エレナって実は凄い人?
エレナと組んで街を出てから、だいぶ北上した頃私に対する挙動不審さはだいぶ解消されていた。
まあ、全く無くなったとは言えないけれど。
夜の見張り番をする時、屋敷にあった本ではこの辺りの地区では魔物が時折現れるので注意が必要とあり、警戒していたのだが不思議とそういった場面に出くわす事も無く静かな夜を過ごし旅を続けていた。
「北に向かうって言ってたけど、どこまでいくの?」
「え、えっと……首都ヴェルディアまで、です」
「なるほどねー。てことはもう少しか……」
なんだかんだで家族以外と長い時間寝食を共にしたのは、奴隷時代を除けばエレナだけだと言う事に気づいて、別れが近づいている事に寂しさを覚えている自分に、感情が戻ってきているのを感じつつ空を眺める。
「あ、あの!アイナさんさえ良かったら……ですけど、首都に着いたら……お茶とか……どうですか?」
エレナが声をひっくり返らせながらいつもより大きな声で話し出したが、次第に尻すぼみに声が小さくなっていき、最後はいつものぼそぼそ声になりつつ私をちらちら見て来る。
「良いわよ、私の目的はもっと北に行く事だけど、気ばかり急いでも、ずっとそのままじゃ肝心な時に持たないし。エレナのせっかくのお誘いだしね」
私はつんつんと人差し指で、エレナの頬を突きながら答えるとほっとしたよう様子のエレナに思わず微笑んでしまう。
「アイナさん……初めてお会いした時より、明るく……なった気がします。最初はなんだか、その……人形というか……感情が見えなくて……って、ごごごごめんなさい!失礼なことをぉ!!」
「だとしたら、それはエレナのおかげよ。ありがとう、声をかけてくれて」
あわわわと面白いくらいに慌てふためくエレナの髪をひとしきりわしゃわしゃ撫で回した後、私たちは更に歩みを進めて、小さな村を見つけたので立ち寄る事にした。
村には小さな宿があり、私たちは同室で部屋を取って荷物を置いて横になった。
久しぶりのベッドと言う事で、私は一気に微睡みに落ちていった。
『起きろ、アイナ』
「へ?」
イグナリスの声で目を開ける。
「何事?」
『魔物だ、数も多い。エレナが先に起きて向かった』
村の外へ向かって駆けていくと不思議な光景に出くわした。
「これ、結界魔術……?」
村の周囲にやってきていたのはブラッドウルフの群れだったのだが、まるで見えない壁に阻まれ、爪を突き立てようとしても弾かれるばかりで入ってこれずに、痺れを切らした他の個体が同じように阻まれてを繰り返していた。
「しかも、おかしいわ、あいつらの唸り声とか爪が当たる音とか一切聞こえないじゃない」
『消音効果も付与されたかなり高度な術式のようだな……これほどの芸当……只者ではないぞ』
「エレナがやってるの?場所分かる?」
『村の中央広場だ、そこに魔力の気配がある』
私は全力で駆け出し、言われた場所に辿り着くと杖を地面に突き立てエレナが何かを唱えていた。
「エレナ!」
集中しているのか私の声に反応せず、エレナの周囲ではキラキラと輝く光の粒が渦を巻いていた。
「なんか光ってるけど……これって……魔力?」
『ああ、かなり高密度の魔力がエレナを中心に集まっておる。何か仕掛ける気だ』
見守る事しか出来ず、固唾を飲んで立ち尽くしているとエレナが両手を広げ、振り下ろす動作をした途端、周囲を待っていた鮮やかな光の粒子が無数に分裂し宙を舞い四方八方に物凄い速さで飛散していく。
あまりの速さに光の帯が目に残るほどのそれらは、ブラッドウルフたちを正確に射貫いていった。
「凄い……」
何事も無かったかのように夜の静けさは保たれたまま、一瞬にして魔物たちを屠ったエレナに呆然としていたが駆け寄る。
「エレナ、やったわね!凄いわ」
「え!あ、あ、ああアイナさん!起こしちゃいましたか!?」
「この剣がね、教えてくれたの」
「そ、そうなんですね……わぁ凄いなぁ……」
「いや、凄いのはエレナよ……音が聞こえなくなる結界魔術に、今の光の矢。明らかに並みの魔術師じゃないわよね?……これだけ出来るなら護衛要らなかったでしょ……」
じーっとエレナを見つめると、エレナが泣きそうな顔で頭をぶんぶん上下に振って謝罪し始めた。
「ごごごごめなさい、騙すつもりは無かったんですぅぅ!!事情を話しますので……どうかどうか命だけは!!」
「いや、そんなことしないから」
揶揄ったつもりが本気で怒ってるように感じたらしいエレナはその後も、しばらく壊れたように首をブンブン振り続けた。
その後魔物の死体を一か所に纏め、エレナが魔術で一気に燃やして灰にすることで死体に釣られて他の魔物が寄ってこないように処分した。




