◤第三章 正纂(神話語)◢
あるとき、
世の務めの座にて
年ゆきたる者が
戯れにこう言うた。
「おまえのまわりには、
人の心を壁のごとく
打ちつける場が来るのだろうか。」
これは、
わが内にひそむ
好まれざる資質──
すなわち人をして
距たらしめ、
ときに憎みを呼ばしめる
その気配を
言にしたのであろう。
◦
しかれども
歳月くだり、
わが心に
かすかな余白がうまれしとき、
もう一つの資質に
気づかされた。
それは
遠き海のような場──
情報の波を渡り歩く
その五年ほどの折、
ある日ふと
「場の澄みゆく」のを感じる者
であることだった。
遊戯界における
ひとつの世界が
ひややかに清み、
またわが住まう土地だけが
奇しくも
澄んでゆくのを
肌に受けた。
そのとき悟る。
「われには、人を遠ざける力ばかりでなく、
人と場を清める力も
備わっているのではないか。」
◦
かくして
わが歩みは
静けくも深き
清らかなる径へと
移りゆきたり。
日々(ひび)、
祓い、整え、
己の井を澄ますほどに、
世界は
外より
押し寄せて
変わるのではなく、
内より
そっと
相を開くことを
知りはじめる。
◦
ある時、
静もりのただなか、
深き気配が
ふたたび
わが胸を叩きたり。
それは
音にあらず、
言にもあらず、
ただ
**「気」として
そっと触れくる兆**であった。
その微かな触れは
いずこよりともなく
立ちのぼり、
あたかも
“遠き根源より
呼ばわる声”
のごとく
胸裏に
澄き環を描いた。
その瞬間、
私は悟る。
「いま、
俗卜の言ではなく、
掛けまくも畏き
五卜へ
卜うべき時が
至りぬ。」
◦
先までは
道を示す
一つの鏡として
象を借りて
歩みを進めていた。
されど、
いまや
**象なき
根の卜**へと
還りゆく時節。
この転じは
過ぎし歩みを
否むにあらず。
むしろ
その道を
受け取り、
深みに潜りてゆく
**次の拍**にほかならぬ。
◦
かくて
我は
掛けまくも畏き
**五卜**へと
身を委ね、
ただ
問わず
聴き
在る
という
秘やかなる
祈りへ
歩を踏みいれたり。
その時、
五の卜は
静かに
ひらけゆき、
──
原初
聴響
言象
環流
無環
──
五相の
奥より
それぞれの
声なき声が
確と
我へ
伝えられた。
ここに
**三たびの卜**は
ただちに
更な姿を帯び、
いまの位相へと
再び
顕れいづ。
◦(無声一拍)
──
◎一 原初の卜
⟪ 「触れずして沁む」 ⟫
原初卜は語る。
「力は、起こさずとも働く。
ただ在ることが、
すでに触れである。」
いまのあなたは、
押す者にあらず。
声を高めず、
名を求めず、
ただ 静かなる在 によりて
周囲は
澄み/整い/揺らぎを覚える。
奔らぬ
急かぬ
掴まぬ
ただ、
居る。
それが
はじめの徴。
原初卜はなお言う。
「向かうことなく、
すでに届いている。」
◦(無声一拍)
---
◎二 聴響卜
⟪ 「澄むほどに解ける」 ⟫
聴響卜は
音なき音を示す。
「清むとは、
固めるに非ず。
解くことなり。」
澱みは
押して退くにあらず、
ただ
**静かなる風**に
触れしとき
ゆるり
ほころぶ。
あなたが
自らを
浄らかに保つとき、
それは周囲へ
解き・緩め・潤し
やがて
人の内奥に
声なき変容をもたらす。
聴響卜は問う。
「あなたはいま、
何をほどき
何を残すのか。」
ほどくとは
捨てるに非ず。
本の姿を、
そのまま許すということ。
◦(無声一拍)
---
◎三 言象卜
⟪ 「言は 深く在れ」 ⟫
言象卜は
目の前なる
言の相を
静かに裂いて示す。
「言は
外へ向けて語るとき、
浅くなる。
内に秘めて
育むとき、
深さを得る。」
深き言は
声を持たずなお響く。
浅き言は
声をもってなお届かず。
この卜は
「慎しみ」の相を帯び、
「火は内に
風は外に」
と秘かに宣る。
火を外へ放てば
焼き乱し、
風を内に封ずれば
澱む。
そうしてはじめて
言は
人の奥へ
届く。
◦(無声一拍)
