砂漠の中の神殿
神殿は石造りで、近づいてみるとかなりの大きさがあった。これだけの規模の建物を砂漠の真ん中に建てたのだから、どれだけの時間と労力がかかったのだろうと考えると計り知れない。そして、この建物にそれだけの労力をかける価値があったのだろうかとも考えてしまう。
「ほらあそこだ」
先生は茂みに屈みこむと、小さな声で神殿を指した。
ちょうど壁が途切れた場所があって、その切れ間から神殿内部が見えた。
中庭とでも言うのだろうか、回廊に囲われて手入れのされた豊な緑が見える。ここが一瞬、砂漠のど真ん中であることを忘れてしまうような光景だ。そして、回廊にはぱたぱたと恐らく使用人と思われる女官たちが忙しくしている。
レジナルドも先生からちょっと離れた茂みで、セシリオと一緒に屈みこみ、周囲の様子を伺ったが、衛兵などはいないようだった。不用心なのか、逆に地の理から、絶対的な自信があるのか。どちらにしろ、神殿に行き、話しを聞いてみないことには、始まらないと思い、ゆっくりと立ち上がったところで、先生に腕をつかまれる。
「ちょっと待って」
先生は小声でそう言って、回廊の方に視線をやる。
神殿内の空気感が大きく変わった。
『体調は大丈夫なんですか?』
女官が口々にそう言うのが、こちらまでうっすらと聞こえてくる。輪の中心にいるのは、真直ぐな白に近い薄い銀の様な髪の毛をなびかせて、白いワンピース型のローブをまとったまだ、十六、七のくらいの少年のあどけなさを瞳に残した青年だった。
あの青年に話を聞けば、何かがわかるかもしれないと思うのと、同時に青年を見ていると既視感を覚える。
「壁にかかっていた絵に描かれていた、君の想い人?」
セシリオの言葉にはっとして、もう一度、青年に強い視線を向ける。ユーニスの部屋にかかっていた絵画に描かれていた青年だと認識し、すぐにユーニスを見た。彼はこの世のものでもないものを見てしまったかのように顔色を失くしていた。
「ルトフ」
ユーニスが呟いた名前に、聞こえるはずもないのに神殿にいた青年はこちらを向いた。
その瞳は深く澄んでいる。
「まずい」
先生が大きな声を出し、レジナルドは反射的に振り返る。
神殿と青年のことでずいぶん、心を奪われていた様で、周囲の警戒を怠っていた。気が付くと、気配を消しているが、ずいぶんの数の敵兵が周囲に潜伏しているようだった。
がさりと、向こう側の茂みが音を立て、レジナルドはセシリオを守る様に覆いかぶさった。
その瞬間、またあの時と同じ強い光に包まれた。