久しぶりのふかふかベッド!!
更に数日エレナとの二人旅を続け、ついに私たちは首都ヴェルディアに辿り着いた。
「……お父様に小さい頃連れられて観光した以来ね……」
「アイナさん、すみません行かなければいけない所がありまして……そこで用事を済ませてから再度合流という形にしても良いですか?」
「ええ、構わないわ。ちょっとその前におすすめの宿って知ってるかしら。一旦今日は泊まって明日出発した方が時間的にも良いかなと思って」
「す、すいません。私あまり観光とかしたことなくて……人が大勢いる所苦手で……名所とか美味しいお店とかは……すみません」
申し訳なさそうに謝罪してくるエレナに、気にするなと告げて別れると正門の前に昼の鐘の鳴る頃に集合という事に決め解散した。
『この旅の道中、時折感じていたエレナの魔力は常人のそれとは比べ物にならない程の物だった。もしかすればあの娘……かなりの高名な魔術師なのかもしれんな』
「だとしても、私からみればただのあがり症で人見知りの可愛い女の子よ。気にしないわ」
宿探しをしながら活気溢れる城下町を歩いていく。
「小さい頃の記憶しか残ってないけど、あの頃よりももっと人が増えた気がするわ」
『エルヴァナとの貿易が活発になったらしいからな。アンドレ―がそんな話をしていた』
エルヴァナとは私たちが今いるサンヴェルディア王国から西に進み、海を渡った先にある群島にあるエルヴァナ諸島連合の事だ。
漁業と装飾品の生産と加工が盛んな国で、群島とは言っても領土はこちらの大陸に存在する国の2つか3つ分に相当し、軍事力もかなりの物で遠い昔に戦争を仕掛けてかなりの損害を出したことで和平条約が結ばれたと聞いている。
「そういえば聞いた事があったわ……お父様がお母様にプレゼントしていたのも確かエルヴァナ産の真珠のネックレスだったわ……懐かしいなぁ」
もう戻らない過去の出来事を、脳裏に思い浮かべながら当てもなく進んでいくと、豪華すぎず素朴な造りの宿が通りに一軒目に入ったので入ってみる。
「いらっしゃい。旅人さんかい?」
「そうです。一泊おいくらですか?」
当たり障りのない会話を交わし、値段も手ごろだったのでこの宿に決め、荷物を下して身軽になるとエレナとの待ち合わせの正門へ向かう。
「丁度間もなく昼の鐘がなる頃ね」
『人の良さそうな女将の宿で良かったな』
「そうね。今日はゆっくり休んで、明日の早朝からまた一人旅かぁ」
『随分長い間二人で過ごしたからな。人恋しくなるのではないか?』
「まあ……でも、ずっと孤独だったし一時的にそういう気持ちになるかもしれないけど。きっとまたすぐ慣れるわよ」
『そうか。話し相手は我がいるしな』
「そうね。貴方の事を数に入れてないみたいな言い方してごめんね」
背中に下げたイグナリスの柄に手をぽんぽんと優しく叩いて、私は昼時で更に賑やかさに拍車がかかった通りに溢れる、人の波を交わしながら歩みを進めた。
それ程待たず鐘が鳴り終わってすぐ、エレナは小走りに私を見つけて駆け寄ってきた。
「そんなに慌てて走って来ることもないのに」
「す、すいません」
「そのすぐ謝ろうとするのやめなさい。別に悪い事してるわけじゃないんだから」
「すす、すいませ――」
「ほら、また。すぐには直せないだろうけど少しずつでいいから心掛けてみて?」
「は、はい」
エレナはどうやら同僚にお勧めの店を聞いて来たらしく、エレナの案内の元私たちは小奇麗なカフェに辿り着いた。
「こここ、ここぉ!?」
「動揺し過ぎて鶏みたいになってるわよ。お洒落で上品ではあるけど、別にドレスコードがあるようでもないし、大丈夫よ。入りましょ?」
垢ぬけた雰囲気の先客たちが談笑しているのを見て、エレナが固まったので手を取って店内に入っていくと、すぐにウェイターがやってきて二階のテラス席に案内をしてくれた。
「アイナさん凄いですね。私こういう洒落たお店来たの初めてで……」
「別に貴族のお茶会や舞踏会でもないんだし、気にしないで良いのよ。こっちは客なんだから堂々として居れば」
「な、なるほど……私もそうしてみます」
「エレナは大丈夫だろうけどね。旅の道中で、たまに横柄な態度で店員に詰め寄る人っていたけどあれは違うからね?分かってるとは思うけど」
「は、はい!それは勿論……ていうかあんな態度取れる自信……無いです」
縮こまってメニューをじーっと見つめているエレナを眺め、通りを歩いていく人々を眺める。
「メニュー決めました」
「んー私は……これにしよっかな」
ウェイターを呼び、メニューを頼んでしばし談笑して昼食と午後のお茶会を終えた私たちは別れの挨拶もそこそこに、解散した。
話している時に、一応宿の名前を伝えるとエレナは見送りに行くと言ってくれたが、早朝発つから無理はしないでと言っておいたけど、どうなんだろう?
「それじゃ、おやすみイグナリス」
『うむ、おやすみアイナ』
部屋に戻ってイグナリスをベッド脇に立てかけ、服を脱いで楽な格好になってベッドにもぐりこむと、ちゃんと天日干しされた柔らかな匂いが鼻を擽り、幸せな気持ちになりながらその日を終えた。




