エレナの瞳から光が消えた。
一夜明けて、国交祭の一大催し物である剣闘士大会を控え街の熱狂具合は最高潮に達していた。
「これだけの大観衆の中で、戦うのね……」
数年に一度の国同士の猛者が己の技を競い合う光景を一目見ようと、ステージを取り囲むようになっている、すり鉢状の客席を大勢の観光客や地元民たちが埋め尽くし、歓声を上げていた。
「確かに凄い事になっておりますね」
ユリアが背後に待機してくれているのだが、彼女自身もこの光景に圧倒されているようだ。
ステージのすぐ傍の出場者が用意された椅子に国ごとに分かれ、談笑する者や目を閉じて精神を研ぎ澄ませている者様々な様子が、四方に見えた。
「アイナ嬢、特別枠は最後だからな。参加する事に意味があるとはよく言うが、出るからには俺は勝ちたい。頼むぞ」
「わかりましたわ。ですが、私の本気がどこまで通用するかは相手次第です」
隣に座り腕組みしながら、じっとステージを見つめるドレン団長の言葉に応え、私は疑問に思っていたことを聞いた。
「そういえば、晩餐会で顔合わせをすると聞いてましたが、最後の最後までもう一人の方とお会いできていないのですが、一体どのような方なのです?」
「わ、私です。アイナさん」
背後から声をかけられ、思わず振り向くとローブを羽織ったエレナが頼りない笑顔で縮こまっていた。
「え、エレナ?なんで貴方が出るのよ。これって剣闘士っていうから魔術師じゃ趣旨が違うんじゃないの?」
「アイナ嬢、実はな名前の響き的にはそう思うかもしれんが、特に規定は無いしあくまで祭りとして盛り上がれば良いという国同士の共通認識で、魔術師も参加している国は他にもいる」
「そうなのですね……。ということは晩餐会に現れなかったのは知らない人が一杯いるのがいやだったから?」
私は顎に手を当てエレナの方を向く。
「そ、それもありますけど。陛下の勅命で昨日の集音器や奴隷会場を探査魔術で調べたりしなければななかったので……ほ、ホントですよ!?」
エレナは緊張しているのか、右手と右足を同時に出しながら私の隣の椅子に座った。
「凄い緊張してるわね。エレナって凄い魔術師なんだし色々式典とかにも沢山でなきゃいけないんじゃないの?」
「そ、そうなんですけど……恥ずかしいので自由参加と書かれている者には一切出てません。名指しの勅命扱いで今回参加せざるを得なくなったので……」
ローブを被って周囲の視線を遮断しつつ、深いため息を吐くエレナ。
「エレナ嬢」
「は、はい!?」
「今まで重ね続けてきた研鑽を、皆の者に見せつけ自分のいる国には素晴らしい魔術師がいるんだと誇りに思って欲しいと言った気持ちはないか?」
「はい。好きでひたすら魔術を研究し続けていたら、いつのまにか特級魔術師とかいう位を与えられ、国の領土内をあっちこっち走り回って、問題解決に駆り出されるわ。魔術協会の魔術師試験の試験問題を作らされるわ……もう、ほんとうんざりです」
「す、すまない。俺の言った事は聞かなかったことにしてくれ」
「エレナ、顔がこわいわよ?」
ドレン団長に顔を向けて話し出したエレナの顔からは表情が消え、まるで人形のように淡々と語られる愚痴に流石のドレン団長もたじろぎながら、謝罪した。
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