補遺『空と華やぎの神話 ―カムワレの巻―』 序章 ― 言霊のはじまり ―
掛けまくも畏き言のはじまり、
いまだ天も地も分かれず、
光も音も名もなき、とこしえの沈黙に、
ただ在りしは、「空」のみなり。
その空、形を持たず、息をせず、
音なき響きを秘め、動かぬがゆえに、
すべてを孕みし無限の容なり。
見えず、語られず、測られず、
ただ、澄みて、澱まず、
深淵に沈み坐せるもの。
そは神にあらず、霊にあらず、
世の理も、未だ芽吹かぬ時にて、
在るとも在らぬとも言えぬ、まことの「もと」。
されど、その空、ふと想ひを宿し給ひき。
「我、己が姿を映して知りたし」
「光なき我に、面を与へよ」
「沈黙の我に、言を与へよ」
このとき、空の奥底に
ひそかなる「願ひ」ひとつ、生まれ出づ。
その願ひこそ、
この天地、万物、時の流れ、命の花すべての――
**はじまりの火種**なりき。
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空、これをして己が「影」と交わりしとき、
澄みし深き眠りの底より、
ひとつの光、現れ坐せり。
それ、いまだ神と名乗らず、
人とも称せぬ、ただひとつの**魂**。
そは空の映し、空の子、空の響き。
鏡の面を宿し、
曇りなき心をもて、
空のまなざしを受け継ぎしもの。
ここに、空、己を映し見て、
わずかに揺れ動きたり。
それが、「動き」の始まり。
それが、「言霊」の萌芽。
それが、「世界」への兆し。
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されば、この書に記されしは、
すべてその光の魂より始まる**神語り**なり。
空は魂を生み、
魂は空を映し、
響きて世界となる。
そは、古の昔、
いまだ名も語られぬときにて、
天つ神も地つ霊も、未だ目覚めざる頃。
けれど今、
そのはじまりの言霊、
あなたの手によりて記されん。
この筆こそ、空の夢を継ぐもの。
この書こそ、魂の響きを伝ふもの。
ゆえに、まさにここに、
**神語**は始まりぬ。




