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第2話:閉じた扉の先に立つ


 翌週の放課後、俺はオカルト研究サークルの部室で、妙な沈黙に包まれていた。


「……よく毎日来るわね。普通、もう来なくなるものよ」


「いやいや、来たいから来てるだけっすよ。歓迎されてる気はしないっすけど」


 篠原千景先輩。

 霊感ガチ勢の三年生で、クールで口が鋭いけど、根は真面目そうな人だ。たぶん。


 俺はというと、まだ正式な「入部届け」は出していない。

 でも、なんとなく流れで毎日この部室に入り浸るようになっていた。

 部員は他にも何人かいるらしいが、まだ全員には会っていない。というか、俺の顔を見ると不自然に帰っていく人もいる。


 ……やっぱり“視える人限定”の空気は、ちょっと厳しい。


「あの、先輩。ちょっと聞いてもいいっすか?」


「なに?」


「この部屋の奥にある倉庫みたいな部屋の扉。鍵かかってたっすけど、あれなんすか?」


 千景先輩の手がピタリと止まった。

 今まで読んでいた書籍から目を上げる。その瞳の奥に、一瞬だけ――警戒、のようなものが見えた。


「あそこには近づかないで」


「……へぇ、やっぱなんかあるっすよね?」


「“視える人”でも危ないの。あなたみたいなタイプなら、なおさら」


 曖昧だけど、やけに重たい言い方だった。

 俺は咄嗟に「なんとかなるだろ」と言いそうになって、口を閉じた。


 そのとき。


「よっ、新入りくん。今日も来てんのか~」


 扉が開いて、軽い声が響いた。

 入ってきたのは金茶の髪にピアスの男――見た目だけなら、どこかのバイトリーダーって感じの兄ちゃんだ。


「小山直樹。三年。あんまり細かいことは気にしないオカ研の良心ってことでよろしく~」


 そう言ってにこっと笑う。気さく、を絵に描いたような人だった。


「春野拓海です。酒とオカルトとラーメンが好きです」


「いいねぇ、飲める口か。今度語ろうや。千景の愚痴でも聞きながらさ」


「聞こえてるわよ」


 冷たく刺すような声が飛ぶが、直樹先輩は涼しい顔でスルーした。

 この人、慣れてるな。すごい。


「で、何の話してたの?」


「倉庫っぽい部屋の話っす」


 俺が言うと、直樹先輩は「あー」と曖昧に笑った。


「千景が嫌がるのも分かるけどさ。あそこ、いろいろあったんだよ」


「いろいろ?」


「昔、部員の一人が“何か”連れてきちゃってね。しばらくしてそいつ、大学来なくなった。

 だから今は、鍵かけて封印中ってわけ」


 言い方は軽いけど、内容はまったく笑えなかった。

 でもその話を聞いて、俺の中の“怖いもの見たさ”がむくりと頭をもたげる。


 やめとけ、っていう声と、ちょっと見てみたい、って気持ちがせめぎ合う。


「……鍵、どこにあるんすか?」


 思わず訊いた俺に、千景先輩が深くため息を吐いた。


「やっぱりあなた、普通じゃないわね」


「あ、今の褒め言葉っすよね? ありがたく受け取っときます」


 千景先輩は渋々とだが立ち上がり、棚の奥から古びた鍵を取り出した。


「一人では開けないで。私も一緒に行くわ」


「……マジっすか? 意外と優しいっすね、先輩」


「違う。あなたが何かに“引かれてる”なら、私が止めるしかないの」


 言葉は冷たいけど、それってつまり――心配してくれてる、ってことだよな。

 なんか、いい人だなこの人。いや、もしかしてツンデレか?


「にしてもさ」


 直樹先輩が肩をすくめる。


「新歓期間に封印解こうとする新入部員なんて、見たことないぞ」


 俺はにかっと笑って言ってやった。


「だって、こういうとこにこそ本物があるっすよね?

 ――なんとかなるっすよ、マジで」


 千景先輩は呆れたように目を細める。けど、それはほんの少しだけ、優しい目だった。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

第2話にして早くも倉庫の封印を開けに行こうとする主人公、わりと頭おかしいですね。

でも彼なりに「なんとかなるっしょ精神」で生きてます。たぶん過去に何度も痛い目に遭ってる。


今回から悪友ポジの直樹先輩が登場しました。

千景とは真逆の“話せる兄ちゃん”として、これからどんどん振り回されてほしいですね(主に主人公が)。


次回はいよいよ「怪異との初接触」。オカルト好きな人も、ラブコメ好きな人も、どちらも楽しめる回になる……はずです!


では、また次話でお会いしましょう!


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