この目で見なきゃいけないの
屋敷を脱して歩き続けている内に完全に日が昇り、街に辿り着いた。
『とりあえずお主と我は自由になった。あとは近くの岸壁から海に投げ込んでくれ』
「お願いがあるの、それの返事を聞いてから貴方をどうするか決めたい」
恐らくこの街の領主であるアンドレ―が屋敷で殺された事は、とっくに騒ぎになっているだろうし、歩きながら食べられる物を露店で買い、さっさとお腹に収めて移動の算段を考えつつ今までの私の事をイグナリスに話した。
『……そうか。すまんな」
「どうしてあなたが謝るの?」
『我の声を聞けていた世代の貴族全員が、お主に頭を下げているだろうさ。成れの果てが、金と女に溺れた畜生になってしまい、こうしてお主を買ったのだから』
背負ったイグナリスが勝手に動くということは無いが、きっと人間の身体を持っていたら地に擦りつける程に頭を下げてる光景が目に浮かぶような、心からの謝罪の意を感じる声音だった。
「もう、良いわよ。過ぎた事だし、それよりも早々にここを出た方が怪しまれずに済むと思うのよね。それで、私の復讐に手を貸して欲しいのだけど、無理にとは言わないわ。貴方には貴方の気持ちがあるでしょうし、海の底で静かに眠りたいという気持ちも分からなくもないから」
『いや、お主の話を聞いて考えが変わった。我はこれよりお主の剣となりお主と共に歩む事にした。早速だが、移動は早くした方が良いだろうな、路銀は拝借してきたのだろう?』
返事の代わりに、麻袋に入れてきたある程度の金貨を見せる。
『うむ、それだけあれば十分だ。だが、いきなり金貨ばかり使っても怪しまれる。最低限の食料などを買って金を崩してから移動しよう』
「そうしましょ」
イグナリスの助言通りに、ある程度必要な物を購入してさっさと乗り合いの馬車に乗り込んだ。
荷台には既に何人か座っており、各々談笑して居たり荷物の確認などして出発を待っていた。
「地理は多少頭に入っているけれど、随分遠くに来てたのね……」
買い物をしていた時、さらりと道行く通行人の会話や街の看板などを見て、おおよその見当はついていたが、実際に知ると何とも言えない気持ちになった。
『お主の住んでいた場所はどこなのだ?』
「北のメロディア領よ、そこを治めていたの」
『ふむ……となるとかなり遠くに連れてこられたのだな……。ここは真逆の南の国境付近だからな』
「そうなのよね、とりあえず一度屋敷が……領民がどうなったか、この目で確かめに行こうと思ってる」
『……辛い思いをするだけかもしれんぞ?』
「それでも、やっぱり確かめたいの……そうしないと行けない。だって私はメロディア領領主ガレス・リーフェルト伯爵の娘、アイナ・リーフェルトだから」
『そうか、ならば何も言うまい。我はお主の剣だ、立ちふさがる物全て斬り伏せてみせよう』
「ありがとう、イグナリス」
荷台の端に背中を預け座り、肩紐を前に移動させ布に包まれたイグナリスの刀身を抱きしめた。




