徐々に見えてきた変り果てた光景
いつも以上にパッと目が醒め、窓を見やればまだ日が薄っすらと明るくなり紫がかっていた。
『起きたか、アイナ』
「おはようイグナリス」
挨拶を交わし支度を済ませると、宿を階段を降り北側の門に向かう。
「あ、嘘……エレナ!?」
「お、おはようございますアイナさん」
門の傍でじっと立って待っていたエレナを見つけ、思わず声を上げ近づく。
「朝早いから別にいいよって言ったのに……」
「すすすいません!でも、やっぱり見送りをしたかったので……こんなに長い間お話してくれた人、久しぶりだったので……」
頬を掻きながらエレナは、困った顔で笑う。
「……しょうがないな。エレナはエレナでやらなきゃいけないことあるんだろうし、戻って一旦ちゃんと寝て、頭をすっきりさせてから仕事に入る事!わかった?」
「は、はい。ちゃんと寝ます!」
「よろしい。それじゃ……また!」
「は、はい!アイナさん、お元気で!」
小さい手を精一杯振って私が見えなくなるまで、見送り続けてくれたエレナに感謝しながら私は、暖かい気持ちを胸に抱きながら、更に北へ私の生まれ育ったメロディアに向かって歩みを進めた。
道中、再び乗り合わせの馬車などを使いつつ距離を稼ぎだいぶメロディアからほど近い小さい村に辿り着き、念のためフードを被って顔を隠してから宿を取って村を散策する。
「懐かしいわ……よくお父様が視察に行く時に駄々を捏ねて同行させてもらった村なのよ」
『ふむ……だが、村人たちの顔色が思わしくない気がするのだが』
イグナリスの言う通り、私が最後にこの村に立ち寄った頃からは数年経っているけれど、お父様の統治していた時は、あんな暗い顔をしていなかったはずだ。
だというのに、道行く人々はどこかやせ細り、やつれているようにしか見えない。子供たちもどこか元気が無くベンチに座ってぼうっとしてる子が多かった。
「みんな顔色が悪いわ……」
「あんた……旅人かい?」
声をかけてきたのは露店を開いている女店主だった。
「ええ、もうちょっと先にあるメロディアに行きたくて……」
「……そうかい。正直、前領主のガレス様が襲撃されてから後任になったハイデロット・ゾンターク侯爵の息子であるエリュガー様が治めるようになってから、税がきつくなってしまってね……客人をもてなすために回す予算が無くて、ここいらも廃れ始めているんだ……。露店は開いてはいるが昔はもっと色々売り出せたんだがね……ごめんよ」
申し訳なそうに語る女主人に、曖昧に返事をしてその場を後にした私は、宿に戻ってベッドの上に座り込んだ。
「お父様が民を思って一丸となって作り上げてきた領地が……領民たちがあんな苦しそうな顔で……」
傍付きの騎士たちからの制止も聞かず、自ら領民と一緒に田を耕して汗を流して笑い合っていたお父様の顔を誇らしい気持ちで見てきた私にとって、さきほどの女主人の話は腸が煮えくり返るものだった。
『ゾンタークとかいう貴族の息子はどうやらアンドレ―と同じ類らしいな』
「いえ、その父親のハイデロット様も同じよ……お父様とは、いつも税や領主としての在り方で口論になっていたとお母様や付き人から聞かされていたわ」
『お主の家を襲撃したのは、ゾンタークの手の者と言う事か?』
「確証はないけど、今の話を聞く限りその可能性は高いわね。けれど、証拠もないし首都の法廷に引きずり出すにしても、本人たちを連れ出さないと……」
『お主一人では辛いかもしれんが、我が力を貸せばそこらの護衛騎士ごとき造作もない。やるというなら我は喜んで手を貸そう』
顔を上げ、立てかけられたイグナリスを見る。
「今度は奴隷墜ちじゃ済まなくなるかも……それでもせっかくあの地獄から出てきたんだし、お父様とお母様の仇を取れるこの好機を逃す訳にはいかない。イグナリス、力を貸して」
『勿論だ』
私は決意を新たに、明日の早朝発つために荷物の確認を済ませ早々に横になった。




