The fridge for insects
初?のホラー!!
夏のホラー2023参加作品です!
たとえUNIQL●のクルーネックTシャツにイージーハーパン、ADID●Sのキャップを後ろ被りしたいでたちでも……虫取り網を振り回せば、男の子は今も昔も大差無い。
ただ、虫かごの中身は昔とは明らかに違う様だ。
もう2時間も網を振り回しているのに未だにバッタ一匹捕れていない。
まるで雲浮かぶ青空に何かを書いているかのように、止まったり宙返りしたり前後したりするトンボを目掛けて、やみくもに網を振り回しては姿を見失う。
そんなトンボに……嘲笑うかの様にキャップにポチン!と止まられてしまう始末!
次に立ち向かったのはヒラヒラ舞うアゲハ蝶やモンシロチョウ。
蝶たちは男の子の網の軌道をふわりとすり抜け、網はただただ虚しく宙を切った。
騒がしく鳴くセミならば捕まえられるだろうと……鳴き声がワンワン響く木の下に立ち、目を凝らして探してようやく見つけた一匹に背伸びしながら網を被せたら、セミは網の隙間からジジジと飛び立ち、男の子はオシッコを引っ掛けられた。
「うわあああ!!!」
オシッコが掛かったかもしれないキャップを脱ぎ、ブンブン振って日向に出る。
途端に焼ける様に強い日差しがボザボザになった彼のショートマッシュに照り付ける。
「あつい!!」
まだオシッコが残ってる気がして気持ち悪いので、彼はキャップを浅く被る。
と、傍らの草むらから「ギ・ギ・ギー・チョン!」と鳴き声が……
「キリギリスだ!!」
草むらは公園の小さな砂場位の広さしかなく、草の背丈は男の子のおへそぐらいの高さだったので、彼は網の竿で探りながらそろそろと分け入った。
当然、鳴き声は止んだが、初めはそろそろと……そのうちに大胆に、草むらをバッサ!バッサ!と歩き回っても一向にキリギリスは見つからない。
「もうにげたのかな?」
と草むらを出て額の汗をシャツで拭うと
「ギー・チョン!」と鳴き声が……
頭に来た男の子が再び草むらへ飛び込んでもなしのつぶて……
こんな事を数回繰り返して、男の子はさすがにウンザリした。
「つかれた! おなかすいた!」
日はすっかり高く昇り、もうすぐお昼
けれども黄緑の虫かごは空っぽのまま!
朝、家を出る時には、このかごを虫でいっぱいにする事を夢想していたのに……
失望でガックリと下を向きながらトボトボ歩く帰り道……足元を黒い影がスススと走り抜けた。
「あっ?!」
少し先でピタッ!と“立ち止まった”その姿は宝石の様に妖しく光る青色のしっぽ、黒い体に黄色いラインのトカゲだった。
当然、男の子は網を握り直す。
男の子が息を詰めた瞬間、このテラテラ光る“小さな恐竜”は走り出し、追いかけっこの始まりだ!
白い埃が舞う乾いた土からアスファルトへ、はたまた地を這う草の葉を弾いて側溝へと体を左右にウネウネしながら縫う様に走り抜けて行くトカゲを男の子は懸命に追った。
それこそ様々な地面の“カーペット模様”を何枚も通り過ぎて男の子は草ぼうぼうの空き地に辿り着いた。
そこには一坪ほどの面積の朽ちた冷凍庫が野ざらしになっていた。
ボディには野球帽をかぶった男の子とボールが納まっているミットのイラスがあって上下に『ホームランバー』と書かれてあり、開けられたままの扉には『赤のTシャツを着て左手に棒アイスを持った男の子』のイラストが描かれている。
トカゲは冷凍庫の中の暗がりに向かって走って行き、男の子もその後を追った。
トカゲが日向と日陰の間でじっと動かなくなったのでそっと近づいて手をお椀の様にしてパコン!と捕まえた。
ツルン!とした感じでひんやりする。
小指を使って苦労しながら虫かごの蓋を開けて、中へトカゲを離す。
ほっと一息ついたところで男の子は、網とキャップを冷凍庫の外に放り投げていた事に気が付いた。
思いの外、中は涼しく日も当たらない為、気が付かなかったのだ。
「ホント!すずしいや」
目が慣れて来ると……実は庫内には棚がいく本も置かれていて、何と!カップアイスやかき氷、棒アイスやソフトクリームまでもが並べられている。
半日足らずも虫たちと虚しい格闘を続けて来た男の子はその体に溜まった暑さに耐えかねて思わず棒アイスに手を伸ばした。
「おいしい!!」
瞬く間に“ガリガリク●の如く”と齧り倒して残骸の棒を咥えたまま、表の光の方へ振り返った途端、
あっという間に光は細く絞られて行き、ドン!と扉が閉じられ、ガシャン!と閂が掛けられる音がした。
真っ暗闇の中、男の子はアイスの棒を咥えたまま残像の光の方へあたふたと駆け寄りドシン!とドアにぶつかった。
その一瞬だけ見えた光はぶつかった時の目の錯覚?
男の子は大声で泣きわめきながらドアをメチャクチャに叩いたり蹴ったりしたけれど、ドアはビクともしないし、何の返事も無い。
それなのに足の底や脛や背中や首などがゾクゾクと冷やされてゆく。
まず手が悴み、頬に伝った涙は氷の粒となり、息を吐くたびに鼻毛にこびりついた霜がほんの少しだけ溶かされた。
でも、それもほんのわずかの間……
男の子はみっともない形のまま固まった“棒”となった。
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ドアを叩く音が収まって“男の子”は『棒アイスを持った男の子』のイラストが描かれている古びたドアから耳を離した。
その手をTシャツやハーパンで拭って、落ちていたキャップを拾い後ろ被りした
そして何事も無かったかの様に網と虫かごを持って家路に向かう。
ただ、出掛ける時とまるで違っていたのは……“男の子”の虫かごがトンボで一杯になっていた事と、帰りの道すがら
「カブトムシなんかスーパーで売ってるからダサいじゃん! やっぱ、つかまえるならオニヤンマとかギンヤンマみたいな“レア”トンボ!! オレとれるとこ知ってるよ!」
と、かごの中身を見せながら饒舌に虫捕りに誘う姿だった。
真っ暗になるのは最後の一瞬、あとはギラギラの炎天下!!
こんなホラーもありでは??と書きました。
因みにトカゲを追っかけるシーンはかの『シャイニング(キューブリック版)』の“ダニーがペダル漕ぎのカートでホテルの廊下を疾走するシーン”をイメージしました。
表現力がなくすみません<m(__)m>
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