と、特級魔術師ぃ!?
ゾンターク家の奴隷などの闇取引に関わった者たちを捕縛し、家畜用の荷台に乗せて移動する事数日、ついこの間やってきた首都ヴェルディアに戻ってきた。
「相変わらずの賑わいだな」
「ええ、そうですわね。この間来たばかりですが、やはり賑やかすぎて気圧されてしまいます」
「ゾンタークの者たちを前にして、あの気迫を見せた君でも気圧されるのか?」
「それとこれは別ですわ。からかわないでくださいなアレクシス様」
大所帯の我々を物珍しそうに見て来る通行人を横目に、目的の裁判所へ到着すると、書状を持たせた近衛兵を先に首都へ向かわせて置いたのでつつがなく話は進み、裁判の支度が着々と進んでいく。
「明日には、裁判が開かれる。これでガレスとヘレンの無念も少しは晴れると良いが」
「アレクシス様、お父様はともかく、お母様の事に関してはわたくし、諦めておりません」
「……そうか、そうだな。済まない、こうして君が無事に戻って顔をみせてくれたんだ。希望を捨てるのはまだ早いな」
裁判所の中を忙しなく移動する裁判官たちの様子を、傍目に眺めつつ拳を握る。
「今日はとりあえず、時間が空いた事だし食事でもどうだ?野営で乾いたパンと干し肉ばかりで飽きただろう?」
「申し訳ありません。首都に友人が居りまして、せっかく来たので顔を見に行こうと思っていますので……」
「そうか。その友人とは、旅の道中で知り合ったという魔術師か?」
「はい。人見知りの激しい子ですが、小さいリスのような子で可愛いのです」
「はは、小リスか!ぜひとも私も君が世話になった礼を言いたいが、淑女同士の友情を深める場に男が混ざるのは野暮だな。何か別の機会にしよう」
アレクシス様は豪快に笑うと、配下たちの元へ歩み寄り移動の苦労を労い、語らい始めた。
「……ああやってお父様も家臣たちと沢山笑っていたわ……」
『今度はお主が、その役目を担ってやれ。残っている家臣たちはきっとそれだけで心が救われる』
「そうね、そうしましょう」
各所に設置してある案内板を頼りに、エレナが所属しているはずの魔術協会の総本部の建物に辿り着き見上げる。
「……これ、魔術で成形していったのかしら?」
『だろうな、さすがにこれを人の手だけで作り上げるのは気の遠くなるような歳月がかかるぞ?』
目の前にそびえたつ岩山をくりぬいて、そのまま一つの塔のようになっているそれをしばし見た後一番下の階の受付と思われる入り口に向かう。
「こちらにエレナって魔術師の女の子が在籍してると思うんですけど、今日はこちらに戻っていますか?数日前に戻ってきていたと思うんですが」
「エレナ……エレナ・ヴァーミリオン特級魔術師の事でしょうか?」
「と、特級……?」
エレナと名前を聞いた途端眉根を動かし、私の顔をじっと見つめた受付の女性デスク越しに身を乗り出してきた。
「ええ。彼女は魔術師協会が発足されてから数えるくらいしか認定されていない、最上位の階級を最年少で取得しており、国の依頼を受け国中を渡り歩いているんですよ!最近では東の国境付近の山岳地帯に現れたグランドリザードの大群を一人で殲滅したとか!きゃー!かっこよすぎですよね!!」
物凄い勢いでエレナがどれだけ凄い魔術師なのかを頬を染めつつ熱く語る女性に戸惑いながら背中に背負ったイグナリスに目線を向ける。
「ど、どう思う?イグナリス」
『あの村での消音効果付きの結界と魔物を瞬殺したあの攻撃魔術を見るに、間違いないのでは?』
「そ、そうですね。その人だと思うんです」
「すみません一般の魔術師と違い情報統制されておりましてお伝えする事が出来ませんていうかむしろ私が知りたいくらいです!どこでお会いになったのですか!?どんな女性でした!?」
ずずいと身を更に乗り出して矢継ぎ早に質問攻めにしてきた彼女に、曖昧な返事をして足早に退散する事にした。
「なんだか、エレナって凄い魔術師だったのね」
『あれほどの魔術を使えるのなら、そういう扱いにもなるだろう』
「なんだかそんな凄い人と一緒にお茶したりしたって思えないのは、やっぱりあの人見知りと上がり症な本人を知ってるからかな」
「情報統制されているというから、どういう人物なのか知る者は限られているのだろう。それを先にしってしまっているお主は幸運なのやもしれんぞ?」
「そういう幸運はいくらあっても嬉しいわね」
夕食を決めるためレストランが軒を連ねる通りに移動し夕食を済ませた後、アレクシス様が取ってくださったホテルに向かい、屋敷で暮らしていた頃と同程度のふかふかのベッドに感動しつつ、私はすぐさま夢の中へ旅立った。




