帰路
部屋に戻ると休むように言っておいたけど、私の事が気になってずっと起きていたらしいお母様がいち早く出迎えてくれた。
「アイナ!怪我はない?大丈夫なの!?」
「大丈夫ですよお母様。この通り無傷で悪人たちを捕縛してきました」
くるりとお母様の前で一回転してみせると、お母様は安堵した。
「なら良いのだけど。気が気じゃなかったわ、アイナにもしもがあったらどうしようかと……」
「そうならないように日々鍛錬を怠っていませんから」
腰に手を当て胸を張ると、ため息を吐かれてしまった。
「淑女というより、物語に出てくるような女騎士みたいだわ……。これでいいのかしら……」
「お母様……娘の成長を素直に喜んでくださいよ」
親子の会話の最中に、ユリウス様と近衛兵の皆さんが戻ってきた。
「皆ご苦労だった。此度の作戦で更に奴隷売買に関わる組織の壊滅にまた一歩近づけた。感謝する」
「へ、へい――」
「お母様、静かに」
仰天して声を上げそうになったお母様の口を塞いで、静かにするように促すとコクコクと頷き解放すると、胸に手を置き深呼吸をしてから口を開いた。
「こ、国王陛下自ら赴いているとは知らず、このようなはしたない服装で御身の前に立つことをお許しください」
「よいよい、気にするな。それよりも久方ぶりの親子の対面はどうだ?」
「はい。とても嬉しく思います、もう……二度と会う事は叶わないと思っておりましたので」
「全てアイナ嬢の挫けない心が成し遂げた事。あとで存分に褒めてやってくれ」
「勿論でございます。我がリーフェルト家の誇りであり、宝です」
静かに跪こうとするお母様を留めて、同じ目線で話すユリウス様に恐縮しつつも笑顔で応えるお母様の姿は、私が覚えているいつものお母様だった。
それから各々部屋に戻り、私とお母様も用意してくれた部屋でぐっすりと眠りについた。
なんだか嬉しくなって数年ぶりにお母様と一緒のベッドで寝たのは私たちだけの秘密だ。
「さて、それでは行きしょうか。お母様」
「ええ、行きましょう。私たちのお家に」
二人で手を繋いで厩舎に向かい、馬に荷物を付けたりして支度を進める。
「アイナ様。昨日はお疲れ様でした」
声のする方を見れば、近衛兵の人が村人に扮した格好でやってきた。
「お疲れさまでした。ユリウス様も発たれたのですか?」
「はい、日の出前に。なんでも騎士団長が殺気立ってると文が届いて、血相を変えて早馬で先に」
頬を掻きながら答える表情はどんよりしていた。
「あ、あはは。えっとその、頑張ってください」
「はい。頑張ります。それでは」
どことなく肩が下がった哀愁漂うその背中に、憐みの目線を送らずにはいられなかったが、これ以上なんと声をかければ良いか分からず、準備を終えた私はお母様の手を引く。
「お母様、手を」
「ええ、ありがとう」
「それでは、ゆっくり行きますので」
お母様を客室に乗せ、私は手綱を引いて馬に歩かせた。
戻ったらユリアたちはどんな顔をするのだろうか、きっと私みたいに泣きじゃくるのだろう。
それを見ておろおろしながら、私とお母様で背中を擦ったりしながら落ち着かせるために屋敷中を走り回る事になりそう。
それもまた新しい思い出の一つになればいい。
そんな事を考えながら、雲一つない晴れ渡った空の下街道をのんびりと進んでいった。




