0021 ドラゴン殺し
「こいつはやべぇぞ。今すぐグレイス島の合衆国軍司令部に報告だ」
「……すげぇ、あんな船、初めて見た。いや、SFとかで少しばかり出て来たけど、現実にする馬鹿がいるとは」
「しかも、こんなに大勢、ゾロゾロと来るとはな」
「何処へ行くつもりだ」
「そんなの決まっているだろう、メソイド諸島のグレイス島だ。艦隊の規模からすると、一撃加えてさようなら、にはならないな。永続的に占領するのが目的だ」
「……大丈夫でしょうか」
「そうだな、こっちはまだ合衆国軍に統合して間もないからな」
「いや、それは敵も同じですけど。それ以上に心配なのは、作戦班はグレイス島防衛の手立てを考えた事があるんでしょうか。硫酸島とか、聖華大陸とか、そっちの方へ攻め込む計画ばっかり相談していて、こちらが攻め込まれるリスクについては何処まで心配しているのか、分かった物ではないです」
「それは確かにそうだが、そんなの俺達が言っても仕方が無いだろう。作戦を考えるのは「作戦士官」の仕事で、実行するかどうか決めるのは「指揮官」の仕事だ。俺達しがない偵察チームがとやかく言ってもなぁ」
「……動画に日付つけて、グレイス島に送信中です」
「ご苦労。さて、今度は攻守交代だ。レイド・サムの聯合艦隊が勝つか、あるいはこっちの合衆国軍が勝つか」
「引き分けにはならないですかね」
「無理だな。ハンマーを振りかざしながら突っ込んできている相手を前にして、お前、逃げられると思うか」
その時、合衆国軍全軍を激震が襲う。この200年、いや、建国以来初めての事態である。自国の領土に向けて兵を進めてくる国が現れたのだ。特に大海洋軍司令部の衝撃は大きかった。
「こちらは「戦闘指揮艦」が8隻だけ。連中は、双胴船が11隻だぞ! 単純計算でも双胴船はこちらの艦の2倍の積載量だから、22隻分ではないか!」
双胴船。そう、レイド・サムの差し向けた聯合艦隊の陣容は、同じ型のタンカー船やコンテナ船を2隻並べて、後部にて巨大な艦橋部分をはめ込んで一体化させた双胴船であった。見た目は格好悪い、操艦も困難であろう、しかし、1隻当たりで載せてある戦力は単純計算でこちらの「戦闘指揮艦」の2倍である。それが11隻も存在している。
ラブ・バッティス中将とグラント・バッティス中将は、険しい表情を浮かべつつ、右往左往する作戦班の中で、2人だけ冷静に作戦図を睨み付けている作戦士官を見つける。
「メイ・サイザーランド作戦中尉と、マイル・エレメスト作戦中尉には、何か策があるようね」
「勤務時間外に戦闘指揮所の設備を使っていたのは、この時の為かな」
バッティス双子の言葉に、メイ作戦中尉とマイル作戦中尉は顔を向ける。先に口を開いたのはメイ作戦中尉であった。
「大海洋艦隊の主力である3隻の空母亡き今、この島を守れるのは8隻の「戦闘指揮艦」を母艦とする戦姫、機甲、巨神だけです。1万トン級駆逐艦は、別に使い途があるので今回、戦力としてカウントする訳にはいきません」
「別の使い途、と言うと」
「避難民を乗せた船団の護衛です」
「では、負けるというのかしら」
「双胴船11隻、どう言う形で使うつもりなのかは分かりません。しかし、敵もまた駆逐艦や空母は連れてきていません。「渇」のシーレーン警護の為に使う事が出来なかったのでしょう」
メイ作戦中尉に続いて、マイル作戦中尉が戦闘指揮所のアクリル板の作戦図にペンで敵艦隊を意味する矢印を書き加えて言う。
「であれば、単純計算で数が多い方が勝ちます」
「では、我々が負けると言うのか」
「そうでは無いわね」
牧村ケイコ戦姫少将は、旗艦「埜沢」の戦闘指揮所に集めた作戦班に対して言い放つ。
「船の数ではこちらが上でも、人員面では遙かに劣勢よ」
ケイコ戦姫少将は、アクリル板で出来た作戦図の1点、グレイス島を指で突きながら言う。
「グレイス島にいる基地守備隊の戦姫、機甲、巨神で戦力を補充しながら戦えば、こちらの戦力と同等か、あるいは若干有利な形で戦える」
