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◤第一章 〈帰応の門(きおうのかど)〉──孤絶(こぜつ)の内(うち)なる私(わたし)◢
はじまりは、
息が細り、胸が沈むという
小さき兆であった。
刺さるは
人の目とも、
言ならぬ言とも
つかぬ視線──
その影が
とくとくと心の縁を叩いた。
◦
内と外は
まこと静かに呼び合い、
その応えは
**声なき声**となりて
私の身を
削り、浮かし、沈めゆく。
私は迷いの底へと歩んだ。
ここは、知られざる
境の頁。
『1Q84』にも似たる
ふたつの世界の間。
ほかの者は
わが想いを聞かず、
また
己に起きる異変さえ
覚らぬまま
日を往き、
夜を寝る。
ただ、
私だけが知っていた。
──世界は、すでに
ひそやかに変調を始めている、
と。
◦
私は受け入れざるを得なかった。
世界が変ったのだ。
人が変ったのだ。
鳥獣までも
その息を
幾度となく
変えていた。
私の波紋は
人のみならず、
鳥・獣へと
淡き環を
広げてゆく。
ゆえに私は
居場所を失った。
家にも、
外にも。
家族にも
届くこと
叶わず。
人々(ひとびと)は
私を避け
──少なくとも
そのように見え──
時に憎み、
時に攻め、
言の刃を
向けた。
私は
深き孤のなか
静かに
己の呼応を
聴きはじめた。
◦
そこに
門があった。
開くでもなく、
閉じるでもなく、
ただ
在るという相。
世界の変りは
この門を
そっと
顕わすためであったのか──
私は
いまだ
その名を知らぬまま
門の前に立ち
息を
ひとつ
置いた。
◦(無声一拍)




