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幸せそうな寝顔

 一度名づけを引き受けたら、そこかしこから同じように名づけの依頼が来るようになり、あっちっこち領地を巡ったりして忙しい日々を過ごしてた。

 そんなある日。


 「アイナ様、最近巷で話題になっている噂はお聞きになりましたか?」

 「……奴隷市の話?」

 「はい。以前アイナ様が参加された捕縛作戦で、大方片付いたと思われていた奴隷や違法な物品を扱う組織の残党なのか、別の組織なのかは分かりませんが未だに活動を続けている……と」


 あれだけ捕まえたのに、未だにこうやって噂が広まる程に奴隷売買はこの国の裏で根付いてしまっているのか。

 深いため息と共にこめかみのあたりを抑える。


 「立て続けに関係者を捕えてもなくならないとなると、相当な力を持った協力者がいるはずよね……」

 「しかし、相当な力……ですか」

 「ええ。疑いたくはないけど、国の内部……内政に関わっている人の中に、情報を流したりしてる人物がいるのではないかと思うのよ」

 「それは……簡単には手出しができませんね。それこそ国王陛下くらいでは?」

 「陛下も頑張っていらっしゃるのだろうけど……隠れるのがよほどうまいのかしらね」


 ユリアの淹れてくれたお茶で喉を潤す。


 「どうにかして尻尾を掴みさえ出来れば、あとはどうとでもなるのだけど……」

 「国の中枢となると、アイナ様でも手出しは出来ませんしね」

 「そうなのよね。近場の領地の細々とした奴隷市場は潰せても、きっと何処かにいる大元を絶たない限り、完全には無くならないでしょうね」


 暗い顔をしていても仕方がないと、気持ちを切り替え立ち上がり午後からの領地視察の準備のために外出の支度をすることにした。


 「あの、アイナ様」

 「どうしたの、ユリア」

 「大変お似合いではあるのですが、領地で領主の仕事をする際には出来ればそのような男性のような恰好ではなく、せめてワンピースのような女性らしい服装をする気はありませんか?」

 「確かにそう思うんだけどね……いつあの時見たいな事が起こっても応戦できるように、少しでも動きやすさ優先にする癖みたいなのが付いちゃったのよ。ごめんなさいね、ユリア」


 私の申し訳なさそうな顔に、なんと返したらいいかわからず立ち尽くすユリアに努めて明るく振る舞い話題を変える。


 「それより今日の視察ルートだと、焼き菓子が美味しいお店がある通りを行くはずよね?帰りに買って帰りましょうよ」

 「ええ、そうですね。では新しい茶葉も試させて頂きます」


 奴隷市場に関しての話題は、それ以降敢えて出さず視察での領民たちとのやり取りについての段取りやそれ以外の執務に関しての話で、時間は過ぎていった。


 月が替わり、周辺の景色が秋めいて木々の葉が少しずつ様変わりし始めた頃。

 私は再び夜に紛れて何人かの兵を率いて、報告があった奴隷市場に潜入していた。


 「ユリウス様の時より規模は小さいけれど、相変わらず気分が悪くなる光景だわ」

 『今回は近衛兵も多少連れて来てはいるが、人数は限られている。無理はするな』

 「そうね。それじゃ行くわよ」


 イグナリスからの助言に頷き、背後や周囲に散らばった数人の近衛兵に目配せして、突入した。


 「そこまでよ!この国では奴隷は禁止なのを知らないのかしら?」

 「ちっ、マズイ。ここも嗅ぎつけられたか。散れ!商品は連れて行けるだけ連れていけ!」

 「させるわけないでしょう!」


 混乱に陥った会場だったが、小規模だったこともあり、多少のケガ人は出たが死者は出さずにほぼ全員確保し大成功と言っていいくらいの成果を得た。

 そして捕縛者を牢に連れていく帰りの道中。


 「あ、あの……貴方はアイナ・リーフェルト様でしょうか?」


 馬にけん引される荷台に乗った奴隷の一人が恐る恐ると言った様子で話しかけけてきた。


 「そうよ、それがどうかしたのかしら?」

 「あの……奴隷市場を壊滅させて周ってるって聞いたんですけど」

 「そうね、手の届く範囲の場所には赴いて潰してるわ」

 「奴隷商人が近々どでかい市場が開かれるから、そこで新しい商品仕入れるためにも稼がなきゃって言ってたんです……。もう情報が入ってるかもしれませんが」

 「いえ、初耳よ。ありがとう助かるわ」


 笑顔で感謝を告げると、ほっとしたような顔で荷台に身体を預け寝心地は最悪のはずなのに、スヤスヤと寝始めた。


 「アイナ様に伝える事が出来て、ほっとしたのでしょうね」


 近くで見ていた兵から言われ、頷く。


 「幸せそうな顔してるわ。こういう笑顔のために私は一つでも多くの奴隷市場を潰すわ」

 「お供します」

 「俺も」

 「私もですよ」


 一人言えばそれに呼応するように名乗りを上げ始めた兵たちに、静かにするように唇に人差し指を当てて伝えると、はっとしたように皆一斉に静まり返る様子が可笑しくて、必死に声を殺して皆で笑いながら帰路を歩いた。

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