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 領主として好き勝手荒らされたメロディアを元に戻すべく奔走して、少しばかり日が経つ頃。近隣の村などで噂が流れていた。


 曰く、悪事を働くと赤髪の狩人がやってくる、と。


 「アイナ様、昨晩またおでかけになりましたね?」

 「……い、いいえ?全然全く出かけてなんかいないわよ?」


 執務室で判を押したり書類に目を通したりしている最中、ユリアが眉根を寄せて私を怖い顔で睨んでくる。


 「……そうですか。ところでアイナ様のその外套はなぜ生乾きなのでしょうか?雨が降ったのは夜中になってからだったはずです。出かけておられないのであれば、その理由をお聞かせ願いたく思います」

 「え、あ……えっと……その……」

 「お聞かせ願います」


 目を逸らして窓に視線を移すも、それを遮るようにユリアが立ちふさがり、ずいっと顔を近づけてきた。


 「ご、ごめんなさい。近くの村で夜盗の被害にあったと聞いて……ちょっと――」

 「ちょっと?」

 「ひぃ!?ゆ、ユリアそんなに睨まないで頂戴。雨の中なら足音も消せるし夜盗が動くには好都合だと思って周辺を張っていたら案の定奴らを見つけたから、そのまま捕えて拠点も潰したのよ!これであの村の人たちの安全は守れたのよ!」

 「確かにそうでかもしれませんが、今のアイナ様はメロディア領領主アイナ・リーフェルト伯爵なのですよ!?領主自ら夜中に夜盗と一戦交えるなんて、聞いた事ありません!」

 「だ、だって――」

 「だってじゃありません!夜盗などの問題は衛兵や家臣たちに命令をしてくだされば、直ちに向かわせますから、どうかお一人で動くのはおやめください。……またアイナ様を失うような事はここにいる皆、味わいたくないのです。それを分かっているのですか?」


 怒りをにじませたお説教のあとに、神妙な顔で訴えて来るユリアに首を縦に振る以外の答えが思いつかずただ黙って頷く。


 「分かったわ。今度からそうする」

 「それに最近では巷で、『赤髪の狩人』などという通り名で吟遊詩人の詩にまでなって話が広がっているようですし、迂闊に出歩いて変に注目を浴びるのは得策ではないかと」

 「かっこいいのになぁ……」

 「分かりましたね?」

 「……はい」


 深いため息をついてユリアが退室して、残った書類を片付けて立ち上がって伸びをしながら窓際に向かってそこから見える街並みとそこを歩く人々を見る。


 「少しずつ良くはなっているけれど……まさかあれだけ見せしめに貴族がやられたのに後を絶たないのはなんなのかしらね」

 『夜盗以外にも何かあるのか?』


 職人に新調してもらった鞘に収められ立てかけられているイグナリスが口を開いた。


 「……一部の貴族が奴隷売買に関与しているのが、発覚したんですって」

 『甘い蜜に群がる虫は無数にいるだろうからな。完全には無くならんかもしれん』

 「でも、私はあきらめない。お母様の事もね」

 『そちらの情報は何か進展はあったのか?』


 再び机に戻り、書類の中からお母様に関する報告書を取り出す。


 「まだ噂程度の事ばかりなんだけどね、ここより南の街の近くで数か月前、私とお母様が連れ去られた頃にそれらしい娼婦を見かけたって話があるくらい。それ以降は別の場所に売られたかどうかって事みたい」

 『希望は捨てるなよアイナ』

 「もちろん」


 書類を置き、気分を切り替えるためイグナリスを手に取り素振りをするため部屋を出た。


 「素振りでもしてないと落ち着かないわ」

 『部屋に籠ってるより、その方がお主らしい』


 待つ事しか出来ないもどかしさを吐き出すように、疲れ果て腕が上がらなくなるまで素振りをした。

 

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