0037(第2章 完) 宇宙の曙
「人は何の為に生きている、なんで人は死ぬ」
マリスト・テレストラ戦姫軍曹は、この衛星軌道でも、胸に手を置いて考え続ける。もう対物ライフルのトリガーを引く指が疲れてしまった。今日だけで、一体何人殺したのは分からない。それは敵の生き残りも同じだろう。
人は何の為に生きる、何で人は死ぬ。この光景を見れば、誰もがその「運命」について考え直す筈だ。今までそんな事の繰り返しである。人は生きている限り、その問いに辿り着けないのだろうか。
いや、そんなの有り得ない。自分の運命について、答えは本人が一番分かりきっている。分かっているけど、現実でやれているのか、やれていないのかの差に過ぎないが、その差と言うのは天と地ほどに離れている。
27カ国対30カ国の戦いは、開拓暦78年8月1日に、惑星テラースの衛星軌道上にて行われた。世に言う「第三次衛星防衛戦」と呼ばれる、決戦計画「DECIDE YOUR DESTINY」に投入された兵力の数はほぼ互角。攻撃衛星や偵察衛星、それに軌道エレベーターまで拵えようとする「宇宙統一機構・日本」に対して、これに反発する「反日本同盟」の一大決戦である。
日本は防御一択にて敵が来るのを待ち、反日本は攻撃一択にて攻撃衛星に目がけて攻める。分かり易い攻守関係にあった。「防御優位」の法則が、この新しい戦場でも機能するのかどうかは分からなかった。
マリスト・テレストラ戦姫軍曹は、支給された対物ライフルを構えて、もう狙う必要が無いくらいに互いに密集している戦場にて、一撃目を撃ち放つ。全軍に攻撃を命じる信号弾である。
この世にもし「地獄」と呼べる場所があるとすれば、この時、それは間違いなくこの衛星軌道上に存在していた。お互いに戦術の正解が分かっている今、最終的に「運命」が選ぶ相手は単純な数であるが、それは互角である。
まだ宇宙での戦争の仕方が確立されていなかったこの時代にて、マニュアル無き戦いを制するのは、「士気」、モラールであった。
戦姫が対物ライフルで敵を砕き、機甲が俊敏な動きでショットガンやリボルバーを撃ち放ち、巨神がその巨体で扱うのに相応しいサイズのカタパルトでもって巨大な矢を撃ち放つ。日本は衛星を守る為に、反日本は衛星を破壊する為に、お互いに撃ち合う。
マリスト・テレストラ戦姫軍曹は、1撃目の信号弾の後は、敵に向けて実弾を撃ち放っていた。弾倉1つにつき、大口径のライフル弾は10発。予備の弾倉も後方から続々と補給されてくるから、敵も味方も遠慮無しに撃ち放っていく。
弾倉一個目で今現在のこの戦況の異常さが骨身に堪えて、弾倉二個目で感覚が麻痺してきて、弾倉三個目で周囲には味方の骸がデブリと一緒に流れてきて、弾倉四個目でもう戦場には数える程の敵と味方しか見えなくなり、弾倉五個目を使い切る前に、お互いに戦線を維持するのが物質的に困難になって、自動的に「決戦」は終了。大方の予想通りの結末、戦死七割、生存三割と言う形で終わっていた。しかし、「反日本同盟」は主目標である「宇宙統一機構・日本」の攻撃衛星及び偵察衛星の破壊には失敗、ここに人類史上初めての宇宙戦争は終わりを告げた。
終わって良いのか。いや、これはこれで終わりだろう。こちらも大勢死んだが、相手も同じくらいに死んでいる。正直、マリスト・テレストラ戦姫軍曹は自分が運命の魔の手から逃れられたのは、単なる偶然に過ぎないと言う気分であった。そのくらいに損耗率は著しく高い。視界360度、敵味方の残骸がデブリである。その内の半分以上が、これから大気圏に突入して燃え尽き始めている。その内の更に半分が宇宙を永遠に彷徨う。残る半分の内、幾らかはワープゲートと宇宙ステーションにまで届く可能性があった。事前に告知してあるので、ちゃんと対応してくれればワープゲートへの被害は発生しない筈である。あまりにも量が多すぎて対応できない、と言う最悪の状況さえなければ。
どのみち、この「宇宙統一戦争」は終わりだ。又同じ物量を揃えるのに必要な時間と費用と人的資源を考えると、もう仕舞い時である。
「「運命」、これも、「運命」なのかな」
マリスト・テレストラ戦姫軍曹は、目の前の惨状を見ながら、そう呟く。彼にとって、「運命」とは何なのか。また腰を据えて考え直さなければならない。
次の戦争が来る前に。
第三章へ続く




