断れない招待状
救出した奴隷から聞いた情報を手紙に書き、国王陛下へ早馬で報せに向かわせた。
「大きな市場が開かれるってことは、それだけ大きな金と権力を持った人物が運営するはず……絶対に叩き潰す好機よ」
『どれほどの大物が釣れるか今から楽しみだな』
「そうね、きっと大捕り物になるはずよ。ふふふ」
「アイナ様、お顔が淑女では無く悪魔のような顔をしておりますよ?」
ユリアに若干引かれながら、私は口角が吊り上がるのをやめられなかった。
そして数日が経ち、国王陛下からの返事が返ってきた。
「え?なにか別の物まで入ってるんだけど……。え、これって招待状?」
「どうしたのですか?アイナ様」
「……どうしよう、ユリア。私国交祭の剣闘士大会の特別枠で出場することになったわ」
「え、えっと……何かの間違いでは?」
さすがのユリアも狼狽え、おろおろしながら机の傍へと歩み寄ってきて、私から手紙を受け取ると無言で目を通す。
「……誠のようでございますね……。これは、国王陛下の招待状ですし辞退は不可能といっていいでしょう……。なぜにこのような?」
「どうやらあちらで掴んだ情報だと国交祭が開かれるヴェルディアのどこかで、大規模な奴隷市が開かれるらしいの。そこで私も戦力に加わってもらうついでに、剣闘士大会にも出て欲しいみたい」
「ついでがついでではないようですね……」
国交祭とは数年に一度、交流のある国が持ち回りで外国から国賓を招き、食を楽しんだり武を競ったりする盛大な祭りだ。
その中でも人気なのが、剣闘士大会で各国の代表者3名を選出し特設ステージで戦うという物だ。もちろん死傷者が出ないように、治癒術師や医者が常に待機しているので今まで大事になったこと記録は無い。
「鍛えてるとは言え、国賓も見てるような会場で他国の代表と戦うのよ?無様な試合は見せられないし、こちらの仕事だってやらなければいけないのに……どうしよう」
頭を抱えていると、扉をゆっくりと開けてお母様がこちらへやってきた。
「アイナ。国王陛下のお招きなら、いかねばなりません。あの人の爵位を授けて下さった事を国民、いえ他国にも見せつけてやりなさい。私はメロディア領領主アイナ・リーフェルトだと」
「お母様、ですが――」
「お仕事なら私だってできます。何年あの人と共にメロディアを見守ってきたと思ってるのです?いいですか、貴方は今すぐ出立の支度をしなさい。そして今まで以上にイグナリスさんに鍛えて貰いなさい」
「……はい」
「声が小さいですよ?」
「はいっ!!」
「よろしい。ユリア、悪いけれどアイナと共に首都へ向かう支度の手伝いをお願い。それが終わったら別の人に仕事を引き継ぎの手筈を、私の分のお茶を淹れて頂戴。すぐに仕事にとりかかるわ」
「かしこまりました」
私とユリアにてきぱき指示を出し、いつもの朗らかな笑顔の優しいお母様から、凛々しい女戦士のような顔つきに変わったお母様に呆気にとられながら私は執務室を後にした。
準備を終えた私はお母様に挨拶すると、ユリアと一緒に馬に乗り首都へ向けて走り出した。
「リーフェル家の名を世界に轟かせてみせるわ」
「応援しています、アイナ様」
日が昇って間もない秋晴れの空の下、手綱を握る手に力が入った。




