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試合開始

 剣闘士大会の開会式が終わりさっそく一戦目が始まる。


 こちらからはドレン団長、エルヴァナ諸島連合側の選手は身長はドレン団長と同程度で、金色に輝く金髪と褐色の肌に鍛え上げられた筋肉を惜しげもなく晒しており、半袖シャツとスラックスといった戦士というより漁師のように見える格好でステージ上に上がってきた。


 開始の合図が鳴り、先制をドレン団長がしかける。

 私に腕試しを挑んだ時よりも早く鋭い踏み込みと振り抜きで、木剣にも関わらず容赦なく殺す気なのかと疑いたくなるような勢いだ。


 「あ、でも相手の人。ひらひら躱してすごいわ」 

 「ですね。でも国を代表してこの場にいるのだから、あの見た目でもかなりの実力者なのは間違いないでしょうし、それなりに名の知れた人物かもしれませんよ?」

 「うーん、ああいう見た目のエルヴァナの有名な人っているのかしら……?」


 回避に徹するエルヴァナの戦士と嵐のような連撃を繰り出し続けるドレン団長を視界に入れながら、記憶を探るが、一向に思いつかない。


 「んー……エルヴァナには何度か勅命で行った事があるのですが、有名な武人は大分前に亡くなったりしてますし、最近はあまりそういう人は居なかったはずなのですが……」


 エルヴァナ諸島連合は私たちの生まれるずっと前から、ヴェルディア公国と国交を結び特に大きな戦争も無く友好関係を続けてきた国で、国内部の争いなどもあまり聞かない、本当に穏やかな国といった印象が強い国だったりする。


 「さっきからずっとドレン団長の攻撃よけ続けてるけど、団長の体力が尽きるのを待つつもりなのかしら?」

 「でも、あの目そういう事を考えてる目ではない気がします」


 エレナはじっとフードを被ったままニコニコ笑い続ける男を見つめる。


 「あ、団長が更に距離を詰めた」


 埒があかないと踏んだのか、間合いを詰め上に更に剣を振るスピードを上げたドレン団長。


 「さすがに痺れを切らしたのかしらね」

 「あっ!」


 相手の褐色の男は速度を上げた団長の木剣を掻い潜り、笑みを崩すことなく小剣でいともたやすくからめとるようにして、団長の手から剣を奪い取った後肘打ちを食らわせたあと、喉元に短剣の切っ先を突きつけた。


 「……凄い。必要最低限の動きでドレン団長を完封しちゃったわ」

 「凄腕なのに名が知られていないなんて……」


 にこやかに褐色の男性はドレン団長と握手を交わし自分の席に戻る。

 対してこちらに戻って来るドレン団長は、眉間に皺を寄せとてもじゃないが近づきたくない。


 「あ、そういえばウェズリーさんは……?」

 「ウェズリーならもうステージに上がってる」


 低く怒りを堪えたような声でドレン団長が言うので、ステージを見れば確かにウェズリーさんがステージに上がっていた。


 「存在感が無いのはあいつの人柄なのかなんなのか、正直分からんが実力は俺が保証する」


 試合開始の合図と共に、エルヴァナの二人目の選手はウェズリーさんの出方を伺いながら横に移動し始めた。


 「随分慎重派の人なのね……」

 「痩せ型で頼りない印象から舐めてかかる輩が居たりするが、あいつに敵う者など私かユリウス様ぐらいか」

 「出場選手に選ばれるくらいだから、そうなんだろうなとは思っていましたが……それほどなのですね」


 ウェズリーさんはじっと動かず木剣をだらりと下げて、一歩も動こうとしない。完璧な待ちの姿勢だ。


 「奴め、いつものあれをする気だ」

 「いつもの?」

 「見てれば分かる」


 ドレン団長の言う通りにウェズリーさんに注視する。

 すると、ウェズリーさんは一瞬だけ腕を僅かに動かし攻めに転じる予兆を示した。


 「あ!相手の人が攻めた」

 「でも、誘われたね」


 ウェズリーさんの動作は完全に相手に行動を起こさせるための騙しで、飛び込んできた相手選手を逆に待ってましたと言わんばかりに、迎え撃ち滑らかな動きで相手の動きを封じ最後は木剣を胴に叩き込んだ。


 「あれで新人たちが何人も餌食なったし、俺も未だに別のフェイントを見抜けずに流れをもっていかれる時がある」


 これで一勝一敗。別に勝ったからと言って何か報酬が得られるわけではないが、確かにこの大観衆の中で己の鍛えた技で勝利を飾る事が出来たら、さぞ誇らしく思う事だろう。

 だけど、となりに座るエレナはそうではないようね……。


 「ううう、お腹痛い……」

 「頑張ってエレナ。貴方のかっこいいところ見せてよ!」

 「エレナ嬢、俺の分まで派手に頼む」

 「お、俺も勝ったんだから大丈夫だよー」


 杖をぎゅっと握ったまま、ノロノロとステージに上がっていくエレナ。

 相手もローブを羽織っており、魔術師らしく少し太めのねじれた杖を手に持った女性がステージに上がっていた。


 「エレナって実は凄い魔術師なんですね」

 「凄いなんてもんじゃない。この国随一の魔力保有量に規格外の魔術式構築速度、ハッキリ言って脅威でしかない。本人は勉強しかやることなかったからと言っているがな」

 「だから特級魔術師なのですね」

 「ああ。だからこそユリウス様の勅命もあるし、国の式典には呼ばれるし中々の多忙なのは仕方がない。仕方がないのだ……」


 さきほどのエレナの無表情から発せられる呪詛めいた言葉を思い出したのか、汗を浮かべたドレン団長は誰に言い訳するでもなく語る。

 あんな女の子一人になんでもかんでも押し付けるのは良くないと思う。うん。


 二人が位置に着くと、開始の合図が鳴り響いた。

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