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0010 剣を抜き矛をしごいて矢を放て

 霧の国。鉄の国。自由の国。革命の国。色々な国が存在する中で、何処も彼処も「自分の国が一番」と思いつつも、それでもお互いに拳を握り締めるところまでは来て、実際にそれを叩き付けるような真似はしなかった。それをして、実際に勝った国は、この惑星「テラース」にて一国だけだ。

 いまその「世界の王者」に対して、剣を抜き矛をしごき弓を射ようとする国々が、この大陸にも出始めていた。


 アスラン大陸より遙か西方に位置する大陸、かつては世界経済・文明社会・文化的活動の中心の位置にいたが、200年以上過去に遡り、ソメリト合衆国がダロス皇国、メリスト連邦王国、クァンサム共和国、ロッシナ連邦、名だたる国々を全て討ち破り、その経済と安全保障の全てを握り締めていた。

 その大陸の名は、ヴィクター。ソメリト合衆国の宗主国であり、400年前に独立を勝ち取った大陸が、西海洋を挟んで睨み合うように向き合っている。ダロス皇国が最後まで戦い抜いた末に、ソメリト合衆国の陸軍第8軍の司令官であるヘルツ・マツルト元帥が大統領代理として、ダロス皇国の皇帝が、自身の分身としている聖剣を差し出す形で無条件降伏を受け入れた上で戦争は終わり、合衆国暦が始まった。

 ダロス皇国は、皇国制度のみは生き長らえていたが、君臨すれどの統治せずの原則の下に、200年の間にヴィクター大陸の経済を引っ張り続け、クァンサム共和国が文化面で引っ張り、メリスト連邦王国は海路の確保にて引っ張り、ヴィクター大陸は「テラース」最終戦争の地獄絵図から見事に復興を果たしていた。

 そうなると、ヴィクター大陸としても思う所が出てくる。もうソメリト合衆国の「支配」と「安全保障」は必要ない。連中にはもうその力が無い。であれば、自分達で選んだレールの上を走りたい。自分達の運命を、自分達で決めたい。

 そんな雰囲気の中で、遂に東の果てのアスラン大陸にて島国レイド・サムが、ソメリト合衆国に対して戦死者第一号を出したとして宣戦布告、雪崩を打つように東アスラン同盟なる軍事同盟が成立、いつの間にかアスラン大陸の諸国はソックリそのまま、反ソメリト合衆国へと気運が流れていく。

 しかし、分からない。どちらに流れがあるのか。ソメリト合衆国は、聖華大陸にて「旱災港奇襲」で完全勝利をあげて、世界で三本の指に入る「渇」海軍の機動部隊を討ち滅ぼしてしまった。ここから先、また合衆国の時代が更に200年続くのか。あるいは、その終止符が打たれるのか。分からない。ここで選んだ運命次第で、今後200年の歴史が変わってくるのだ。

 ダロス皇国の首相は、そのカオスな空気が渦巻くヴィクター大陸にて、合同会議を呼びかけた。表向きは、「経済対策会議」と銘打っていたが、どう見てもソメリト合衆国との関係を決める会議だ。それでも、クァンサム共和国、メリスト連邦王国、ロッシナ共和国の各首脳陣がダロス皇国の首相官邸の地下シェルターにある会議室に集められていた。そろそろハッキリとさせるべきだ。どちらが滅びるべきか。


 ゼルビラサンス・テスター首相は、他の3国の指導者を相手に、結論から開口一番、言い放つ。

「弓は引き絞られた、もう矢は飛んで行くのみだ。飛んだ矢が、鷲の身体を貫けるかどうかは、もう明らかだ」

 ゼルビラサンス首相は、断言する。

「鷲は負ける。東アスラン同盟と同様の軍事同盟を、我々も作るべきだ。我々はこの200年の間に、力を蓄えた。ソメリト合衆国から投資を呼び込んで、社会インフラを整えて、軍事力もそれなりに揃えてきた。今後の200年を賭けて、戦うべきだ。ここで古い王国に媚び諂えば、我々は今後は勿論、未来永劫表舞台に立つことは出来なくなる」

「……貴国には、2本目の聖剣があると言うのですか。もう一度戦って負けてしまえば、今度は聖剣どころではすまないですぞ」

「皇帝に執政権はありません。ですが、今後もソメリト合衆国との主従関係を200年続けたとして、まだヴィクター大陸が発展し続けているのかは、いや、この際ハッキリ言おう。このまま老いさらばえた鷲の背に乗って空を飛んでいたら、太陽に近づきすぎて身体が燃えてしまうぞ」

「蝋で固めた鷲ですか、それは。言いたい事は分かりますが」

 ゼルビラサンス首相は、自分の意志が伝わったとして、更に畳みかける。

「我々は未来の勝利者の側に立つべきです。産業は勿論、軍事力も空洞化が進み、デカい図体の割には中身がスカスカの老王国にこれ以上媚びを売る必要は無いのです。既に「力」が失われているのです。「力」の無い奴がトップに居る訳にはいかないのです」

「勝ち目は、あるのですか。東アスラン大陸と通じ合って共同作戦を取ろうにも、距離が離れすぎていて、共闘が難しいのではないか」

「そんな必要は無いのです。ソメリト合衆国に2正面作戦を強いて、いや、強いられるかも知れない、と思わせるだけでも構いません。最大の目的は、ソメリト合衆国の動揺を誘う」

「もし動揺しないで受けて立ってきたら?」

「正々堂々と戦いましょう」

「貴殿のそれは、幼稚なヒロイズムではありませんか」

「幼稚なヒロイズムで結構ではありませんか。もう国民の間では、ソメリト合衆国に対する反感、不満、怒りは日々を追うごとに大きくなり続けています。ここで我々が折れたら、有権者はより過激な政党へと投票して当選し、改めて剣を向けるだけです。理由として充分ではありませんか」

「しかし、それしか選択肢がないというのか。他に平和的な外交交渉による解決の道筋は立てられないのか」

「ありません。連中がその道を断ち切りました。レイド・サムや聖華大陸との戦闘行為を通じて、ソメリト合衆国は一貫して「恫喝」や「挑発」の一線を踏み越えて「武力」に訴えたやり口を見せました。我々に対しても、同じ態度に出ないとどうして言い切れますか」


 十重二十重の防衛システムに囲まれた地下シェルターの中で、「狸」と「狐」の化かし合いが繰り返される。果たして、結論が出るのか。いや、最初から答えは決まりきっている。ただ、その答えを確かめ合うように、地下での会談は深夜に至るまで話が続けられて、彼らは「V・UNION」と言う軍事同盟を超えた同盟関係の構築を宣言していた。

 「狸」と「狐」は、お互いに気が済むまで化かし合った末に、メディアの前では「騎士」になって見せていた。「騎士」は聖剣を手に取り、老いた王国に挑まんとしていた。



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