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進展

 朝早くに馬蹄の音で目が醒め、何事かと思っていると寝室の扉がノックされた。


 「アイナ様!すみません、ユリアです。お眠り中申し訳ありません!至急見ていただきたいお手紙が届きました!」


 切羽詰まったユリアの声に眠気が吹き飛び、ベッドから跳ね起き寝間着なのも構わず扉を開ける。


 「分かったわ、今開ける」


 扉の前では神妙な顔でユリアが、大事そうに手紙を両手で持っていた。

 

 「こちらです」

 「……この封蝋、王宮から!?」

 「はい、かなり大事な物かと」

 「分かった、今開けて目を通すわ、着替えを用意しておいてくれるかしら?」

 「はい、ただいま!」


 さっそく封を開けて、中身に目を通す。私の表情が一変した事ので不安げに視線を寄越すユリアに対して顔を上げユリアを見つめる。


 「あの……アイナ様?」

 「至急馬と旅支度の用意を」

 「え、え?どういうことですか?アイナ様、話が――」

 「お母様の情報が入ったの!この目で確かめに行くわ」


 突然の話に困惑するユリアを黙らせるような態度になってしまったが、自分でも驚くほど気が立っているのが分かる。


 「は、はい!ただちに!」


 ユリアは他のメイドたちと手分けして旅支度を整え、外の厩舎では馬丁が準備を進めてくれ、すぐさま旅立つ準備が整った。

 ドレスよりも着慣れてしまった乗馬用の服一式に、イグナリスを帯剣しその上から外套を羽織って外に出る。


 「昨日までで出来る仕事は全部終わらせてあるから、急ぎの要件以外は各自の判断に任せるわ!夜間の警備は念入りに行うよう各所に触れ回って」

 「かしこまりました、気を付けて行ってらっしゃいませ」


 家臣たちに見送られながら、馬を出せる限りの速度で走らせ書かれていたメロディアから南東にある、トゥルガル自治領との国境付近にあるフィオート領に向かった。


 「待っていて、お母様!」


 なるべく日没ギリギリまで走り続け距離を稼ぎ、馬と自分の休憩を挟みながら走り続けて数日が経ち、やがてトゥルガル自治領の雲に覆われ、山頂が見えない程の山脈地帯が視界に広がった。


 目的のフィオートはトゥルガル自治領とヴェルディア公国を繋ぐドラヴァン峠から一番近い領だ。お母様の目撃情報があったのは、そのフィオートにある娼館だという。


 「とりあえず、陛下の密偵と合流しなきゃ……」

 『国境付近とあって、珍しい物が売られているのだな」

 「あちらのトゥルガルは採掘が盛んだからね、剣とか鎧とか質が良いってお父様が言っていたわ」


 遥か昔から和平を結んで国交が盛んな国とあって、ヴェルディアに負けず劣らず賑わっている様子を見ながら、厩舎に馬を止めて目的の酒場へ赴く。


 「さて、どこに居るかしら」

 「お嬢ちゃん、ここにミルクはないぜ?」


 外套で多少誤魔化せるが所作で性別を見破ったのか、野次を飛ばすガタイの良い粗野な風貌の男を無視し、奥のカウンターへ向かい椅子に座る。


 「釣れないなぁ……。あんた冒険者かい?随分立派な剣持ってるなぁ、ちゃんと持てるのか?」

 「はぁ……面倒くさい」

 『酒場とは元来こういう物だ』


 馴れ馴れしく肩に手を置いて来た男を無視し、適当に酒を頼むと流石に痺れを切らした男が力任せに私を振り向かせる。


 「……あんま舐めてると力ずくでやっちまうぞ、アマ」

 「イグナリス、こういう時は暴れても良いんでしょう?」

 『騒ぎになると母上を探すのに警戒されるかもしれん。穏便に済ませるべきだ』

 「この状況で?」


 特に怯えるでもなく、怒るでもなく羽虫でも見るような態度で居る私が、腹に据えかねたのか拳を振り上げる男。

 応戦するためイグナリスの柄に手をかけたその時だった。


 「その辺にしておけ」

 「ぐっ!?て、てめえ!離しやがれ!」


 いつの間にか男の背後から外套に身を包んだ人物が、男の腕を捻り上げる。


 「女性の口説き方がなってないな……」

 「いででで!わ、分かった分かったから!もうこの女には手は出さねえ降参だ!」


 空いてる手を上に上げ、悲鳴を上げる男を解放し仲間たちが居る席に戻るのを見届け、隣の席に着いた。


 「美しい華は大変だな。アイナ嬢」

 「え、えっ!?」


 外套から顔を覗かせたのは、あろうことかヴェルディア公国国王ユリウス・ノルヴァン様その人だった。


 彫りの深い顔をくしゃっと歪ませ笑ってみせるユリウス様に、私は呆然と両手で口元を抑えて顔を寄せる。


 「ど、どうしてここに国王様が……?」

 「私の知らない所で悪行を働く輩を、直接この目で見てこの手で捕えたくてな。おっとここではユリウスと呼んでくれ。かしこまった態度は取らんでいい、祖父に久しぶりに会った孫娘くらいの気でいてくれ」


 笑みを浮かべる国お――ユリウス様に大量の冷や汗をかきながら、今回のお母様救出作戦が穏便に済むことを切に願った。

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