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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第2章 統一戦争篇
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0036 名前負け

 「反日本同盟」。

 駄目だ。どうしても「宇宙統一機構・日本」に対して名前負けしている。それに、「日本」に勝った後でどんな社会を作り上げるのか。それについても何ら答えとして示せていない。

 今日の事態を作り上げた「近江」の国の実質的指導者、カリスタ・サマーズ内政大臣は、もしそれが意図的であれば天才的な政治家であり、偶然であったとしても大した策士である。

 名前の時点で負けている「反日本同盟」なんぞで、勝てるのか。「日本」は外宇宙に出て行く為のビジョンを示して、その為の政策や施策についても言及している。これに打ち勝つのには、もっとキャッチーでインパクトのある思想が必要である。「王制」? いやいや、それは古すぎる。「帝国」? 似た様なレベルである。

 ……だからこそ、「反日本同盟」で通すしかない。


 30カ国の「軍」を代表する作戦士官や佐官、それに基地司令官クラスの将官も集まる、惑星テラースの西海洋を航海する双胴戦艦「冥々」の作戦指揮室は、投票によって首班に選ばれた作戦中佐、「大和」の国のヴェッタ・ムッターツカは、不承不承と言う表情にて結論を告げる。

「我々の同盟の名称については、矢張り「反日本同盟」しかない。「日本」に対して名前負けしているのは、皆も感じていると思う。だから、その為に我々はここで集まっている。「戦後」のビジョンについて、考えなければならない」

 このヴェッタ作戦中佐が首班に選ばれた理由はただ1つ、他国と同盟を結ばないまま、惑星テラースにて中立地帯を作り上げていた国だからに他ならない。「大和」の国の基地があるのは、「南ソメリト大陸」の内陸部である。他の国も同大陸に基地を構えていたが、これまでに1度だって争い事は無かった。

「「戦後」、「戦後」と君達は言うがね、その前に我々は「決戦」に勝たなければならない。「日本」は、積極的に決戦計画「D・Y・D」について宣伝している。戦わずして勝つ手は、もはや無い」

 よもや、この戦争に「負ける」と言うのではないか。そう言うニュアンスも含めた上で言い放つのは、「三河」の国のサラージュ・ヴァン・レジェスト大将である。

「状況の主導権は、完全に敵の掌中にある。「D・Y・D」に対して、受けて立つしかない。現時点では、それしか手はない。「反日本同盟」だとか言う名前については、この際、拘る必要は無い。敵が企図した決戦計画に対して、こちらにはそれしか打つ手がない。しかも、戦場は衛星軌道、伏兵も背水の陣もゲリラ戦も出来ない。小手先の作戦なんて通じない。「運命」のみぞ知る展開となる。そうなった場合、我々はとんでもない損失を被るに違いない。無論、「日本」も同じ程度の損害を被ることになるだろうが、連中が今建造中の軌道エレベーターや増設している攻撃衛星や偵察衛星が機能し始めたら、我々は地べたに這いつくばって祈るしか無いんだぞ」

 ああ、なる程。先日のこの部屋にて行われた会議の議題、「日本」が大胆不敵にも仕掛けてきた「決戦計画」についてのシミュレーションの結果について言っているのだな。


 双胴戦艦「冥々」の作戦指揮室にて、「日本」の仕掛けてきた「決戦計画」について、真っ正面からぶつかり合った場合についての図面演習が行われたが、それにより導き出された結果が、あんまりな内容だったのだ。

 真っ正面からぶつかり合った場合、お互いに生存率は三割程度、他の七割は戦死すると言う衝撃の結果が出ていた。いや、こんなのは衝撃でも何でも無い。最初から分かりきっていた結果ではないか。身を隠す手段の無い衛星軌道にて、ほぼ同数の物量がぶつかり合えば、こんな結果になるのは分かりきっていた。

 しかも、「日本」軍の作戦班は余程頭のキレる情報屋が居るのか、衛星軌道での決戦計画「DECIDE YOUR DESTINY」を行う、と言う宣伝だけを流布するばかりで、どれだけの戦力を揃えたのか、何時始めるのか、具体的な作戦はどうするのか、と言った肝心な情報を巧妙に伏せており、諜報活動に置いても主導権を握られていた。


 衛星軌道での戦いは、宇宙空間でのそれよりも面倒なアクロバットは必要とされていない。仮にその問題が解決されたとしても、身を隠す手段の無い宇宙空間での戦いは、その際に発生する犠牲についても考えなければならない、喫緊の問題である。

 それについて効果的な対策が取られない限り、この「決戦」に付き合う必要は無い。サラージュ・ヴァン・レジェスト大将の言わんとする所はそこである。それは降伏宣言に近い位置に立つ考えであったが、このまま68国がてんでバラバラで動いたとしても、より外の宇宙へと開拓の道を延ばすのには、リーダーが必要である。それを決める為に戦争しているのだが、宇宙空間での戦いは面倒が多く、戦争にならない。だからこその衛星軌道での戦いとなったのだが、それはそれで面倒事も常についてまわる。

 であれば、ここは手を引くべきではないか。会議室がその方向に流れ始めた時、「武蔵」の国の下管田之雁麿作戦大尉は、食ってかかる。

「この決戦、受けて立たねばなりません。でなければ、我々は戦わずして負ける事になります。いつの世でも、究極の力とは戦わずして勝つ抑止力、しかしその抑止力を行使できるのは勝利者のみです。我々が戦わずして負ければ、無論、敵は今後も抑止力を持ち続けることになります。どんな結末になろうとも、戦わなければならないのです」

「それはね、君、敵の思う壺だよ。最初からそのつもりで、連中は宣伝しているんだ。誘いに乗って戦い、7割の損失をお互いに被って、残るのは護衛された攻撃衛星だけだ。それって要するに「負ける」って事だぞ。良いのか、負けて」

 戦わずして負けるか。あるいは戦って負けるか。究極の選択である。軍人としては、最悪な2択である。どっちも選ばないで済ませられる事は出来ない。

「なるべく早く、そしてなるべく多くの戦力を集めて、我々も運命を掴むべきです。敵が体勢を整える前に、急いで戦うべきです。数の上では互角、戦場は衛星軌道、作戦は無意味、となれば、巧遅よりも拙速です。敵が纏まる前に攻めるべきです」

 作戦指揮室の空気は、鉛のように重たくなっていく。それでも、下管田之雁麿作戦中尉は食らい付いていく。

「やりましょう、早ければ早い程良いんです。やりましょう!」

 どうする? 分が悪いな。こんな事で、日本に勝てるのか。いや、向こうだって衛星軌道での戦いは犠牲ばっかり多くて得る事少ないと知った上での「決戦」だからな。こっちには不利な条件が多すぎる。せめて戦場が地に足付けての戦いであれば、もう少し工夫のしようがあるのだが。

 やってみなくちゃ分からない。なんていい加減な理由では、兵は動かせない。そもそも戦争なんて始めてもいけない。そんな思い上がりが判断の元になってはいけないのだ。これまでそんな理由で戦争を始めて勝った国は一国だってない。それが格好良く見えるのはプロパガンダの結果に過ぎない。

 「反日本同盟」の面々は、難しい表情を浮かべる。あの雁麿作戦中尉の言う事は、まるっきり強がりであるわけではない。有効な主張ではある。

「やりましょう! 何もしないのが一番の悪手です、やるんです!」

 鉛の様な空気を溶かすほどの熱は、その部屋にはなかったが、結論としてはその方向でいかざるを得なかった。さて、「運命」はどちらを祝福するのか。


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