「艦隊決戦に持ち込まなければ、勝てないというのですか」
「その上で、グレイス島を包囲下に置いて降伏勧告を出すと?」
2人の作戦士官の言葉に、ケイコ戦姫少将は首を横に振る。
「連中は援軍が期待できる。私達には援軍はない。地上戦や市街戦も望む所よ。その為に犠牲覚悟でここまで来たんだから、当たり前でしょう」
作戦班の間に、不穏な空気が流れる。地上戦や市街戦、大凡の人間はそこにポジティブなイメージを抱かない。その空気を感じ取ったケイコ戦姫少将は断言する。
「グレイス島が非戦闘員の血で汚れようともここを取りに行く。で無ければ、今すぐレイド・サムに帰りなさい」
「その危険を避ける為に、今すぐに住民の避難誘導を行うべきです。勝てれば全て解決出来るのですが、現状では勝つか負けるかは神のみぞ知るところです。レイド・サムの聯合艦隊は、戦闘中に民間人が前を横切ったら銃口を下ろすような間抜けではありません」
「今から、間に合うのか」
グラント・バッティス中将の質問に、マイル作戦中尉は答える。
「既に必要な船舶、航空機は確保してあります。駆逐艦の護衛があれば、船舶の安全は確保されます。航空機についても、旅客機は勿論、輸送機も総動員すれば、大丈夫です」
「猶予は、どのくらいかしら」
ラブ・バッティス中将は、自分で言った質問に、すぐに自分で答えていた。
「いえ、一刻もないわね。今すぐ手配して」
山之神ゴロク作戦大尉は、ケイコ戦姫少将に対して質問する。
「もし避難中の民間船や航空機と鉢合わせになったら、どうしますか」
「盾にされる前に殺しなさい。もし盾にされたとしても、敵兵も諸共に殺しなさい」
「ドラゴン殺し」の通り名が示す様に、牧村ケイコ戦姫少将は容赦なく言い放つ。それを見て、この場に居合わせた作戦士官は、自分達の司令官がどう言う気質の人間なのか、理解するのに至ったのである。
こいつは、ドラゴン相手にも怯まずに剣を振るう勇者だ。但し、囚われた姫には興味が無い勇者である。そんなの勇者と呼んでも良いのかどうかは分からないが、ドラゴンを前にして、姫の生死に関わらずに相手を仕留めようとするのは、矢張り「勇者」と言うよりは「ドラゴン殺し」である。
ネイサル・サモタージュ大統領は、アッシュハウスの大統領執務室にてその報告を聞いて、思わず椅子から立ち上がってしまう。まさか、そこまで事態は悪化していたのか。ネイサル大統領は、即座に命じる。
「絶対に民間人を避難させるな! 軍に対する威信、政府に対する信頼、二重の背信行為だぞ! 私の目の青い内は絶対に許さん!」
大統領補佐官も、報告に来た紛争省の作戦士官も、戸惑いが浮かぶ。それは、勝てば許されるかも知れないが、負けた場合はとんでもない状況に陥るに違いない。確かに、軍にとって最大の背信行為は「敗北」であるが、有権者の代表たる大統領のこの言葉を外に持ち込んだら、有権者は一体どんな反応を返すだろうか。あんまり良い印象は持たれまい、と言う思いだけは一致していた。
祖松田ヒトシ総理大臣の前に現れる前に、松友マキオ事務次官は髭を剃り、顔を洗い、首相官邸を訪れる。
「大海洋を出撃したこちらの聯合艦隊が、ソメリト合衆国軍に発見されたそうだ。メディアがこぞってニュースにしている」
「今からならば、敵が体勢を整える時間は与えられていますな」
「どのくらいの犠牲が出るかな」
「恐らく、半分は生きて帰れないでしょう。ですが、あの「ドラゴン殺し」は戦うのを止めないです。「敵」と見れば、例え非戦闘員であろうと叩っ切るでしょう」
「そうと知って推したのか」
「はい」
「随分とハッキリ言うな。では、それで勝てるのか」
「はい」
「また随分とハッキリ言うな。そのくらいの自信が無ければ、防人庁長官の信頼は得られないな。宜しい、果報は寝て待て。君は「D・Y・D」の準備で徹夜続きだったんだろう。今の内に寝ておけ」
「では、お言葉に甘えて、これから眠りにいきます」




