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DECIDE YOUR DESTINY  作者: 北村タマオ
第1章 解放戦争篇
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0017 より新しく より強く

レイド・サムの首都・大京は、次々と齎される「勝利」の報告については、あまり積極的に応援はしなかった。それよりも、日々の暮らしの中で「必需品」と言える、「米」「水」「石油」の3つのライフラインが途絶える可能性やその兆候については、神経質になっていた。レイド・サム海軍が「テラース」最終戦争にて民間人の生活を守らなかった前例は、国民に抜き難い不信感を植え付けていたし、それは事実であった。

 だからこそ、政治家と言う「狸」が必要なのである。軍官民と言う三つ首の化け物に対して、口八丁手八丁、ああ言えばこう言う、舌先三寸にて丸め込んで、妥協して頂くのが、理想の政治家である。どんなに動機が純粋で正義感に満ちていても、産まれてきたのが「英雄」という名の「独裁者」では確実に失敗する。動機が美しくても、やっている事が同じでも、醜い襲名争いが発生するのであれば、「皇帝」よりも「狸」の方が上手く行く。「狸」は話し合って決める。「皇帝」は流血でもって決める。


と、言う事で、山之神ゴロク作戦大尉、牛真田ミテル作戦少佐、北条ノリコ作戦中佐、タオ・リンナ作戦少佐、以下数名の作戦班の士官達は、この盛り上がりに欠ける世相にて、防人庁の長官室に呼びつけられていた。難しい表情を浮かべつつ、長官は言う。

「ああ、その、なんだ。このレポート、読ませて貰った。最初から最後まで。しかし、これはその、過激に過ぎる。特に陸海空の三軍からの反発は大きいだろうな。失業するか、あるいは合併吸収と言う形になる。それがこのレポートの真意なんだろう」

 明らかに、長官は嫌そうな顔をしている。それはこのレポートの欠点をして浮かべている表情ではなく、軍官民を相手に「狸」として立ち回らなければならない自分の立場を憂う表情であった。だからこそ、この場にて最も階級が高いノリコ作戦中佐が断言する。

「今すぐ防人庁がその総力をあげて、そのレポートについて議論して頂きたく存じます」

「あのね、君、いや、君達、この間の第二次硫酸島防衛戦で完勝したばかりじゃないか。なのに、機構改革なんて必要なのかい」

「絶対に必要です。何故なら、敵も今我々が提出したレポートと同じ内容のレポートを提出しているからです。そして、敵は必ずそのレポートを採用します。間違いありません」


「……第二次硫酸島防衛戦での我が軍の大敗について、その原因をあげられるとすれば、己の力を過信していた事です。既に聖華大陸の「渇」の機動部隊も無く、我が軍の大海洋艦隊の空母も無く、残るところはレイド・サムの機動部隊のみですが、これは現在「渇」のシーレーンの警護の為に活動中です。つまり、以前であれば「決戦兵器」とされた空母も戦闘機も居ないのです」

「以前の戦争より200年経った現代戦にて空母の作戦能力の低下が著しく進んだのは、ドローンや無人機の急速な進歩であるのは言うまでもありません。誘導兵器の進歩もそれに拍車をかけています。既に巨大空母に巨大な戦闘機を積み込んで巨大な爆弾を落として戦うのは、もう時代遅れであり、空飛ぶ大艦巨砲主義とも言えます」

「我が軍の今日の危機を招いたのは、200年前のドクトリンで戦ったのもそうですが、それ以上に自分の力の使い方を間違えていた点があげられます。陸海空に加えて、戦姫軍、機甲軍、巨神軍と徒にポストを増やしたのも、ただでさえ少ない予算と人的資源の奪い合いとなり、効率の悪い組織となっていました」

「本官、ラブ・バッティス中将は、これを機に6軍にまで膨れ上がった軍の組織を、1軍に纏め上げる必要があり、それをやるのは今しか無いと考えます。指揮系統も一本化し、兵站・装備調達・組織の改編。東アスラン同盟は勿論、「V・UNION」も同じ事を考えているでしょう」

