大変なお仕事
お母様にある程度説明を済ませ、受付にお母様を買う旨を伝える。
「え、そんなに気に入ったの?いや、でもぉヘレナさん結構人気なのよねぇ……」
「これだけ出しますけど」
ドンっ!と敢えて乱暴な置き方をして袋を置き、中身の金貨を見せた途端、目を輝かせて握手を求めてきた。
「ありがとう!寂しいけれど、仕方ないわね!ヘレナさんを一杯可愛がってあげてね」
「……ありがとうございます。それじゃ」
私はお母様の手を引いて、作戦会議をした宿に戻り手筈通りお母様を部屋で待機していたユリウス様の近衛兵に預け、奴隷市場に向かう。
「アイナ、気を付けてね」
「はい、お母様。いってきます」
遥か昔の出来事のように感じる当たり前の家族のやり取りを、再びこうしてできる事に喜びを噛み締めながら、夜も更け一層騒がしさを増した街中を人混みをかき分けて走り抜ける。
「人の行き来が盛んだから凄いわね。首都に負けず劣らず……夜に至ってはこっちの方が賑やかなくらいだわ」
『だからこそ、その裏で奴隷市場などという事を行うのには都合が良いのでだろうな』
「かもね。この国に奴隷は要らない、居てはいけないの」
目的地に近づいていくにつれて、華やかさが薄れ粗暴な見た目の男たちが目立ち始め、あちこちで怒鳴り声が聞こえる治安の悪い区画に入った。
「いかにもって感じの区画もあるのね……取り締まる事は出来ないのかしら」
『違法な事や荒事を請け負う組織が集まってるのかもしれん。総じてそういう奴らは金を払って治安組織を懐柔しているものだ。まあ我の時代にそれを黙認していたのは、全員解雇していたが』
「いつの時代も居るわけね……。ま、今回でそれも終わりね」
集合場所に辿り着くと、近衛兵の一人が待機してくれていた。
「お疲れ様です。お母様とは無事お会い出来ましたか?」
「はい、お陰様で。今は部屋に連れて行き、休んでもらっています」
「それは良かった。では、参りましょうか」
近衛兵の後に続き、奴隷市場が開かれている区画に入っていく。
至る所に鋭い目付きのやたらガタイの良い男性が腕組して、こちらを睨んできて威圧感が凄い。
「やはりこういうところは馴れませんか?」
「奴隷の時の事を思い出して、少し憂鬱にはなります」
気遣うように近衛兵が背中越しに話しかけてきたので、それに応えながら更に奥へと進む。
次第に建物と呼ぶのもおこがましいような、廃材で作られたような本当に人が居るのか?と疑わしくなるような建物が並ぶようになってきた。
「あそこの天幕を潜ると例の場所です」
「あそこが……」
少しだけ身構え天幕を潜ると、そこには様々な美術品などと一緒に檻に入れられた奴隷たちの姿があった。
あの檻の中に、ほんの数か月前まで入っていたのだと思うと、背筋が凍るような感覚になる。
「まだこんなに奴隷にされた人が……」
「ええ、驚きですよね。あれだけアイナ様の件で逮捕者が出て、ゾンターク家の者たちがどうなったかも知れ渡っているのにも関わらず、こうして今も奴隷の売買が続いてる。嘆かわしい事です」
吐き捨てるように近衛兵が言う。
「来たか、アイナ嬢」
「こ……ユリウス様。首尾は?」
「配置は完了している。もうじき始めるぞ」
「了解しました。では、私は手筈通りに」
「うむ、頼んだ」
最低限の会話だけを済ませて、ユリウス様は私と近衛兵から離れ客のフリをして席に着いた。
「さぁ続いての商品は、こちら!」
鎖に繋がれた女性が男に引っ張られステージに上げられる。
「不愉快だわ」
私が吐き捨てたその時、背後の天幕から取り乱した男の声が響いた。
「おい、やべえぞ!国王直属の騎士団がここの調査に来やがった!逃げろ逃げろ逃げろ!!」
その言葉を聞き蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうとする客たちだったが、客席を挟むように待機していたユリウス様の配下たちによって足止めされる。
「お、おいそこを退け!私が誰だか分かっているのか!?貴族だぞ!平民風情が邪魔をするな!」
「知りませんな。奴隷が違法と知りながらこうして競売に参加する畜生の事なぞ」
各所で奴隷売買に関わっているのであろう重要参考人たちを優先的に、捕縛していきそれを邪魔しようと襲い掛かる用心棒に、イグナリスを構え殺さない程度に痛めつける。
「だいぶ慣れてきたわね、実戦て大事だわ」
『うむ、良い動きだ。ほら、次が来るぞ』
私も関係者だと気づき、襲い掛かって来る数人の男たちを相手にイグナリスに教えられながら、鍛えてきた成果を存分に発揮して床に寝かせていく。
「皆さまお疲れ様です!こちらもリストにあった人物の捕縛いたしました!」
「上出来だ、あとはこっちも頼む」
騎士団の人たちが数人天幕の中にやってきて、捕縛に参加して次々と捕まっていく貴族とその護衛達。
そして、市場を運営しているであろう関係者の大半も捕縛した。
「かなりの人数を捕えることが出来ましたね。何人か逃げられましたが、これだけの人数を失ったら組織としては壊滅といってもいいのではないでしょうか?」
「いや、油断はするな。必ずどこかでまた再開すると思っていたの方がいい。だが、今日の所は上々だろ。お疲れさん」
近衛兵のリーダーと騎士団が捕縛され項垂れている連中を見渡しお互いを労う。
「あれ?」
「ん?どうしました?」
「えっと……ユリ――」
「あーー!!なんですかどうしたんですか、アイナ様!!ちょっーーっとこちらへ!」
近衛兵のリーダーが私の肩を掴んで凄い勢いで騎士団から遠ざけてから、私の耳元で囁く。
「実は今回の作戦、騎士団には陛下が居る事を知らされてないのです。あくまで陛下の指示で行われた作戦という体でして……この事を知っているのは近衛兵団の我々だけなのです」
「え?じゃあ陛下は?」
「先に奴隷の方々と一緒に脱出しておられます。騎士団に発覚したら騎士団長から厳しくしかられますからね……。我々もですけど」
「はぁ……」
「ですので、アイナ様もこの事は内密にお願いします!陛下の、いえ我々の平穏のために!」
「……分かりました。大変なんですね近衛兵の方々も」
同情してやると、深いため息をついてリーダーは項垂れる。
「はい、陛下の民を守るためには己自身も動かなければならん!って考えは素晴らしいんですけどねえ」
「一国の王が命の危険がある場所に赴くのは、臣下として気が気じゃないですもんね」
「です」
深ーく頷くリーダーに騎士団の人が気になって近づいて来た。
「あ、まずい。それじゃアイナ様。後程宿で」
「はい。それでは」
屋敷の家臣たちもきっと同じ気持ちだったろうに、よく送り出してくれたなぁとしんみり思いながら、一気に静かになった雑多な区画を後にした。
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