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喪失と出会い

 簡単に言ってしまえば、死にたかった。

 窓ガラスに映った光の無い瞳が私の有り様を示していた。


 「私は……どこへ?」

 「商品は喋るな」


 商品、そうだ。私はもう人では無かった。

 ある日、家族と楽しい夕食を食べていたら黒ずくめの男たちに襲撃され、目の前でお父様を殺され、お母様と私は目隠しをされて何処かへ連れ去られ、伯爵令嬢としての人生は終わった。


 その道中でお母様が降ろされ、一人で泣きながら必死に助けを求めて叫んだが、聞こえるはずもなく五月蠅いと男たちに怒鳴られ震えながら、目的地に着くのを待った。


 それから私は、顔も名前も知らない男たちの相手をさせられた後、牢屋に入れられては何処かへ連れていかれて、その度に男たちの相手をさせられた。


 最初は嫌悪と羞恥で泣き叫んで抵抗していたが、だんだんと心が擦り切れて、言葉遣いも畏まった言い方を強制され、次第に作業のように相手を満足させてやれば、衣食住は保証されることに慣れていった。


 男たちからそういう行為を散々繰り返されていれば、当然子を孕みお腹が膨らんでくる。それでは商品価値が下がるらしく。奴隷に関わっている貴族と繋がりのあるであろう医者と治癒術師が居る部屋へ連れていかれ、私は薬を盛られ眠らされ、目覚めればお腹の膨らみが消えていた事もあった。


 そんな中、珍しく今日は外に連れ出され、目隠しもなく何処かへと移動していた。


 「着いたぞ、降りろ」


 言われるがまま、馬車から降りるとそこは潮の香りがする海辺沿いに建てられた屋敷だった。


 「今日からお前は、ここの貴族様の専属の奴隷だ。失礼のないようにな」

 「……そうですか」


 ここが国内であれば、奴隷が禁止になったのはかなり昔なのでここの貴族は明らかに違法行為をしているわけだ。

 だが特にこれといった感情も湧かず、ただ生返事を返し屋敷を眺めながら数歩後ろを歩きながら男の後に付いていく。


 「こちらへどうぞ」


 直立不動で待機していたメイドに案内されて、奥の突き当りの部屋に辿り着いた。


 「いいか?取り引きが終わるまでは、失礼のないようにな」


 念を押して男が小声で、私に向かって言うので、無言で頷いて答える。


 「よし、いくぞ。失礼しますアンドレ―様、ガラルド様が参りました」

 「うむ、通せ」


 メイドが恭しく扉を開けて脇に逸れ、男と共に部屋に入っていく。


 「よく来たな、ガラルド。その娘か?」

 「はい、私の在庫の中でも極上品でございます」


 男は手をすり合わせ、ニヤニヤとご機嫌を取るように貴族に笑いかける。


 「ほぉ……確かに美しいな。特にこの赤髪は奴隷とは思えんな。私の手持ちにはないタイプだ。病の類は発症していないな?」


 貴族のアンドレ―について記憶を探るが心当たりはなく、ぼんやりと虚空を見つめていると、私の前に立ち、値踏みするように隅々まで舐め回すような視線を無遠慮に飛ばし、その目は人としてではなく商品として私を見ていた。

 

 「はい、週に一度医者に見せておりますが、病気は確認されておりませんのでご安心を」

 「良いな、買おう。いくらだ?」

 「他にも飼いたいという貴族様もいらっしゃいまして……最低でも80万ヴェルからお願いしたく……」

 「高いな……しかし、うーむ」

 「これほどの上物は中々手に入らないので、次これと同等の物が入荷するかはお約束出来かねますので……」

 「全く、話が上手いな。分かった払おう」


 顎に手を当て、考えた末購入を決意したアンドレ―はメイドに金を用意させガラルドはそれを受け取って、円満の交渉となりガラルドは私には目もくれず、鼻歌交じりに屋敷を出ていった。


 「さて、お前はたった今から私の所有物になったわけだが。まずは湯浴みをしてこい。ここに来るまでそれなりの数の男を相手にしてきたのだろう?身を清めて来るんだ」

 「わかりました」


 メイドに案内され、風呂へ通された私はメイドたちに隅々まで身体を洗われた後、アンドレ―の部屋へと通された。


 「戻りました」


 部屋に入ると、アンドレ―は酒を飲みながら本を読んでいた。


 「戻ったか、ではまずベッドに横になりなさい」

 「はい」


 私はベッドに歩み寄りながら、アンドレ―が本をテーブルに置き、グラスを持って席を立ったのを視界の端に捉え私はベッドに身を投げ出そうとした。

 その時、声が聞こえた。


 『おい、娘。聞こえるか?』


 突然の声に、身体が止まり周囲を見渡すがアンドレ―以外に人は居なかった。


 『お、聞こえるのか?ここだ、壁を見ろ』


 声の言う通りに壁を見れば、細身の剣が立てかけられていた。


 「その剣が気になるのか?その剣は我が一族に伝わる魔剣なんだそうだが、過去の大戦で活躍した有名な物だったらしいが、今ではただのお飾りでね。一族の証として形だけ受け継がれてきた物なのだ」


