうとした我が軍とほぼ同数の軍を派遣して、これを阻止しています。この際、奇襲作戦はその本来の目的を達せられなかったという意味では、失敗したとみるべきでしょう」

 立案者自らが「失敗」と断じたのを見て、他の士官や佐官は、少しばかり顔色を変える。

「例え彼が直々に指示を出して居なくとも、下の者が付いていく様な器がなければ、こうも上手くは行きません。恐らく、敵は次の一手を我々と同様に検討しているでしょう」

 ……で、何が言いたい。

「我々は一刻も早く、それも可及的速やかに惑星テラースを占領すべきです。あの星は、日本と北海途の境界線に位置します。あの星は、また我々にとって最大の、そして最高の戦略的要衝となるでしょう。テラースを制するものが、この戦争に勝つのです」

 では、これから惑星テラースに攻め込むのか。未だに北海途宇宙軍が、あの宙域にて待機している筈だ。それをどう処理するのか。

「これは私の勘ですが、敵は既に撤退しているでしょう。そうでなければ、これから奪還作戦を行うべきです。この戦争の中心地もまた、あの惑星になったのだとすれば、犠牲は仕方がありません」

 出来れば、君の勘の通りになってほしいものだ。

「全くです」

 

 セルドア・マークベルク大統領は、自分の父がかつて座っていた椅子に腰を深く下ろしながら、与党が用意した閣僚達と共に北海途を運営していたが、毎日が緊張と不安の日々であった。主だった人材は全て宇宙の塵と化して、今は青年議員か老議員しか居ない。それでも、与党からの要請に応じずに、自らが推している人材を置いたのは、北海途宇宙軍最高指揮官ことゼハーダンテ・カッシュ、通称「ダンテの大将」である。

 「ダンテの大将」は、政権中枢が皆殺しになった後で、何かと混乱しがちな現場を押さえて、なんとか敵の奇襲成功からの全面侵攻という事態を避けられたのは、彼のお陰である。セルドア大統領もまた、これを全面的に支持・信頼しており、他の閣僚達はそれについて行くのみであった。

 セルドア大統領は、戦時内閣大統領として、行うべき事は幾らでもあった。軍・民・官の三つ巴の主張・要望・要求に対して、間に立って色々と便宜をはかるのだが、これがなかなか骨身に堪える仕事であった。何でこんな事しなくちゃならないのか。

 しかし、分かった事がある。それは、士官学校にて学んだ戦術論は半分が不要で、残る半分は有害であると言う事実だ。未来の軍師を育てて国家百年の大計を練る。言葉にすれば何とも壮大で格好良い。だがそれだけだ。軍師の最大にして唯一の役割は、兵站の確保だけである。富国強兵と言う通り、「強兵」より先に「富国」があるのだから、当然である。

 しかし、何とも面倒な話なのだろうか。大統領、ひいては人の上に立つ仕事と言うのを、セルドア・マークベルク大統領は呪い始めていた。こんな思いをする様な仕事であれば、軍人だって選択肢から外していたかも知れない。報われる事少なく、苦労する事多大である。

 毎日、毎日、書類に目を通す、「採用」か「不採用」かのスタンプをおす。あるいはサインを書く。その膨大かつ退屈で、だからこそ重要で大事なプロセスを、彼は完璧な理性でもって取り仕切っていた。

 党が用意した閣僚達は、その能力の限りの仕事をしてはくれている。ゼハーダンテ・カッシュ最高司令官もまた、浮き足立っている軍を纏めてくれている。それでも、誰か代わってくれないだろうか。そんな想いを引き摺りながら、彼はひたすら政務に携わっていた。

 そこへ、突然この間まで大学生だった大統領補佐官が早足で執務室に入ってきて、報告を述べる。聞き終えたセルドア大統領は、早速ダンテことゼハーダンテ・カッシュ宇宙軍最高指揮官に連絡を取る。


「ダンテ、敵が動いたぞ。惑星テラースに残してきた観測隊が、こちらに向かってくる沖那波宇宙軍を確認した」

「何としても阻止しなければなりません。惑星テラースを制するものは、この戦争を制します」

「それで、宇宙軍に骨折ってもらいたい。惑星テラースが奪われる前に……ちょっと待って」

「はっ」

「……最悪な事態となった。既に惑星テラースは敵の手に落ちたらしい。観測隊は降伏したらしいが、抵抗を試みた警備隊が、這う這うの体で逃げてきたらしい」

「どうにも敵も打つ手が早いですね」

「仕方が無い、相手があってこその戦争だからな。さて、どう戦い抜くか」


 本当、誰かに代わってくれれば、どれだけ楽な事か。セルドア・マークベルク大統領は、頭を抱えつつダンテとの通話をきる。


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