「その為に必要なのは、予算でも無ければ人的資源でもなく、我々自身の意識の変革です」


 しかめっ面を浮かべて、敗軍の将を見つめるネイサル・サモタージュ大統領に対して、ラブ・バッティス中将はハッキリとした口調で言う。

「3隻の空母を沈められた本官の意見は、通りませんか?」

「いや、実際に戦った人間の意見だ。無碍にはしない。しかし、陸海空だけでなく、他の3軍も全部一纏めにするのか。それは過激な意見だ。アヴァンギャルドとも言える。しかし、問題が、大きすぎる問題がある。1軍に総まとめにしたとして、誰が司令官を担うのだ。それだけの人望と能力を持つ者がいるというのか? もしかして、君が自分でやると言うつもりでは無いのかね」

「敗軍の将には無理です。形式上の最高責任者であり司令官は、大統領閣下自身です」

「では、実戦部隊に推したい人物が居るのだな」

「はい、閣下。私の最後の仕事です」

「まだ早すぎるんじゃないのか。現場指揮官をこんなにも簡単にクビにしていたら、軍の人材は払底してしまうぞ」

「閣下、それでは私が死なせた部下達と、沈めた3隻の空母に申し訳が立ちません」

「それは君の個人的な感傷として受け止めさせて貰う。辞表も握り潰させて貰う。君はまだ必要な人材だ。6軍を1軍に圧縮するのには、過激なまでにドラスティックな神経と感覚が必要になる。それが出来るのは君しかいない。しかし、これが最後のチャンスだというのも忘れるなよ」

「分かっています。同じ失敗はしません。私はその為に、死なないでここまで来ました」


 ラブ・バッティス中将が退出した後で、アッシュハウスの大統領執務室に入ってきた男が1人、机の前に立っていた。

「グラント・バッティス少将、君は今日付で中将に昇進だ。双子で仲良くやりたまえ。君が常日頃提案していた「統合軍」創設が、これで大きく1歩前進した。提唱者である君がやるんだ」

 ルックスは良い。身体の体型も立派なものだ。しかし、「牛の目」と呼ばれる程に目がデカくて耽美な顔の作り、漫画に書いたら「美中年」にはなれる程度のルックスである。軍人としての能力は、誰よりも先に「統合軍」構想を提唱していたのだから、低い訳が無い。その先見性たるや、むしろ見事とも言えるのだ。

 しかし、グラント・バッティスは物事について常に横着しない。早い話が、人間関係を大事にしすぎて正論を通さなければならない場面で、異論・反論を言ってくる奴に押し切られてしまう場面が多々ある。だからこそ、あの胆力のある双子の姉が、弟の至らぬ点を補って押し通してくれれば良い。

「大統領閣下、姉は責任をとりたがっています」

「良いんだ、確かに我が国の保有する空母の3分の1を沈めた、大口叩きの無能者だ。我が国の製造業が空洞化している今、自力で新空母の建造なんぞ何年かかるか分からん」

「分かっているのであれば」

「しかしだ、ラブ中将の前任者を知っているだろう? 世界唯一の軍事大国を自称しておきながら、実体は「コネ」が無ければ昇進できない組織だ。その中で、君達双子はまだ使えそうな人材だ。責任感もあるからな」

「責任感ではありません。過去の事故が理由です」

「まぁ良いじゃないか、不幸自慢なんて君らしくも無い。この際だから、私は紛争省も含めて、このソメリト合衆国の軍事部門を根本的に作り替えようと思っている」

「それまで、閣下の大統領としての任期がもてば良いのですが」

「それまでの時間はある。海軍はその実体である艦隊の主戦力が3分の1、潰された。空軍も陸軍も、まだ戦局に貢献していない。戦姫軍と機甲軍、それに巨神軍も全部一纏めにするのに、今こそ邪魔が入らないというものだ」

 ネイサル・サモタージュ大統領は、陰で「もやし男」と呼ばれている体躯ではあるが、その中には確かに大統領としての器が感じられた。

「……しかし、「統合軍」と言うのは、どうも名前としてそこまでしっくりとこないな。もっと、響きの良い名前が必要だな」

「合衆国軍、では、矢張り駄目でしょうか」

「名前は何とでも呼べば良い。期待しているぞ」


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