 私が剣をじっと見ている事に気づいて、アンドレ―が解説をしながら背中に手を這わせてきた。


 『それはそうだ、お前たちは魔法も剣も極めようとせず金を稼ぐ事ばかりに注力し始め、次第に我の声を聞く事すら出来なくなっていったのだからな。そして、今に至っては奴隷を買っては欲に溺れる畜生になり果てておる有り様だ』


 アンドレ―を蔑む声音で剣は、語る。


 『娘、我の声を聞きとれると言う事は素質があると言う事。そのまま奴隷として慰み物として一生を終えるか、我を手に取り己の未来を取り戻すか。どっちか選ぶ気はないか?我はもう、この一族に愛想が尽きて久しい。我を自由にして欲しいのだが……どうだろう?』

 「どうした?早く横になってくれ、それとも……このままの方がいいのかな?」

 『ただし手に取ってそれで解決というわけにもいかん、我の魔力に耐えられるかどうかはお主次第だ、魔力に対応しきれずに日常に支障をきたす後遺症が残るか最悪死に至る』


 ベッド脇に手を置いたままの私の身体を触って来るアンドレ―の感触が遠のき、蘇ってきたのは大好きなお父様と一緒に剣の稽古をして、お母様から困った子ねと苦笑いを浮かべられながらも、無理に止めさせようとはせず私のやりたい事を尊重して暖かく見守る眼差しだった。

 剣の刀身に映った瞳には、ほんの少し光が宿ったように見えた。


 『その覚悟があるなら我を手に取れ、力を貸す。そやつがお主の身体に気を取られている内にな』


 私は、いつのまにか伝っていた涙を拭うのも忘れ、無言で立てかけられていた剣を手に取ると同時に、魔力が身体中に流れ込むのを感じた。


 「お、手に取る程気になったのかい?だけど一応は一族の宝だから戻してほし――」


 手に取った直後、私の身体は勝手に動き、見事にアンドレ―の身体を切り裂き、屍に変えた。


 「身体が勝手に……ここまで大きな実剣は振るった事ないのに、どうして?」

 『触れた時に魔力が身体を巡ったのを感じただろう?それを通じて我がお主の身体を、動かしたと言えば分かるか?どうやら、お主と我は相性が良いらしい』


 私は剣を両手で持ち、刀身に語り掛ける。


 「もっと自在に操りたい。私の意思で、誰かの思い通りになるのは……もう嫌」

 『ふむ、そうだな。奴隷として辛い思いをしてきたのだからそれも当然だ。だが、素人にこの重さは辛いだろう?我が鍛錬してやるから、とりあえず今は私に戦闘は任せてもらえんか?』


 私は、そっと頷いて刀身を撫でる。


 「とりあえずここを出なきゃ……」

 『その前に、ここに囚われている奴隷たちを助けてやってはくれんか?皆、お主のように弄ばれて地下に収監されておるのだ』

 「分かった」


 私は、その後屋敷を探索しなるべく騒ぎにならないように地下に行き牢を壊した。

 家具などを壊して回り騒ぎを起こし、その隙に経験がある人に馬車を任せて、脱走を手伝って屋敷に戻る。


 「これで良い?」

 『ああ、十分だ。我らはどうする?』

 「必要な物を貰う」


 私は衛兵から逃れながら部屋を漁り、動きやすさ重視で着れそうな男物の服やブーツに身を包み、大きめのローブを纏っていくらかの金を適当な麻袋に詰め外に出た。

 領主が殺されている事に慌てふためく家臣や、一目散に逃げようとする夫人や娘をしばし眺めた後、私は身を翻し歩き出した。


 「ところで、貴方の名前は?」

 『イグナリスだ』

 「私は……アイナ・リーフェルト。よろしくイグナリス」


 私は、イグナリスの刀身を撫でて屋敷から拾って来た布に包んで身体に結び付けて歩き出そうと踏み出したその瞬間、日が登り始めその輝きに目を細めつつ照らし出されていく景色を眺めた。


 一度暗闇に閉ざされた私の心に、再び火が灯った気がした。


 「私はもう、挫けない。抗って抗って抗い続ける」

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