腕試しの約束
日が変わり鍛錬をして過ごして浴場で汗を流した。
ユリアが用意してくれたドレスに着替えて、髪も綺麗に整えて貰い晩餐会の会場に向かうためイグナリスを帯剣して部屋を出る。
いよいよ明日に迫った国交祭を前に、城内の空気は物々しくなっていった。
「さすがに国賓が来てたら、こうなるわよね」
『今回は何か国参加しているのだ?」
「えっと……西のエルヴァナ海洋連合に南のカリマ共和国、東のトゥルガル自治領。そして意外なのが北のヴァルセリオン王国が参加しているのよね……」
『ヴァルセリオンだと?まことか?』
イグナリスが疑問に思うのも無理はない、なにせヴァルセリオン王国は未だに奴隷制度が生きている国なのだ。それが奴隷制度を廃止した国しか参加していない今回の国交祭に参加している事が、かなり話題になっているようで、だからこその首都の賑わいも例年よりも増している気がする。
『今の王はだれなのだ?』
「アーティス・ヴァルセリオン王よ、前国王の御父上が亡くなられて代替わりしたはず」
『そうか……。若い世代だから何か思う所があっての参加かもしれんな』
「かもしれないわね」
イグナリスと話ながら廊下を歩き、会場について扉を開けてもらい中へ通される。
「お待ちしておりました、今回は陛下の希望で立食形式とさせていただいております。なんなりとお申し付けくださいませ。それでは、ごゆっくり」
使用人の男性がにこやかに笑顔で去っていくのを見送り、さてどうしたものかと見渡す。
すると、先に来ていた人たちの一人が談笑をやめこちらに向かってきた。
「失礼、俺はドレン・ボールト。ヴェルディア王直属騎士団の団長をしている。あなたが今回国交祭の特別枠で出場されるアイナ・リーフェルト殿か?」
「はじめまして。メロディア領領主、アイナ・リーフェルト伯爵ですわ。正直わたくしのような素人が出るような大会ではないと、辞退を申したい所でしたが陛下の招待を無下にするわけにもいきませんので……承諾した次第ですわ」
まるで品定めでもするように、短く刈り込んだ短髪と大柄な鍛え上げた肉体がスーツを盛り上げ今にもはち切れそうなドレン団長は私を見下ろす。
正直いるだけで怖い。何を食べたらこんな筋肉と身長になるのだろう?
「なるほど、弁えてはいるようだな。それでその剣が例の魔剣とやらか?」
「はい。イグナリスという銘ですわ」
「ふむ……。少し見させて貰う事は可能か?」
「はい、どうぞ」
ベルトから外し鞘ごとドレン団長に手渡すと、耳を近づけたり両手で持って上下に振ったりして刃を確かめたりせず、何かを別の事を確かめようとしているようだ。
「あ、あのどうされました?」
「喋ると聞いたが、何も聞こえんぞ?」
「え、えっと喋るとは言っても魔力の波長が合わないと、声を聞く事は出来ないのです」
『男にジロジロ見られるのは好かんな』
「ふむぅ……残念だ。ぜひとも俺も指南してもらいたいと思ったのだが……」
残念そうにイグナリスを返すと、ドレン団長は私に目線を動かした。
「貴方がどれほどの実力か、確かめたいのだが……明日の午前中にでも訓練場で手合わせは可能だろうか?出場するからには優勝を国に捧げたいのだ。それに……」
「それに?」
「部下たちと賭けをしていてな。優勝以外の成績だった場合団員全員の飲み代を払う事になってるのだ」
「……そうですか」
「どうだろうか、無理にとは言わんが」
『手合わせしてみてはどうだ?正直この男、お主を甘く見ておるぞ』
「そうね」
手に持ったイグナリスに返事を返す私を不思議そうに見つめた団長に、手を差し出す。
「手合わせ、お受けいたしますわ。ドレン団長」
「うむ、本番想定でやるからそのつもりでな。それでは明日」
上機嫌になったドレン団長はスタスタと去っていき、使用人から新しい酒を貰って一気に飲み干しおそらく騎士団の幹部クラスの方々と談笑し始めた。
大柄な男に距離を詰められると、やはり無意識に身体が強張るのは奴隷時代の名残らしい。
手を閉じて開いてを繰り返し、息を深く吸って吐く。
「すみませんね、リーフェルト伯爵。団長は平民上がりでして貴族の礼儀作法とかそういうのすっ飛ばしてどんどん出世しちゃった、所謂たたき上げってやつなので……」
「えっと……貴方は?」
「これまたすいません、私はキール・マッドリー。ローガン・マッドリー子爵の息子です」
「マッドリー……マッドリー、申し訳ありません……存じ上げておりません」
「気にしないでください。南の領を治めているのですが、父が何と言いますか……控えめな人でして、おそらく印象に残ってないかと……とても真面目で領民からも信頼はされているんですがね。はは」
酒を一口含みキール様は話を続ける。
「その真面目さが取り柄の父の息子の私が推薦され、この間あった奴隷騒動で没落した南のリリブラン領を受け持つ事になったのですが、生憎私は騎士団で身体を動かしているのが性に合ってるので姉のドロシーに代理人をしてもらってます」
「なんとなくわかりますわ。わたくしも正直に言えば屋敷で書類に囲まれて自室に引きこもっているよりも、奴隷売買の現場を潰したり、村を襲う夜盗の類を捕えたりしてる方が楽しいですもの」
「そ、そうなんですね……。行動力が凄いですね、普通なら家臣や冒険者を雇って退治するところなのに」
空になったグラスを使用人の盆に返す。
「亡き父がそういう方だったので、爵位を継いだからには父が行ってきた事は少しでも受け継ぎたいのです」
「凄いお方だ」
「凄くなんかありませんわ。貴族として当然の事ですわ」
お父様が生前よく言っていた言葉を笑み浮かべて答える。
虚を突かれたような目を見開いて、一瞬私から目を逸らしたキール様は咳払いを一つして改めて私を見た。
「当然……ですか。敵わないな……おっと、長々と失礼しました。では」
立ち去っていくキール様のお顔が赤くなっていたけれど、お酒に弱い方なのかしら?
『あの者。惚れたな』
「え?何か言ったイグナリス」
『いや、何も。気にするな独り言だ』
「そう」
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