模擬戦開始
どれもこれも美味しそうな物ばかりで目移りしながら、移動していると声をかけられた。
「失礼、貴方が剣闘士大会の特別枠のアイナ・リーフェルト伯爵ですか?」
「はい、そうですわ。失礼ですが、貴方は?」
「申し遅れました、私も剣闘士大会参加者のウェズリー・ザートンと申します」
「ザートン……ザートン……」
「ああ、私もドレン団長と一緒で平民上がりで孤児なので、孤児院から姓をもらってます。騎士団所属です」
ドレン団長とは違い、いくらか細身の優男といった印象のウェズリーさんは苦笑いを浮かべる。
「ドレン団長ほど見た目の威圧感ないですよねー。でもこうみえて部隊長なんですよ?」
「そうなのですね」
「そうみえないですよね。はぁ……未だに一般兵と間違われるのはなんでなんだろうなぁ……。まぁとりあえず明後日の大会では足引っ張らないようにしますので、よろしくお願いしますとだけ言いたくてお声がけさせていただきました。それでは」
とぼとぼと去っていくウェズリーさんを見送り、ふと気づく。
あれ、あと一人ってだれなんだろう?顔合わせだから来てるはずよね……?
国交祭の目玉である剣闘士大会は各国選抜された人が特設ステージで戦うもので、例年なら3人だが今年は枠を増やして4人が総当たり戦で戦い、最後まで残った国が優勝すると言った物だ。
国を代表して戦うのだから、優勝すれば国からは様々な報酬が貰えるため人生をかけて選抜されるために名乗りを上げる者たちも一定数いるが、それなりの審査基準があり何より今回のように陛下の采配が大きくかかわったりするから難しい。
「選ばれてるんだから参加してるはず……でもそれっぽい人いない……」
『まあ4人1組になって一緒に行動するわけではないから、そこまで気にしないでもいいのではないか?』
「それもそうね。とりあえず明日の朝の手合わせと夜の奴隷市場の捕縛作戦に備えて、一杯食べて置かなきゃ」
『食べ過ぎには注意するのだぞ』
「わかってるわよ」
その後あれこれ食べながら貴族の男性から声をかけられるのをあしらいながら、参加者を探してみたが結局見つけられず、部屋に戻ってユリアと静かにお茶を楽しんで寝た。
翌朝、手合わせや夜の奴隷市場の件もあるのでドレスではなく、ユリアが多少細工を入れ女性らしさも損なわない飾りをされた、乗馬用の服を着てイグナリスを帯剣し訓練場に向かった。
王宮だけあって一つ一つの施設が広く、扉を開ければ既に騎士団の一般兵の皆さんなどが自主練などを行っていた。
「おはよう、アイナ嬢」
掛け声や木剣の当たる音で、お父様から指南してもらっていた時を思い出し、物思いに耽っていると既に準備運動を終えた。軽く汗をかいているドレン団長がこちらにやってきた。
「おはようございます、ドレン団長」
「少し体を慣らしてから、始めるか?木剣でと言ったはずだが、実剣での手合わせを所望か?」
「いえ、後でイグナリスから評価してもらおうと思いまして、近くに置いておこうかと思いましたの。部屋で軽く運動は済ませてきましたので、さっそく始めませんか?」
「ふむ、ではそうするか」
空いている一角に私とドレン団長が木剣を手に取り、向き合うと興味津々の人だかりが出来ていた。
「やはり皆、アイナ嬢の実力が気になるのだな」
「まあ……そうでしょうね。女で剣闘士大会に出るなんて……しかも特別枠ですもの。気持ちはわかりますわ」
「よし、おしゃべりはこのくらいにして始めるか?」
「はい、よろしくお願いいたします」
一番近くにいた、団員に声をかけ開始の合図を頼んだ団長は小さく息を吸った。
それだけで、団長が纏っていた威圧的な空気が更に凝縮され周囲の時間の流れが変わったのような錯覚に陥る程に、団長から漏れ出す気迫に私は飲まれそうになった。
それは審判役の団員も同じだったようで、合図を出さないので痺れを切らした団長が声をかけ、我に帰った団員が短く開始を告げる。
それと同時に団長は木剣を両手で持ち、小細工無しの最上段からの振り下ろしを仕掛けてきた。
「さすがに受けるわけにはいかないわね」
しっかりと剣筋を見定め、最小限の動きでそれを躱すと、ガラ空きの脇腹を狙い木剣を振るう。
「ふむ」
団長は私の動きを観察するかのように言葉を零し、私が放った横振りの攻撃を素早く引き戻した木剣で受け止め、払う。
入るとはそもそも思っていなかったので、私は大して気にせず仕切り直すべく距離を取る。
「貴族令嬢には見えない程、手慣れてる」
「団長の振り下ろしをあんなすれすれで避けるかぁ!?」
外野の団員たちがわいわい騒いでいるが、イグナリスと出会ってからずっと鍛錬を怠らずに続けてきた結果がこれだ。貴族令嬢だから、なんだ?淑女らしく振舞え?
振舞ったからって誰かを守れるのなら、喜んでそうしよう。
守れないなら全力で鍛えて、大切な物を二度と失わないように剣を握ろう。
そう決めたのだ、その成果を今この国の騎士団長に試せるのだ。
「どこまで通用するか、試して見るわ」
小さく誰に聞かせるでもなく言い、私は口角が上がるのを感じながら、団長に切っ先を向けた。
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