叙爵と宣誓
一月後、叙爵のため再び来城し、一度別室で着付けを済ませてから謁見の間へ向かう。
数か月ぶりのドレスを着た自分を姿見で見た時、違和感に思わず笑ってしまったがなんとか身体は覚えているようで、躓く事も無く無事国王陛下の前で跪くことができた。
「アイナ・リーフェルト。汝にメロディア領領主の任を与えると共に、父ガレス・リーフェルトの跡を継ぎ伯爵位を与える」
「謹んでお受けいたします」
眼前にやってきた国王陛下から、書状を頂き深く一礼する。
「一度奴隷に落ちたらしいぞ……」
「あんな小娘に伯爵位だと……?」
一度奴隷墜ちした事とあまりにも若い事で反感を招く事は覚悟していたけど、式典の最中で囁かれるとは思ってもみなかったな……。
「不満に思う貴族諸君もいることだろう。だがこの者は奴隷に落ちてもなお父ガレス・リーフェルト伯爵同様領民を想い、最善を尽くし奴隷売買に手を染めた非道の限りを尽くした者たちを裁き、領地を解放する功績を上げた。それを称えずに何を称えると言うのだ?異議があるものは、この場で述べよ」
国王陛下の底冷えのする声で囁きは霧散し、静粛な空気を取り戻し式典はつつがなく進んだ。
「ふぅ……緊張したわ」
『見事だったぞ、我の声を聞くことが出来ていた世代の貴族を思い出した』
「ふふ、だったら良かった」
「お疲れ様でした。アイナ様、この後は宿に参りますか?それともどこかで食事を?」
式典を終え軽めの食事会のあと、着替えだけ済ませてから城を後にして街の通りをメロディアから付いて来てもらったユリアを伴って歩く。
「ちょっとだけ顔を出したいところがあるんだけど、いいかしら?それ次第で決めたいのだけど」
「かしこまりました。どちらへ?」
「魔術師協会に行きましょう。忙しい子だから、いるかはわからないけど」
予想はしていたが今回もエレナはおらず、また熱烈なあのファンの受付の子に鼻息がかかるほど詰められ即退散してきた。
「アイナ様のご友人は凄い方なのですね」
「大分イメージが違うから、実感はないのよね……」
あてが外れたのでユリアと共に宿で食事も済ませて、そのまま就寝した。
それから数日かけてメロディアへ戻った私は、各村などをめぐり領主となった事の報告とエリュガーによって吊り上げられた馬鹿げた税の調整に追われたりして、忙しい毎日を過ごした。
それらの業務がある程度落ち着いたある日、ユリアを含む家臣として復帰してくれた者たちを伴ってお父様のお墓の前にやってきていたた。
「お父様、ただいまもどりました。本当は一度戻った時にご挨拶するか迷いましたが、全て終わらせてからじゃないと叱られる気がしてしまったの。ごめんなさい」
家臣や領民たちによって綺麗に手入れされた墓石をそっと撫でる。
「お母様をまだ見つけることが出来ておりませんが、必ず見つけ出してみせます。そしてお父様の跡を継いで貴族としての矜持を示していくつもりです。……どうか、どうか見守っていてください。お……お父様……」
笑顔で誇らしく胸を張りながら報告と決意を述べるつもりでいたけれど、次第にお父様とお母様の三人で過ごした日々を思い出し、それがもう帰ってこない事を実感し悲しみがこみ上げてきて、言葉に詰まる。
背後では、何人か堪えきれなくなってすすり泣く声が聞こえてきた。
背筋を伸ばし、息を整え家臣たちに向き直ると私は、顔を引き締め声を張った。
「アイナ・リーフェルトはここに誓う!メロディアに暮らす全ての領民の健康と幸せを守るため、全力を尽くすと!」
私の言葉に皆姿勢を正し、涙はそのままに深々と一礼して敬意を示してくれた。
「これから忙しくなるわ」
『お主の新しい人生の幕開けだ』
もう一度お父様の墓石を見つめた後、私は歩き出した。




