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再会

 国王直属の誰かと落ち合うつもりでいた私の前に現れたのは、まさかのユリウス様本人で聞けば酒場の各所に、近衛兵が常連に交じって常に目を光らせてくれていた事を知らされる。


 「場所を変えよう。宿はもう取ったか?」

 「いえ、まずは合流してからかと思いまして」

 「ならば丁度良い、こちらで予備で取った宿がある。そちらへいこう」


 ユリウス様に続いて宿へ向かい、階段を上がり部屋に案内される。

 そこには既に数人の配下たちが地図などを広げて、会議していた。


 「ユリウス様。そちらが……?」

 「そうだ、娼館で目撃情報があったヘレン・リーフェルト夫人の娘、アイナ嬢だ」

 「遠路はるばるお疲れ様です、アイナ様。母上をお助けするため、助力させてください」


 ユリウス様の紹介に、一同向き直り私に騎士の礼を取ってくれたので、私もそれに姿勢を正して心からの礼を伝え話は進む。


 「此度の最優先はヘレン夫人の救出、これに関してはヘレン夫人を指名し客に扮したアイナ嬢がほれ込み、金を払い買い上げ宿に保護。そしてその後奴隷市場の現場を取り押さえ捕縛する」

 「わ、私が娼館にですか!?」

 「早く母上に会いたいだろう?これが最善だと思ったのだが……。なに同性でも娼館に行く女も少なくないと聞く、社会勉強にでもいくつもりで気楽に行けばよい」


 そ、そうなんだ。女同士で……。

 知らなかった大人の世界に気圧されながら、気を取り直す。


 「奴隷市場の取り押さえに関しては私も同行してもよろしいですか?」

 「いや、戦力が多いのは助かるが……母上と久方ぶりの再会の時間を優先してくれて構わんのだぞ?」


 首を振り、気づかわし気な目で見つめて来るユリウス様を真っ直ぐ見返す。


 「お父様もきっと同じようにすると思います。目の前で悪事を働き不幸を撒き散らす輩を、野放しにして己の幸福ばかりを優先するのは貴族の矜持に反する……と」

 「……そうか、ならば何も言うまい。ではアイナ嬢はヘレン夫人を連れ出して宿に戻り次第、そのまま奴隷市場で合流。良いな?」


 静かに皆、拳を突き合わせ深く頷いた。


 


 「ここが……娼館」


 教えられた店の前に辿り着くと、緊張でゴクリと生唾を飲み込み看板を見上げる。


 「ふふ、そこの旅人さん。少しの時間だけでも楽しんでいかない?可愛い娘から大人のお姉さんまで揃ってるわよ?」


 立ち尽くしていた私に妖艶に微笑む肌の露出の多いドレスを着た女の人が、妖しく手招きしてきた。


 「お、大人の色気ってこういうことなのね……」

 『お主、年頃の男子みたいな反応しとるぞ』


 私は女の人に案内され受付に向かうと、指名する女性をきめてくれと言われたので、カウンターの傍で待機している女性たちに視線を送る。

 誰もが美しく着飾り自分の魅力を引き出した化粧をして男の気を引くため、露出の多い服を選んで座ってこちらに笑みを浮かべていた。


 「……あっ!」

 『いたか?』

 「いた……いたわ、お母様」


 一番端に座り、他の女性たちに比べたら大人し目の服を身に纏い薄く笑う女性は間違いなく、お母様だった。


 「あ、あの一番端の女性を……お願いします」

 「ん?あー、女性だったのね。お会計はこちらの通り、この記載以外の請求は絶対にしないから安心してね?それじゃ、ヘレナさーんご指名よーご案内してあげて―」


 受付のお姉さんは私が外套を被ったままだったので、声を聞いて少しだけ驚いた様子だったがすぐに笑顔を作り、指示を出した。

 それを聞いたお母様は、ゆっくりと立ち上がり私の元へやってきて手を腕を組み、歩き出した。


 「ヘレナと言います。同性のお相手をするのは初めてだから、至らない所もあるかもしれませんが誠心誠意尽くさせて頂きます」


 お母様は静かに優しい声音で、お店から教えられたであろう娼婦としての挨拶をして、私を部屋に案内した。


 部屋には大きいベッドと浴室だけがあり、ちょっとだけ性奴隷として扱われていた頃を思い出して複雑な気持ちを思い起こさせた。


 「まずはお風呂、入りましょうか」

 「……お母様」

 「……え?」


 私がぼそりと零した声に、お母様は動きを止めた。


 「私です、お母様。アイナ・リーフェルトです」


 外套を脱ぎ、顔を晒すとお母様は信じられないというように口を手で覆い、しゃがみ込んでしまう。


 「嘘……あ、アイナ……生きていたのね……ああ、ああ良かった……神様ありがとうございます」


 感極まって泣き崩れるお母様に寄り添い、ベッドに座ってもらい手を握りながら、これまでの経緯をかいつまんで説明した。


 「そうなのね……貴方が継いでくれたのね……メロディア領領主を」

 「はい。そして今日お母様の目撃情報が入り、こうして助けに参りました」

 「ありがとう、アイナ。でも……私はもう、メロディアには戻れないわ。戻っちゃいけないのよ」

 「ど、どうしてですか?そんな事ありません、お母様はメロディアに必要な人です、勿論私にとっても!」


 お母様は苦しそうに口を開く。


 「見ての通り、今の私はただの娼婦であの日から沢山の男の人の相手をしてきた……。あの人と添い遂げると誓ったこの身を、誰とも知らない男の人たちに晒し弄ばれてきた。汚されてしまった私を見て、あの人が、メロディアの人々がなんていうか……私はそれが怖い。あんなことがあったのに、のうのうと男の人に跨ってよがって生き延びてきた。いやしい女が、あの優しくて暖かい場所に居て良い訳がないのよ……」


 だから――と言いかけたお母様を遮るように私は、精一杯の力で抱きしめた。


 「だから、どうしたんですか?」

 「え?」

 「娼婦として生きていくしかなかった。汚れてしまった。それがなんですか、お母様はお母様でしょう?それとも、私やお父様やメロディアの人々の事、どうでも良くなりましたか?」

 「そ、そんなことないわ!大好きよ、あの人と過ごした日々も貴方が生まれて来てくれてからの日々もぜーんぶ大切で大好き……」


 泣きながら抱きしめ返してくる感触に、懐かしさを感じる。


 「一緒に帰りましょう?お母様、私たちのメロディアに」

 「ええ、そうね。帰りましょうか」


 小さい頃してくれたように、お母様の涙が落ち着くまで撫でる。

 大切な宝物を取り返した、そんな温かな気持ちが私の胸を満たしていった。

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