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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第1章 解放戦争篇
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0019 鬼才

 惑星「テラース」にて最も広大な海、大海洋。その大海洋にて一際大きい島々がある。メソイド諸島と呼ばれる、ソメリト合衆国が世界に誇る軍事基地である。西から東に、大小4つの島々からなる島で、最も大きく、そして軍事的拠点が集中しているのが、かの有名な軍艦のオアシスとまで言われるダイヤモンド湾のある島、グレイス島である。

 このダイヤモンド湾の主、大海洋艦隊は、その主力である7万トン級空母3隻を喪失してからは、この港も寂しい光景を見せていたが、その大敗北の後に、次々と空船のコンテナ船が入ってきていた。よく見ると、細かい部分に手が入れられており、強力な無線設備、最新の軍事レーダー、VTOL機が駐機しているヘリポートも見受けられた。

 ダイヤモンド湾に続々と入港してきたその奇妙なコンテナ船のマストには、ソメリト合衆国軍旗がはためいている。れっきとした軍艦である。


「おうおう、あれが新しい合衆国軍の中枢を担う船か。「戦闘指揮艦」と言う名前も立派なものだ」

 あとは、訓練だな。マイル・エレメスト作戦中尉は、口には出さずに言う。今回、調達が間に合った「戦闘指揮艦」は8隻。これでどうやって硫酸島での戦いに勝利するのか。合衆国軍大海洋戦隊司令部の作戦班では、その為のシミュレーションが繰り返されているが、マイル作戦中尉にはそれがおかしいと突っ込んでしまう。

 硫酸島を占領すればレイド・サムが降伏すると言う確証は何処にも無い。むしろ本土決戦まで雪崩れ込んだとき、そしてそれで発生した損失と流血に、ソメリト合衆国は耐え抜けるのか。あの祖松田ヒトシ総理大臣の宣戦布告を聞けば、例え首都まで攻め込まれても抵抗を続けるつもりであろう。

 硫酸島を巡る二度にわたる戦いで、もう200年前の「テラース」最終戦争のドクトリンは通じない事が判明した。これから大急ぎで「戦闘指揮艦」を増やしたとしても、敵が同じ事をやるか、あるいはこちらより早く導入していたら、もう3回くらいはあの島で多大な出血を強いられることになる。

 それともう1つ、気に食わない事がある。レイド・サムから積極的に攻めてくる可能性を、誰も論じていない。こちらと同じ結論に至った場合、こちらはまだ8隻の「戦闘指揮艦」と、それらが扱える範囲での戦姫、巨神、機甲しか使えない。これがどれだけ危機的な状況なのか、分かっていない奴等ばかりだ。

 ラブ・バッティス中将とグラント・バッティス中将は、決して「やる気」が無い訳では無かろうが、急拵えの「戦闘指揮艦」8隻で何処まで出来るのか。当面はこれでやり繰りしなければならないと考えている。その考えや良し、ただ、敵がこちらの思い通りに動いてくれるとは思えない。もしかしたら、年末年始にはこのダイヤモンド湾が血で染まる可能性だって否定できない。

 マイル作戦中尉は、その提案を口にはしなかった。今言っても、相手にされないのは明らかである。物事にはタイミングがある。ここでウッカリ我慢しきれずに提案を出せば、「変人」のレッテルを貼られて、まともに意見も言えなくなるのだが。


「どうも、気に食わないですな」

 地上の司令部の戦闘指揮所にて議論を尽くしている作戦班の中にて、冷静にそう零すのはメイ・サイザーランド作戦中尉である。何が気に食わないのか、質問されてメイ作戦中尉は答える。

「何で我々は守る事よりも攻める事に、こうも霧中になっているのでしょうか。本官が分からないのはそこです。もう大海洋に置ける軍事バランスは完全に崩れています。ここで雁首揃えて、硫酸島攻略の為の作戦を考えるのは、如何にもまだ反省できていないと思ってしまいます」

 苛つく作戦班の参謀達から、とどのつまりを言えと言う声にならぬ声が聞こえてきたので、メイ作戦中尉はズバリ結論から言う。

「敵がこちらに攻めてくる可能性は考えないのですか。このメソイド諸島のグレイス島に全軍をぶつけてこられたら、我々はたったの8隻の「戦闘指揮艦」にて対処しなければなりません」

