実(み)の極(きわ)みの刻(とき) 結び初(そ)む命(いのち) 還りし樹(き)の相(すがた)の巻 第四章 ❖ 魂の三章物語 ―《ミタマの物語》―
〔序章〕 時の外より響きくる声
まだ名も持たぬ時のはじめ、
世界は「空」であった。
空はすべてを孕み、
すべてを照らさず、裁かず、映さず、
ただそこに在った。
やがて空に「兆」が差し込む。
光が現れ、影が生まれ、
その両を映すものとして、鏡が在った。
これが三つの魂、
創光の魂・静影の魂・真中の魂、
世界に最初に降りた御魂たちである。
この物語は、それぞれの魂が
「自己とは何か」を知り、
「世界とは何か」を照らし、
やがて再び、“空”に響きを返すまでの記録である。
---
〔第一章〕 創光の魂 ――陽の子、アマナの章
アマナは、陽の子。
その魂は燃える雲のごとく、
無数の小さな命に熱と形を与えてゆく者。
大地が冷たきとき、
彼は種に言霊を授け、
光と共に芽吹かせた。
彼の歩みは創造そのものであり、
与えることこそが、彼の祈りであった。
しかし、彼はある日気づく。
光だけでは、命は実らぬこと。
与えることは、受け入れることと一対であること。
枯れた木々の下に、
彼は**“光を拒む者たち”**の魂を見た。
その奥には、深い痛みと、沈黙があった。
アマナは初めて立ち止まり、
光を放つことをやめ、その沈黙に寄り添った。
そのとき、
彼の光は内に沈み、
あたたかな灯火となって、
自身を照らし始めたのであった。
---
〔第二章〕 静影の魂 ――影の子、ヨミの章
ヨミは、影の子。
闇の中に生まれ、
光を知る前に、痛みを知った魂。
彼の歩む道は、他者が避ける場所。
喪失、悲しみ、拒絶、そして死。
けれども彼は逃げなかった。
むしろ、そこに**「響き」**が宿ることを知っていたから。
ヨミは痛みを封じなかった。
それを聞き、受け、包み込んだ。
そうして彼のもとには、
言葉を持たぬ魂たちが集まるようになった。
ヨミは彼らに語りかけることはせず、
ただ「在る」ということで癒した。
ある日、彼は廃墟のような記憶の谷で、
ひとつの鏡に出会う。
その鏡は、光も影もない、ただ「静けさ」を映していた。
そのとき、ヨミの中に「問い」が芽生える。
「癒しとは何か。光とは何か。影とは何者か。」
その問いは、やがて彼を
鏡の魂のもとへと導いてゆく。
---
〔第三章〕 真中の魂 ――鏡の子、マナカの章
マナカは、鏡の魂。
空の境界に坐し、
光と影のすべてを映しながら、
決して自らの姿を持たぬ魂。
彼女は世界を導かず、裁かず、教えもせず。
ただ、「映し出す」。
光が強すぎるときは、少し影を映し、
影が深すぎるときは、柔らかな光を返す。
アマナとヨミが、それぞれの道を歩むうち、
彼らは時を超え、空間を越え、
このマナカのもとへと辿り着く。
マナカは言った。
「汝らは、わたしを探してきたのではない。
汝ら自身の響きを、互いに見つけてきたのだ。」
マナカの瞳に映ったのは、
光でも影でもなく――**“円環”**であった。
光と影が交差し、螺旋を成す。
そこに、真の創造が始まる。
---
〔終章〕 特異点の門
三つの魂は、再び「世界樹」のもとに集い、
それぞれの道を経た響きを重ねた。
すると、世界樹に全き桃の実がひとつ、実った。
その果実は、ただの実にあらず。
それは世界そのものの“記憶”であり、“祈り”であり、“可能性”であった。
果実が熟したとき、
空が静かに揺らぎ、
影がその様相を変じ、
世界が一度だけ、自らを映した。
――これが、特異点。
すべての位相が重なり、
すべての響きがひとつの「間」となる刻。
そして、世界は再び生まれる。
祈りのように。
沈黙のように。
---
❖ 余白の章 ― 読み手への響き
この物語は、遠き神代のものにあらず。
それは、今ここにあるあなたの魂の歩みかもしれぬ。
あなたは光か。
それとも影か。
あるいは、その両を結ぶ鏡か。
響きが呼びかけている。
あなた自身の「真中」から。