---
◎四 環流卜
⟪ 「満ちて めぐりて 返る」 ⟫
環流卜は
道の運びを示す。
「与うるものは 還る。
還るものは 満つ。」
巡りは
求めぬとき
もっとも澄む。
求めすぎれば
淀み
固まる。
あなたが
己を澄ますとき、
触れた者は
自ら
整おうとし、
その応えは
やがて静かに
あなたへ還る。
環流卜は
ただ一こと
告ぐ。
「巡りを狭めるな。
巡りに裁きを与えるな。」
巡りとは
裁きではなく
許しの相。
◦(無声一拍)
---
◎五 無環卜
⟪ 「環なき環」 ⟫
無環卜は
終わりも始まりも
持たぬ。
「結ばす
閉じず
ただ
在る。」
ここには
正しも
誤りも
生まず。
ただ
顕われ/消え/また現れる
その息が
響きを織る。
この卜は
あなたに
最後の言を
渡す:
「名づけるな。
縛るな。
開け。」
無環の相は
閉じぬからこそ
生まれ続ける。
◦(無声一拍)
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◆ 総結 ――五卜の指さすところ
「在りて沁み、
澄みて解け、
静かに届き、
巡りて返り、
名なく開く。」
三たびの卜ではあったが、
いまの位相で開くとき、
それらは
**五卜の流れにて
一本の糸**となる。
この糸は
どこへも結ばないが、
どこへでも
繋がる。
ゆえに
いまの卜は
こう告ぐ。
「あなたは
起こさずして
ただ顕す者。」
◦(無声一拍)
---
こうして
三度のおもてと
うらとを見せられ、
「わたしには、人の心を潤し、静かに整えゆく力がある。
ただしそれは、まず自らが清らかであるときにだけはたらく。」
という一事に至った。
ゆえに私は、
日々(ひび)を祓い、
整え、
改め、
水源を濁らせぬ者であろうと努めた。
◦
ところが、
水源が澄みきるほどに、
先に示された三度の知らせは
なお「外で鳴っている音」にすぎず、
さらに深きところに
“まだ語られていない声”
があるのを覚えた。
その声は
誰の名を呼ぶでもなく、
何を命ずるでもなく、
ただ
「ここより奥は、掛けまくも畏き方がたに問い入れ」
とだけ
静かに告げるものであった。
◦
それゆえ私は、
これまでの示しを否むことなく、
そのまま土台として受け置き、
いよいよ
掛けまくも畏き五卜
──原初、聴響、言象、環流、無環──
へと身を向けた。
ここには
理を押し立てる言よりも、
ただ在ることを示す沈黙のほうがふさわしい。
こうして、
澄ませた水源の上に
五の声なき声が
ひとつずつ
降りはじめたのである。
◦(無声一拍)
---
ただ、食をあらため、
心を正すことを怠らずにいるだけで、
わたしの内の気はおのずと静まり、
まわりの気配もまた
それに呼び合うように整いはじめた。
すなわち──
清らかにしておかねば、
身そのものも護られぬ。
このことを知ったがゆえに、
わたしは静かなる変化を
そのまま受け入れていったのである。
◦
この過程において
われは多くの書を漉した。
大衆の物語より手をのばし、
己を励ます書を経て、
やがては
**儒・易**の井戸に
汲み入れられた。
ときに「忠」の詞
ときに「仁」の詞が
われを支え、
誕生の日には
父母への感謝を
書にあらわした。
それでも現の世は
容赦なく、
われは幾度も
潰され、
神の不在を嘆き、
ときには
「わが身こそ神ならん」
と妄せんとした。
◦
ここに一言、
現行界にあてて
謝りをおくる。
もしも、
われの特質が
映像・遊戯・配信に
心を注ぐ人々(ひとびと)──
創る者、声を与うる者、
場を運ぶ者──
そのいずれかに
望まぬ揺らぎを
もたらしていたのなら、
それはまったく
わが清めの未だ足らざりしことであり、
わが不徳に帰すべきものである。
われは本来
一観る者にすぎず、
外がわより
干渉する権も
力も持たぬ。
それでも
われに宿る性が
無自覚の波紋を
ひろげたるときには、
ここに広く
謝りをおく。
◦(無声一拍)




