0030 開戦
膠着状態が続く。何故か。宇宙に広がった68国の軍部が、皆同じ結論に至っていたからだ。
戦争できない!
すれば経済破滅の末に人類滅亡!
戦場を惑星テラースに限定しても結論は同じ!
されど戦争しなければならない!
68国の行政部も、同じ様に頭を痛めていた。宇宙空間での艦隊決戦や空中戦が不可能であるのも、全68国が同じく至った結論である。
そこで、一足先を見据えた結論に至ったのが、「近江」軍の2人、織田之真之介作戦中尉と、鞍弐之光子作戦中佐であった。別に2人が協同でやった訳ではなく、奇しくも同じ結論に至ったタイミングが同時であっただけである。
「私達のこれまでの議論は間違っていたわ。この惑星テラースを支配下に置くのに、地上の支配のみを問題にし続けていたけど、まだもう1つ、誰も手を出していない「戦場」がある」
「「地上」と「宇宙」の間、衛星軌道。ここならば、デブリは軌道を回り続けるか、あるいは重力に引かれて落ちていくか。「地上」でのウォーゲームよりも、効率も良ければ影響力も大きい」
「万が一、重力を振り切って宇宙に放り出されたデブリがあったとしても、この太陽系のワープゲートと宇宙ステーションに届く前に回収する様に告知しておけば良い」
「では、具体的に衛星軌道を抑える事の意味については、「制空権」を握る以上の意味がある事は言うまでもないわね。最後の補給線があるとすれば、それはこの「宇宙」から「地上」までの間、そこに攻撃衛星なり宇宙戦艦なりを配置すれば、「地上」からの攻撃も、「宇宙」からの補給船も、全部阻止出来る」
「衛星軌道を制するのは究極の制空権の奪取です。これならば、デブリの問題もそこまで大きくはならない。惑星テラースは、元々住民も少ない辺境の惑星ですから、幾ら軌道上にデブリが大量発生しても、最悪の場合は後で大々的に処理してしまえば済む話です」
「次の戦場は、「宇宙」ではありますが、衛星軌道です。こうしなければ、戦場を何処へ置くのか、と言う議論に終始するだけです」
双胴戦艦「烏丸」の作戦指揮室にて、織田之真之介作戦中尉と鞍弐之光子作戦中佐、2人は自分達が至った同じ結論を説明しながら、お互いに相手に対する殺意を抱いていた。奇しくも同じ結論に至ったのだが、「一番」をとられた、あるいは「同着」となったのが、2人とも嫌で嫌でたまらない様であった。
それでも、作戦班の面子の間には、納得の空気が流れ始めていた。最初にてその場を支配していたのは、諦観と茫然自失が綯い交ぜになった感情であったが、最後まで話を聞いた末に、彼らは決意していた。
「……うん、うん、そうか、それで戦えるんだな……ああ、ああ、分かった。そこであれば、まだ戦争は出来るんだな……なんだ、喜ぶのは筋違い?……まぁ、確かにその通りだ。だが、こちらが気が付かなければ、他の誰かが先にそうしていただけだ。オリジナリティなんて、つまらんよ……それで、既存の双胴戦艦であれば、衛星軌道での戦闘は可能なのだな……そうか、機甲も巨神も使えるのか。戦姫はどうだ……そうか、何とかなったか……分かった。ワープゲートと宇宙ステーションには、こちらが通告しておく……分かった、勇者の如く斃れよ」
「近江」軍の動きは速かった。いの一番に衛星軌道へと続々と衛星や双胴戦艦を送り込み始めた。他の勢力のリアクションは、「まさか」ではなく「矢張り」であった。誰もが、その可能性について論議を始めようとしていた頃合いであったのだが、先に気が付いて行動をとられたのは、何処の国も思いは同じであった。「矢張り」、誰かが気が付くであろうとは思っていたが、「近江」が先であったか。そして、先に惑星テラースの衛星軌道を抑えた方が勝てる。そこに気が付くとは、余程の優秀な奴か、あるいはとんでもない変人か。
しかし、急がなければならない。急いで阻止しなければ。だが、本当にそれで良いのか。このまま戦争にならないままで居られれば。いや、そうなったら、この惑星テラースに置ける勢力争いにて敗れると言う事は、即ち宇宙での覇権争いにて敗れると言う事だ。それだけは何としても避けたい。
先手必勝と言わんばかりに、先に攻撃を加えたのは「安房」軍であった。「安房」軍の作戦班の一員であり、積極的な作戦案を提示する事で知られるアベンダス・カラキュラ作戦中尉は、矢張りその積極的な姿勢から、衛星軌道に向けて双胴戦艦「鞠音」以下2隻の1個艦隊を差し向けていた。
150年続いた平和な時代が終わる。これまでの膠着状態は、全て終わる。さて、どうなるのやら。当初の予測通り、本当に全人類滅亡までやりきるのか。あるいは、今まで通り、適当な所で手打ちとするのか。どちらにせよ、もう流血沙汰は避けられない。ここから先は、生きるか死ぬかの世界だ。
惑星テラースから宇宙への侵出を促したのは、「N財団」と呼ばれる富豪の創った団体であった。初めての人工衛星の打ち上げから、初の有人飛行の成功、そして宇宙ステーション、太陽系に並ぶ星々へと調査に赴いて、もっと遠く、もっと先へ、もっと未来へと、進み続けていた。それから暦も「開拓暦」へと改めて、超空間移動技術を手に入れて、ワープゲートで星と星を繋げて、68もの有人惑星が存在している。
人類発祥の星、惑星テラースの衛星軌道にて、ロマンに満ちた宇宙時代は終わりを告げる。その現場となるのが、人類発祥の星であると言うのは、最大級の皮肉であった。
双胴戦艦「烏丸」の戦闘艦橋にて、織田之真之介作戦中尉と鞍弐之光子作戦中佐は、これからここで繰り広げられる血で血を洗う戦争が始まるのだ。果たして、それが上手く行くのか、あるいは想定の範囲外の結果が残るのか。
こちらが守るのは、昨日までにこの軌道に配置した攻撃衛星と偵察衛星、こちらの戦力は2個艦隊である。どちらが勝つか、いや、その前に、この新戦場における戦いは、これまでご先祖様達が経験したあらゆる戦闘とは異なる環境で行われる。そんな所で、ちゃんと戦争が出来るのか。
無茶苦茶になるかも知れない。いや、なる。2人は確信していた。この戦い、無茶苦茶な展開が待っている。