 そんな馬鹿な。と言う顔を浮かべる人間まで居るのが、メイ作戦中尉には信じられない。

「もう200年前のドクトリンは通じません。「海の王者」である巨大空母すら、費用対効果を考えたら「赤字」となる過去の遺物となっています。彼我の戦力比は東アスラン同盟を構築して、聖華大陸の3大軍閥を味方につけているレイド・サムの方が大きいとも言えるかも、いえ、大きいと断言できる状況にあります」


「……貴殿は、率直に物を言いすぎたな。その胆力は羨ましく思うよ。ただ、タイミングを間違えればこうなる」

「それで、本官が部屋を追い出された後は、どんな議論が行われていましたか」

「固定観念ほど怖ろしい代物はない、軍隊は特にそうだと思い知らされたよ。バッティス双子は頑張ってくれてはいるが、紛争省ではこちらの要求をボイコットする動きもあると言う」

「敵の思う壺です」

「だな、分かっているんだ、そんな事はとっくの昔に。しかし、合衆国軍の創立と6軍の統合事業をやり通せるのは、あのバッティス双子以外にいなかった」

「敵にも、同じ人材はいるのでしょうか。敵にも、「戦闘指揮艦」に準ずる船を大量に用意して来るというのは」

「当然、居ると見るべきですな。オリジナリティなんて信用してはいけませんからな。人間、何でも他人からの頂き物で出来上がっているのですから」

「ここも戦場になるでしょうか」

「それはまだ分かりませんな。但し、あの作戦班の面子で、それを懸念している奴は1人も居ない。それが最大の脅威となっている」

「クソ、もしこれで本当に攻め込んできたら、手も足もで無いままに負ける。何にも分かっていないんだから、あいつらは」

「と、言う事で。なんで本官が貴殿にここで声をかけたのか、理由を察してくれ」

「今後に備えて、何か打てる手でもあるのか」

「ある。俺達2人だけで、グレイス島の防衛作戦を立案するんだよ。空いた時間で、戦闘指揮所の設備を使ってな。軍規違反かもしれないが、知った事じゃ無い。このまま何もせずに手を拱いているよりマシだ」

「もし知られたら、さぞかし嫌われるでしょうな」

「上等だ。俺達は敗軍の将だぞ。今更後ろ指を刺されるのを怖れて生きていられるか」


 松友マキオ事務次官の「D・Y・D」の準備は、着々と進む筈が無かった。省庁からの反発は勿論、6軍からの反発も受けていたが、それでもマキオ事務次官の侵攻作戦のプランは、現在最も有効な策であるとは理解出来た。本当ならば、1から造るべき船も、タンカーやコンテナ船を民間から買い上げて改装中である。

「年内に戦争を終わらせる為だ」

 と言うのが、松友マキオ事務次官の口癖であった。もしこの冬までで戦争を打ち切らなければ、民間に流通している物資を統制、要するに配給制度にするほか無くなり、その時点にて有権者からの理解はどう足掻こうと得られない。200年前の最終戦争にて、レイド・サムの国民が味わった「飢え」と言う最悪の厄災が再び到来すれば、無条件降伏だって有り得る。

 祖松田ヒトシ総理大臣は、防人庁長官を呼びつけて、語り始める。

 ……我々はこの200年、戦争なんて経験してこなかった。語り部がみんな死んでも、その悲惨さだけは語り伝えていた。もしあの戦争に勝っていれば、と言う意味の無い妄想はもう良い。我々は現実で、今を生きている。だから、今勝つのだ。始まったからには、終わらせなければならない。

「了解しています」

 ……ならば、例の「D・Y・D」について、私が出来る事は何でもやろう。頼む。娘の分まで勝ってくれ。

「その言葉、百万の援軍よりも頼もしいです。勝ちます。御息女の御霊に誓って、出来る限りの事をやります、やらせて下さい」

 こいつは良い展開だ。文民の最高位からの支援を取り付けられた。これで政府筋で「D・Y・D」に対して文句を言う奴らはいなくなった。後は軍の方だが、この間、改装した例の船を見せたら、一斉に沈黙しているらしい。その船を見た長官自身も、我が目を疑う船であったが、あんな船を7隻も用意したのだから、大したものだ。

 後から聞いた話だが、例の「レイコ計画」ではあんな変態船は存在して居らず、完全に松友マキオ事務次官の独走が産み出した代物だったという。

 戦時急造と言う言い訳があったからこそ、実現した話であるが、もし平時であれば握り潰された構想である。松友マキオ事務次官は、次第に「鬼才」の異名を頂くようになっていた。



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