0031 試行錯誤
「無茶苦茶だよ、こんなの」
彼はそう言った。そう、無茶苦茶だ。こんな結末、一体誰が予想しただろうか。戦う前からある程度、覚悟していた結末であるが、こうして形になって現れると、この「宇宙統一戦争」と呼ばれる戦争が、如何な結末に終わるのかを雄弁に語っていた。
敵は双胴戦艦3隻、こちらは6隻。巨神は6対12、機甲は17対29、戦姫は30対54。場所は衛星軌道。目的は攻撃衛星や偵察衛星の破壊と護衛。お互いに、衛星軌道にて戦う事を前提にした武器ではなかったが、部分的な改装を行って投入した。
巨神はその巨体を生かして、双胴戦艦の矛となり盾となる、筈だったが、衛星軌道とは言え重力はない。だからこそ、足の裏に磁石を仕込んで、双胴戦艦の甲板に足がつくようにした。
それは問題なく機能した。筋肉と特殊金属の塊の全高20メートルの巨神は、それでも的にしかならなかった。「被害担当」と言わんばかりに、機甲のポンプアクションのショットガンから撃ち出されるスラング弾で滅多打ちにされて、致命傷は避けられたが、暫くは使い物にはなりそうにない。
では、機甲が「攻撃担当」になれたのかと言うと、そうでもない。無重力空間での発砲の反動を抑えるべく、発砲の度にスラスターを噴かせる改装をしていたのだが、固形燃料を用いるそれはあっと言う間に燃料切れとなり、所持している弾薬の半分も使わない内に姿勢制御が困難となって双胴戦艦に帰還していった。
結局、「攻撃担当」は「戦姫」のみであったが、「戦姫」の主な得物は剣や槍、斧と言った近接戦闘用で、巨神は勿論、機甲だってギリギリ勝てるかどうかである。双胴戦艦を相手にした場合は何をか言わんやである。自然と、お互いに「攻撃手段」をなくして撤退、かくして「宇宙統一戦争」の一戦目は終わりを告げた。お互いに撃ち合った弾丸は「巨神」の胴体に突き刺さるだけで、デブリも問題になるほど発生しなかったのは、もっけの幸いであった。
織田之真之介作戦中尉と鞍弐之光子作戦中佐は、「近江」軍の戦いぶりを見て、同じ言葉を頭に浮かべていた。
「勇敢だった、ただそれだけだった」
兎に角、もっと武器や戦法を巧い事考えないと、このままでは戦争にならない。衛星軌道でしか戦えないと言うのは本当であるが、これまで地上用として開発してきた技術を、宇宙用に切り替えなければならない。
0からどうにかするのは、時間が足りない。「-1」を「1」にするくらいの工夫が必要であった。「巨神」も「機甲」も「戦姫」も、全部「-1」からやり直しだ。
光子作戦中佐は言う。
「「戦姫」の得物をもっと大きくするしかないわね。「機甲」のスラスターについては、燃料の問題さえ解決すればどうにかなる。問題は「巨神」よ。あいつらにも武器を持たせるの? だとしたら、大きすぎて使い物にならないわよ」
真之介作戦中尉はこう返す。
「それらも「-1」から造るのですか? それではやっぱり時間切れになります。既存の装備でやり繰りするしかないですよ」
「では、どうするの? 軍用にはないわよ、そんな装備」
「軍用にはありませんが、民生品にはあるかもしれません。いえ、あります。使いやすくて、値段も手頃で、丈夫で長持ちする奴が幾らでもあるでしょう」
「武器についてはどうするの?」
「対物ライフルって、知っていますか」
「ああ、あのゲテモノ兵器ね。それを使えというの?」
「あれなら、「機甲」の装甲も貫けます。他の得物があるとすれば、対「機甲」ランチャーも使えれば使えます」
「「巨神」は」
「カタパルトで弓矢を撃ち出します」
光子作戦中佐は、少しばかり、否、大いに舌を巻いていた。ここまで徹底的に考えられるのは、普段からずっとこの可能性を考えてきたからである。真之介作戦中尉、こいつはとんでもなく先見性を持っているか、あるいはアイデアマンの変態なのか。
織田之真之介作戦中尉は、改めて告げる。
「これらの物品、装備、全部リストアップして本星に至急取り寄せましょう。今すぐに」
宇宙68カ国の内の1つ、「武蔵」。北ソメリト大陸に基地を構えており、同じく惑星テラースの領地にて隣接する「飛騨」「山城」とは同盟関係にある。
下菅田之雁麿作戦大尉は、観測所から撮影していた、最初の「宇宙戦闘」の映像を、一堂に会した作戦士官や佐官に見せる。誰もが、唸るか、呻くか、それでも目は画面から背けずに見つめていた。
「もう地上戦での大規模衝突は国力の消耗以外の意味はない。かと言って宇宙空間での戦争はリスクが大きすぎる。残された最後の手段が衛星軌道上での制空権の奪い合いですが、それでもこの体たらく。兎に角、武器が、新しい武器が必要になります。1から、いえ、0からのスタートになりますが」
「急ぐ必要がある。このままでは、「近江」「播磨」「尾張」「薩摩」に遅れをとります」
「しかし、0から造るとして、設計から製造に至るまで、どれだけかかる。下手したら、戦争が終わるまで間に合わないぞ」
「そうだと思って、一番手っ取り早い方法を考案しました。こう言う時こそ、温故知新です。「巨神」「機甲」「戦姫」、全員それぞれ同じ得物をそれぞれのサイズに合わせて用意します。レーザーブレードで全軍の武器を統一してしまえば、早く・安く・多く造れます」
「接近戦をするのか? 全軍で」
「飛び道具で効果があるかどうかは分かりません」
「敵も同じ結論に至ると思うか?」
「それはまだ分かりませんが、実際に戦ったのですから、当然戦法も戦術も切り替えるでしょう。我々よりも柔軟に、そして徹底的に切り替えるつもりでもあります」
「やるからにはとことんやれ、か。よろしい、やりたまえ」
無論、「安房」国でも、この戦闘結果は重く受け止められていた。犠牲が出なかったから良かったものの、アベンダス・カラキュラ作戦中尉の降等・左遷さえも可能性として浮上したが、積極的な姿勢は崩さないままに反省はしているらしい本人の態度を受けて、厳重注意という形で決着はついていた。
エスコートの松下之佐知美戦姫曹長は、一応相手には心配していたが、何があっても「力」に対する信仰だけは捨てないだろうとは思っていて、それは事実であった。
しかし、作戦班での立ち位置はかなり悪くなり、積極的な姿勢ではあるが、周りに遠慮はし始めていた。そこが面白くてたまらない。どうしてこうも人間って奴は、アベンダス・カラキュラ作戦中尉という人間は面白いのか。一言で纏めれば、こいつは可愛い男だ。
「無茶苦茶だ。こんなの」
「近江」軍務省のトップである軍務大臣、ヘルベッド・タスクは、惑星テラースから連絡船にて届けられた要請書を読んで、頭を抱えていた。衛星軌道上での制空権の奪い合いしか戦争をする手段は無い。と言う結論は理解出来るし、その最初の一戦が無惨な形になるのも覚悟はしていたのだが、予想外からの結末と、その解決方法と必要な物資が、そこには記されていた。こんな事で、戦争になるのだろうか。そして、勝てるのだろうか。
兎に角、今は要請書にリストアップされた物品を調達して、惑星テラースに送り込まなければならない。それが自分の仕事である。




