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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第2章 統一戦争篇
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0029 最高の2人

 鞍弐之光子作戦中佐は、「人類史上最高の軍事的発明」と言われているアクリル板にて造った作戦図を叩いて言う。

「端から喰らっていけば良いわけではないわね。そうするのには、惑星テラースは広すぎる。国も多すぎる。同盟を結ぶ予定の「尾張」「播磨」「薩摩」とも、最後の最後には戦う羽目になるでしょうね」

 テラースの全大陸を扱っている作戦図に、光子作戦中佐はマジックペンを取りだして、矢印を何本か描いてみる。

「北へと行くか、西へ進むか、南に行くか、東で行くか。何処へ行っても敵だらけ。これでは作戦なんて立てようが無いわね」

「……何が言いたい」

「今の段階で作戦だの条件だの、考えようがないって言うのよ。地政学的条件を云々言ったところで、惑星テラースはそれを言うには微妙な広さだからね。加えて、もう兵站や補給でもって勝ち目は左右されない」

 光子作戦中佐は、アスラン大陸の図を叩きながら言う。

「「播磨」の基地は、広大な聖華大陸の内の東半分を手にしている。我が国、「近江」の基地は旧レイド・サム諸島にある。「尾張」は東南アスラン大陸、「薩摩」はオーデルランド諸島を抑えている。大海洋はもう暫くは私達のバスタブとして使える」

「北ソメリト大陸を抑えている「武蔵」は、どう出るでしょうか。それに、「薩摩」より南にあるテラース最小の大陸であるゾーミィテイング大陸に居る「日向」も、南ソメリト大陸からも侵攻してくれば」

 言えば言うほど、沼にはまっていく様である。そうと悟るまで待ってから、光子作戦中佐は言う。

「兵站・補給は問題外、であるからには経済規模は皆同等、であれば勝負をつけるのはどれだけ同盟国を増やせるかだけど、取引材料は今の所何一つ無し。これじゃあ戦争にならないわね」

 鞍弐之光子作戦中佐は、言いたい事を全部言い終えると、議論に一区切りつける言葉を投げかける。

「これでも、戦争が成立すると思う人は?」

「ある」


 その場に居た作戦士官、及び作戦佐官は、その声の方向に目を向ける。こいつも確か、「独善が過ぎる」として作戦班にて鼻つまみ者になっている作戦中尉、織田之真之介である。鞍弐之光子作戦中佐は、その挑戦を受けて立つように言う。

「では、その根拠は?」

「兵站・補給・経済規模が全国同一規模だと言ったが、だからと言って無限の出兵や出費に耐え抜ける筈が無い。消耗を続ければ、何処かしらで限界が来て、手を引かざるを得なくなる状況が出来る」

「それでは、この戦争、長くかかるわよ」

「それが狙いだ。長い戦争なんて、誰も望んでいない。誰の得にもならない。だから、仕舞い時に1番を取っていれば、そいつが勝者となる」

「そんな理屈で戦争を続けていたら、人類滅亡まで続ける事になるわよ。誰が好き好んで「負け」を認めると言うのよ」

「そう言う国には滅びてもらう。出兵と出費に耐えきれなくなって国家運命が出来なくなって滅びる。別に珍しい事例では無いでしょう。歴史を紐解けば、そんな事ばかりだったでしょう」

「その条件が厳しすぎるというのよ、兵站も補給も断ち切れないのよ」

「でも、実際に戦えば死人が出る、武器も弾丸も消費する、何かしらの物資を消耗する。敗北を重ねていけば、その内に限界が来る」

「負ければ、宇宙での覇権を失う。そんな事を受け入れられる人間が居るの?」

「「飢え」と「死」を受け入れる人間は居ません。居たとしても、そいつは隠れて食っているか逃げて生き延びるのに決まっている。「飢え」と「死」を前にすれば、人間はどんな強がりも出来なくなる。勝ち続ける事こそが、究極の「通商破壊戦」、よって「防御優位」の法則も変わります」

「あんた、さっきから私の主張に対してアンチテーゼを示しているだけで、問題の解決にこれっぽっちも寄与していないじゃない」

「貴官の意見にアンチテーゼを示すだけで、何がどういけないのですか」

「それじゃあ、問題の根本的解決にならないと言うのよ」

「根本的解決に至っていないのは、そっちの意見も同じじゃないですか。この戦争の行く末は人類滅亡だから、戦うのにも戦えないというのは」

「それが事実だから、仕方が無いじゃない」

「仕方が無いって、そんな適当な結論で良いのですか」

 これ以上は喧嘩になると判断した他の作戦士官や佐官が、止めに入っていく。まぁまぁお互いに言いたい事が言い尽くしたのであれば、それを書面にして結論として司令部に送れば良いではないか。お二人の意見は充分に理解出来たので、我々の手で書面として纏め上げるので、お二方はお休みになられては如何でしょうか。


「全く、とんでもない奴等だ。真之介作戦中尉も、光子作戦中佐も、どちらも1歩も引かなかったな」

「だけど、嘘もついていません。それに、他の国々も」

「同じ結論になると、そう言うのかね。全く、我々は完璧な社会を造ったというのに、今後はそれが足枷になって戦争が出来なくなるとは」

「良い世界を造ったのではありませんか。では、何で我々はそんな世界でまた戦争をしているのでしょうか」

「そいつも含めての、あの二人の問答だ。これから報告書として纏めるぞ。あの2人には、もう暫くは暇になってもらおう」

「……案外、相性の良い2人かも知れませんね」

「2人? 織田之真之介作戦中尉と、鞍弐之光子作戦中佐がか?」

「光子作戦中佐が積極的な意見を言うのに対して、真之介作戦中尉が添削を行うというのは、どちらか独りが指揮を執るよりは理想的な環境ではないでしょうか」

「ボケとツッコミの様な関係か」

「どちらかが滑っても、相方がネタにして持ち直せば、その舞台は何とかなります」

「周りは疲れるがな」

「良いではないですか、それが我々の役割です」


 この時の「近江」軍の双胴戦艦「烏丸」の作戦指揮室にて行われた議論とその結論は、そのままコピペした状態で他の67国の会議室にて展開されていた。

 兵站・補給・経済は全国で一律互角、ワープゲートを壊せば自分の首も絞めてしまう。となれば、補給戦の概念は失われる。後に待つのは、どちらかが消耗し尽くすまで続く長期戦であるが、そんな災害に人類社会が耐え抜けるのか。自信はなかった。

 戦争そのものを止める事は出来ないか。と言う議論も出たが、この膨張しきった人類社会で、船頭無き船が外宇宙にでていく事は出来ない。誰が船頭になるべきか、決めなければならない。


 マリスト・テレストラ戦姫軍曹は、デスクトップのコンピュータでひたすらシミュレーションを行っている上官の背中をじっと見ていた。こうなると、もう誰の手にも止められない。 一度火がついたら、その身体が灰になるまで燃え続ける事になる。自分のエスコート相手に対して、マリスト戦姫軍曹は思う。これが、あなたの選んだ運命であれば、俺も自分の選んだ運命に忠実になる。

 あの時の会話、マリスト・テレストラ戦姫軍曹は一時たりとも忘れた事は無い。運命について。人生について。織田之真之介作戦中尉の言葉は、彼の心に深い爪痕を残していた。運命の為に生きるのではなく、生きる為に運命を選ぶ。そうであれば、自分もまたその運命に生きよう。


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