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第6.5話:愚痴とビールと小山先輩と



 「だからさ、千景ってのはな……“冷たい”んじゃなくて、“面倒くさいのを避けてるだけ”なんだよ。わかる?」


 俺の目の前で、ジョッキ片手に語るのは――我がオカルトサークルの悪友代表、小山直樹先輩。


 今日は“定例反省会”という名目の飲み会。

 たまたま他のメンバーが来られなかったとかで、気づけば俺と小山先輩のサシ飲みになっていた。


「いやーでもあの人、普通に怖いっすよ。言葉選びとか、目とか、間の取り方とか……」


「はは、怖ぇよな。俺も最初マジでビビってた。視線とか氷柱かよってレベルだったもん」


「……っすよね。俺なんか、話しかけるたびに“え、また来たの?”みたいな顔されてて……」


「まぁ、それ多分実際そう思ってんじゃね?」


「うっ……」


「でもさ、お前、ちょいちょい千景の話するよな〜」


「え、そ、そうすか?」


「“千景先輩ってすごいっすよね”とか、“なんか不思議っすよね”とか。“怖いけど綺麗”とか。……なーんか、気になっちゃってる風な」


「いやいやいや、違いますって!」


「おーおー、慌て方がもうそれじゃん。いや、別にいいんだけどさ?」


 ニヤニヤが止まらない小山先輩。

 ほんと、こういうとこ悪友だなこの人。


「てかさ、視えるとか視えないとか置いといて……

 千景とお前って、なんかバランス取れてんだよ。千景が“線”なら、お前は“丸”っていうかさ」


「……それって、褒めてます?」


「褒めてる。多分な」


 ジョッキが空になった音が、テーブルに響いた。

 なんだかんだで、飲むペースは速い。さすが先輩、酒には強い。


 俺のほうはすでに顔がほんのり赤い。


「ところでさ、春野。……最近、“視えた”って言ってたよな?」


「えっ、ああ……その話、します?」


「まあ、酒の席だしな。深刻にはならねぇよ」


 軽く笑って、先輩は次のジョッキを注文する。


「で? 何が見えた?」


「フェンスの向こうに、黒い影。顔がなくて、でも“目が合った気がした”っす」


「顔がないのに、目が合った?」


 さっきまでの冗談混じりの雰囲気が、スッと静まる。


「……そりゃまた、ヤバそうだな」


「っすよね……」


「千景、何て?」


「“もしあれが一歩踏み込んでたら、お前はもうここにいなかったかも”って」


「うわ……やっぱ言うことが千景だな。怖ぇ」


 でもそのあと、小山先輩はふっと笑って言った。


「でも、怖いけど……楽しいんだろ?」


「……うん。変だけど、居場所って感じがしてきたっす」


「それでいいじゃん。人間、怖いもののほうが案外、夢中になれたりするもんだ」


 そう言って、先輩はまた一口ビールをあおった。



 トイレに立って、手を洗ったあと。

 ふと、鏡を見た。


 自分の顔。

 酔いで火照ってるのがわかる。


 でも――その“鏡の奥”で。


 誰かの“目”と、また目が合った気がした。


「……まじかよ」


 視える、ってのは――

 やっぱり、シャレになんねぇ。


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