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活気が無くなった街、待ってくれていた人

 日が昇る前に村を出て、休憩を挟みつつ歩いて辿り着いた街の景色は、変わらず懐かしさを私に与えてくれたけれど、道行く人々はどこか不安を抱え皆暗い表情をしていた。


 いつもならこの時間は、広場で市場が開かれその傍の公園で、子供たちの笑い声が聞こえて来るような平和な景色が広がっていたはずなのに。


 「なによ……これ」


 いつもなら昼休憩に畑などから男たちが帰ってきて、笑い合いながら昼食を取っていたりしたはずの各所に設置されているベンチには誰も座っておらず、閑散としていた。


 「ここまで変わってしまったなんて……」


 私は逸る気持ちを抑えながら、何度も歩いた通りを進み、少しだけ小高い場所に建てられた我が家を見つめる。


 「あれが、私の家よ」

 『立派な屋敷だな、代々受け継がれてきた趣のある造りだ』

 「ええ、自慢の屋敷よ。それだけじゃないわ、家臣たちも皆素敵な人たちだった」

 

 外套を深く被った私は屋敷へと続く階段を、一歩一歩確かめるように上っていくと門番が二人、直立不動で待機していた。


 「止まれ、部外者は立ち入り禁止だ」

 「許可なくこの屋敷に近寄る事は許さん」


 冷徹な声で槍を目の前に突きつけられ、制止させられた私は立ち止まり門番の顔をちらりと見る。


 「……覚悟はしていたけれど、やはりもうあの頃の門番ではないわね」

 「なにをぼそぼそ喋っている。大人しく引き返せ、さもなくばこの場で刺し殺すぞ!」

 

 私は無言で元来た道を戻り屋敷から離れると、近くにあったベンチへ腰掛けてため息を吐いた。


 『大丈夫か、アイナ』

 「ええ、大丈夫よ。あの時屋敷中から悲鳴が聞こえたの、ずっと一緒に過ごしてきた大切な家臣たちの悲鳴が。でも、狙いは私たち家族だけで家臣たちはなんとか生き延びたり、それこそお金で口留めされていても構わない……生きているんじゃないかって……。でも、もう――」

 「嘘……そのお声……アイナ様っ!?」


 私のすぐ近くを通りがかった一人の女性は絶句した様子で、買い物かごを取り落として中身が散乱したまま私を見て固まっていた。


 「貴方は……ユリア!?」

 「ええ……ええ!そうです、貴方の傍付きメイドのユリアでございます!」


 ユリアは立ち上がった私を抱きしめ、声を震わせながら私との再会を涙ながらに喜んだ。


 「ここでは人目に付きます。私の家に」

 「分かったわ」


 ユリアに案内され、街の外れの一番家賃が安い区画に向かいユリアの借りている家に通された。


 「まずは、感極まって抱き着いてしまい申し訳ありませんでした。アイナ様」


 見本そのものの綺麗な礼で、謝罪してくるユリアに頭を上げるように言い、私が把握していないあの日の出来事から今までの経緯を聞くことにした。


 「あの時、私は丁度非番でして街に出て買い物をしておりました。そしてお屋敷に帰ろうと歩いていると大勢の方がお屋敷の方へ駆け出していき騒ぎになっていたのです。何事かと私も歩みを速めると聞こえて来る言葉に耳を疑い、お屋敷に戻り……あの光景を……」


 言葉を詰まらせるユリアのテーブルの上に組まれた手に、自分のを重ねると涙を流しながら薄く笑い、ユリアは続きを話し始めた。


 「私が見たのは、無残にも切り裂かれ瀕死のガレス様。自分自身が斬りつけられ血を流しながらも、必死に励まそうと呼びかける家臣の方々……そして屋敷の外では警護の方々の事切れた姿もあり、とてもひどい有り様でした」

 「賊の手がかりは、見つからなかったのかしら?」


 ユリアは苦しそうに、私の手を握り締めてきた。


 「ガレス様が最期に、『ヘレンとアイナを頼む』と言い残し旅立たれました。その後、お医者様がガレス様の手に千切れた布が握られているのに気づいて、私と同様に非番で難を逃れた家臣数人でそれを見た時、それがゾンターク侯爵家でよく使われている生地だと確信しました」

 「やはり……証拠というには決定打に欠け、法廷にこの件でゾンターク家を訴えるわけにもいかず、そうこうしてる間にお父様の後釜にエリュガーが据え置かれたというわけね」


 私の反応を見て、ユリアは立ち上がり跪いて頭を下げた。


 「私、ユリアはリーフェルト伯爵家に仕える身でありながら、わが身可愛さに逃げ延びのうのうと生き恥を晒してしまい申し訳ありませんでした!どのような罰もお受けいたします!もちろん、生き延びた家臣たちも同じ覚悟でございます!命じて頂ければ喜んで自害致します!!」

 「ユリア、やめて頂戴。今の私はただの小娘よ、そんな小娘に頭を下げないで」

 「し、しかし!」

 「そんな事より、あのバカ息子が来てからの事を聞きたいわ。ほら、お茶が冷めちゃったじゃない。新しいの淹れるから、その間に顔を洗って来なさいな」

 「も、申し訳ございません」


 私の有無を言わさぬ態度に、言われるがままユリアは洗面所に向かい顔を洗ってから席に戻り、私の淹れたお茶を一口啜って、息を吐いた。


 「落ち着いた?」

 「はい……ですが、アイナお嬢様……」

 「なに?まだ自害がどうとか言うの?そんなの命令する気も無いし、勝手に死ぬのも許さないわよ。今は私に話を聞かせて頂戴」

 「は、はい」


 ユリアは事件の後を話すため、一呼吸挟むと口を開いた。

 私自身も少し緊張し、身体に力を入れながらユリアの話を聞く姿勢を正した。

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