あの日から今日までの事
ユリアから語られたあの事件の後の顛末は、とてもここの領主の娘として過ごしてきた私にとって、耳を疑いたくなるような内容だった。
お父様の葬儀を終え、領主の会合が首都で行われた際に誰がメロディアを引き継ぐかという議題が出た時、真っ先に手を上げたのはお父様と昔からの親友だったアレクシス・ランヴェール侯爵様が手を上げたが、既に広大な領地を任されており他貴族から流石に負担が大きいのではないか?と指摘された後、手を上げたのがハイデロット・ゾンターク伯爵だったらしい。
ゾンターク家の跡取りとして、経験を積ませるいい機会だと良い息子のエリュガーを後任に推薦し、言い分としては特に反発する要素も無かったので、話は進み決定がなされた。
結果として、エリュガーの独裁が始まり高い税と暇つぶしに難癖をつけられて暴行される領民たちが出て来るようになり、次第に以前の活気は無くなっていったのだという。
「……私たちが愛した土地を、民を……よくも」
話が進むにつれて怒りがこみ上げ、手が白くなる程に握り締め私は、自分でも驚くほどに低い声を出して呟いた。
「あの日お屋敷に居た家臣たちは何人か殺されてしまいましたが、先ほども言ったように私のように難を逃れて、なんとか日常を送っている者たちもおります。その中にはアレクシス様夫妻がお声をかけてくださって、あちらのお屋敷にお勤めさせていただいます。あの惨劇で心に傷を負ってしまった者も家を与えてくださってお世話になっている者もいます」
「そう……なのね。アレクシス様には布の事は伝えたの?」
「はい。私がそっと合間を見て相談したところ、今まで何度かお見かけしてきたお優しいお顔が酷く歪み絞り出すようなお声で『必ず、必ずお前たちの無念を晴らすと誓う。辛いだろうが、待っていてくれるか?』とおっしゃってくださいました」
ユリアはその時の光景を思い出したのか、再び嗚咽を堪えるように涙を流した。
「ユリア、私がここに来た事は一旦秘密にしておいてくれるかしら?生き残った家臣たちにもね」
「は、はい。それは勿論ですがアイナお嬢様は、これからどうされるおつもりですか?」
「アレクシス様に協力を仰ぎにいくわ。本当なら今すぐエリュガーもハイデロットも八つ裂きにしてやりたいけどね。それじゃダメなのよ、一部の貴族がこの国を腐らせてしまっているの。それを正すためにもちゃんと法廷に奴らを引きずり出して、正当な手段で裁かれる所を見せつけてないといけない」
私は立ち上がり、震えながら泣くユリアを子供をあやすように抱きしめる。
「必ず、ここを取り戻す。だからもうしばらく待っていてくれるかしら?」
「はい、はいっ!私はリーフェルト伯爵家にお仕えするメイドですから、いつまでもお待ちしております!」
再び泣き出してユリアが落ち着くまで頭を撫でてやり、泣き疲れたユリアをベッドに寝かせた。
私もソファに横になり目を閉じる。
『良かったな……まだ居てくれたではないか』
「ええ……本当は内心諦めていたけどこうして生きていてくれた……」
『あの者たちのためにも、成し遂げなければな』
「うん、絶対に取り戻すわ。このメロディアを、必ず」
私は頬を伝う涙をそのままに静かに眠りに落ちた。




