まだ、終わったわけじゃない
すぐにハイデロット伯爵の元を発ったけれど、流石にメロディアに着くころには、真夜中になっていた。
「アイナ、用意は良いか?」
「はい、アレクシス様。ずっとこの時を待っていました」
「では、行くぞ」
力強く頷くと、アレクシス様の近衛兵が先陣を切り屋敷に突入する。
「な、なんだ貴様ら!ここをどこだと思っている!」
「どけ!大人しくしていろ!」
鍛え上げられた近衛兵たちの素早い近接格闘に手も足も出ず、門番は一瞬で無力化され騒ぎを聞きつけた衛兵なども集まってきた。
「良いか、この者たち全員が重要な参考人だ。多少の怪我は許すが、決して殺すな」
「はっ!」
あちこちで悲鳴や金属の擦過音が響き渡り屋敷は騒然としていた。
「アイナ、こっちだ」
「はい!」
懐かしい屋敷の中に足を踏み入れると、あの時の惨劇が目に浮かび胸が苦しくなるが、ぐっと堪えアレクシス様の後に続いて、奥へと進む。
「だ、誰だ貴様ら!このような夜更けに!俺を誰だと思っているのだ!」
ノックも無く扉を開け放たれた部屋では、半裸の男と同じく半裸の女性がベッドのシーツを手繰り寄せて怯えていた。
「ハイデロット・ゾンターク伯爵の息子エリュガー・ゾンターク。貴方には奴隷売買と無闇に税を引き上げ領民を苦しめていると訴えが出ている。大人しく投稿し法廷で裁きを受けろ」
「ど、奴隷?な……なんの事だ?そんな事は知らんぞ!言いがかりはやめてもらおうか!」
動揺して声をひっくり返させながら知らぬ存ぜぬを通そうとするエリュガーだったが、隣にいる女性がシーツを強引にエリュガーから取り上げ、私の元へ駆け出してきた。
「た、助けてください。私……私!」
女性の肩や太ももには、至る所に傷があり明らかに男女の営みとは言い難い跡ばかりが目立っていた。
「性奴隷として、あの男に買われたのですね?」
「はい、税を払えなくなって……その代わりとして……」
泣き始めた女性をそっと抱きしめながら、私は庇うように前に出てエリュガーを睨む。
「女性を物のように扱い、満足すれば捨てる。そのような行いが許されるわけがありません。大人しく法廷で裁きを受けなさい。エリュガー・ゾンターク」
「な、なんだ貴様は!偉そうに言いやがって、貴族である俺にそのような口を聞いてタダで済むと思っているのか!」
「……ああ、そういえば顔を見せていませんでしたね」
外套から顔を出すと、父親のハイデロット伯爵とそっくりな表情で固まりベッドの上から飛び降り後ずさりしていく。
「な、その顔……アイナ……アイナ・リーフェルト!?ど、どうして!」
「あら、覚えていてくださって光栄ですわ。では、改めまして自己紹介を。メロディア領領主ガレス・リーフェルトの娘、アイナ・リーフェルトでございます。貴方方ゾンターク家の皆様に復讐するため、地獄より舞い戻って参りました」
そっと女性を近くにいた近衛兵に預け、前に出て貴族の礼を見せ、顔を上げるとエリュガーは狼狽し口を開け閉めして声にならない声で何事か呟き大人しくなった。
「捕えろ、ゾンターク家の今回の件に関わった者たちは全て首都に移送する。これから忙しくなるぞ!」
「はっ!」
夜が明けて日が差し陽光に照らされる久方ぶりに見る、屋敷の姿に色々とこみ上げてきた。
「……終わったのね」
「いいや、まだだ。首都の法廷で君の証言も交えて、徹底的にゾンターク家の悪事を白日の下に晒し罪を償わせる。それまでは君の戦いは完全には終わりではないよ」
いつの間にか背後にアレクシス様がやってきていて、穏やかな笑みを浮かべて私の隣に並び同じように屋敷を眺めた。
「そう……ですわね。アレクシス様、もうしばらくお供させてくださいませ」
「それはこちらのセリフだ。アイナ、君の復讐の旅の終わりを共に見届けさせてくれ」
屋敷に背を向け、首都へ向かう準備のため歩き出した。




