0035 決戦計画 その2
惑星「近江」。その緑と青い色に魔改造された星の隣には、衛星「カツワキ」がある。その衛星にある基地に、この日集められた「宇宙統一機構・日本」に参画を表明した作戦士官及び佐官は、27カ国の53人。他の41カ国の中で、「反日本」を表明しているのは30カ国、残る11カ国はまだ自身のスタンスについてハッキリしていない。
今の所、数の上ではほぼ互角。つまり、今の所の宇宙は半分に割れている。理想的な情勢だ。これで3分の1とか、最悪二桁まで行かなかった場合は、絶望的な状況であった。「近江」の行政の方も、この数が集まるかどうかはギャンブルであった筈だ。今の所は、「日本」の代表はその最初の発案者たる「近江」であったが、勝負が決まり次第、次のトップは選挙で決まる。
その前に、戦場として設定された惑星「テラース」での衛星軌道にて、一戦交えなければなるまい。惑星「テラース」での衛星軌道の支配権を得られた方が勝つ。一戦して勝ったら、惑星の制空権は根本的な部分から勝者側の掌中に入る。
次の一戦が、この戦争の「決戦」となるのは、その場に居た作戦士官や佐官は、誰もがその可能性を感じ取っていた。「近江」の代表と副代表して選ばれたのは、鞍弐之光子作戦大佐と織田之真之介作戦大尉である。光子作戦大佐は、一階級の昇進については大して喜びもせず、かと言って怒りもしない。それは真之介作戦大尉も同じであった。昇進の理由については、中佐と中尉のままでは、ここまで責任のある立場に就任させられない。と言ったところである。
衛星軌道が人類に残された最後の戦場であり、そこで初めて戦場らしい状況を作り上げて、歴史に名の残る事は確定している両者は、今回の「決戦計画」について一言、ズバリ言い放つ。
「予備兵力だけを残して、総力をあげて、真っ正面から小細工無しでぶつかるしかない」
光子作戦大佐の言葉に、他の51人はその言葉については、あまり大きな意義は唱えないままに受け止める。27対30では、どう足掻いても作戦で戦力差を引っくり返したり、小細工を労して戦況を変えたりする事が出来る数字ではない。ましてや、次の戦場は地の利なんてこれっぽっちも無い衛星軌道と言う環境、伏兵も背水の陣もゲリラ戦も何も出来ない。初めから真っ正面から叩くしかない。馬謖の如く山の頂上に布陣してウッカリ負ける様な失敗すら許さない環境だ。
後は、もう数を揃えるしかやる事が無い。敵の3倍の戦力さえ揃えれば作戦なんて要らない、と言った奴が居たとか居なかったとか。兎に角、今すぐに全力で準備して、今すぐに行動しなければならない。残る11カ国が何時までも中立を守るとは思えない。「決戦」するのであれば、すぐにやるべきである。この際は、この場にて決めるべき事は、この「決戦計画」に参画するかどうか、異論・反論があるのかどうかを確認する事だけである。
「近江」の2人以外の51人、全員が沈黙して、その問いに答える。異論・反論無し。即ち、全員この「計画」に賛成しているのだ。鞍弐之光子作戦大佐は、それを知って改めて言う。
「では、今すぐ動員できる数がどれだけあるのか。教えてもらいましょうか。ついでに、全軍を束ねる作戦班の人事も決定しておきたい。階級や「国」は問わずに、ここに居る53人の中から、それを選び出したい。トップは班長1人、他は5、6人の分野別の士官のみ。これ以上は多すぎる」
これは意外だな。今度は、誰もがそう顔の表情に現す。「近江」のこの2人が、班長と副班長でポストを埋めて、他にオマケが5,6人というのなら分かるのだが。政治家に先んじて、ここで選挙でもしろというのか。
「さぁ、選びましょう。ここに居る53人の中から1人、先ずはリーダーたる班長から決めるわよ」
そんなの、この場の流れでは決まっているじゃないか。全会一致にて、鞍弐之光子作戦大佐が班長に選ばれ、その傘下に入り、作戦班として艦隊の旗艦にて乗り込み、作戦指揮を行うのが、戦闘部門に織田之真之介作戦大尉、兵站部門にアベンダス・カラキュラ作戦中尉、情報部門にナビ・タクマル作戦大尉、通信部門にヒスター・ライフ・カニング作戦少佐、広報部門に天童之彰作戦大尉。方針は決まり、役者は揃い、舞台もほぼ整った。この「日本」艦隊作戦班がどうするべきか、ほぼ決まった時、彰作戦大尉は班長たる光子作戦大佐に尋ねる。
「この決戦計画、何か名前を付けて、大々的にマスコミに発表したいと思っております」
他の作戦班は、顔を顰めるが、すぐに表情を元に戻す。
「衛星軌道で大艦隊を揃えて一大決戦をするんだ。今更、マスコミに情報を伏せても、敵はとっくの昔に気が付いている。ここに27カ国の軍の代表が集まった事だって、把握している筈だ。であれば、今は全力をあげて一大キャンペーンを行い、次の一戦にて決戦とする、もしこれをスルーしたら即ち「負け」であると言う流れを作らなければならない」
この説明に、他の面子は理解を示していた。確かに、広報担当としてはそう言う話になる。後は、情報部門としては何処まで知らせて良くて、何処まで伏せるべきかを決めてもらうだけだ。
「「宇宙統一機構・日本」の「運命」を決める戦い。「DECIDE YOUR DESTINY」、「D・Y・D」なんてどうですか」
天童之彰作戦大尉は、かなり自信満々で薦めてきていた。鞍弐之光子作戦大佐は、あまり良い顔はしていない。それでも、このフレーズしかないと思ったのか、あるいはこの議論にて時間を使いたくなかったのか、アッサリと決めた。
「決戦計画「D・Y・D」。まぁ、良いんじゃないのかしら。市民向けに分かり易いフレーズを使えば、支持も得やすいでしょう」
運命を決めろ。宣伝文句としてはそこそこかも知れない。だが、2択しかない運命を選べと他人に迫るのは、軍人以前の問題として気が引けるものがあった。運命を決めろ。いや、決められる運命があるだけで幸せである。世の中には理不尽な運命を最初から背負わされている人間が、幾らでもいる。
「選べる運命がある。選ばなければならない運命がある。「DECIDE YOUR DESTINY」。運命を決めろ」
数日後に、「日本」の惑星各地の広告スペースを埋め尽くしたこの煽り文句は、それ自体が背水の陣でもあった。これで負けたら、もうその時点でこちらの運命も決まるのだ。
退路を断つ。肉を切らせて骨を断つ。最大の敵は自分。幾らでも、何とでも言える。だが、この時に27カ国の国民が感じていたのは、今回のスポークスマンは良い謳い文句を思いついたもんだと言う醒めた感触であった。
宣伝文句だの政府広報だの、広報と言うのは、否、大概の商いでも、嘘とハッタリ、盛った話と言うのは幾らでもある。裁判の場でさえ人間と言うのは素直に喋ろうとはしないのだから、軍広報なんて言うのはご都合主義の自画自賛に満ちている。運命を決めろだってよ。はっ、そんなのはお前らが考えるべきであろう、その為に軍事費として税金納めているんだからな。当たり前に仕事しろ。




