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クラン昇格(4)

 冒険者協会。

 一般には、協会、と呼ばれる、国際組織だ。

 国家に属しつつも、国家の境を超えて活動する組織。

 ある程度の規模の町ならば、大体支部があるため、一生

 その業務は、まさしく、冒険者の管理である。


「はあ・・・・・・」


 夜も更けた協会の建物内で、奥まった席で照明の下にあって、書類仕事をしている人影がある。

 協会事務員の制服に身を包む、妙齢の女性だ。

 栗色の髪をバレッタを使ってまとめ、眼鏡をかけている。

 ペンを使って書類へと書き込みを続けている。


「ミーシャ君」


 声がかかり、女性、ミーシャは顔を上げた。

 協会事務員の制服を着こんだ、中年の男だ。


「課長?」


 女性、ミーシャとしては上司に当たる、人事課長、フィリップ・ヴォルフショールだ。


「残業かね?」

「ええ。ほら、『虹の飛島』の」

「ああ、クランの昇格か」


 ふむ、とフィリップは顎に手を当てて唸る。


「ずいぶんと、早かったものだ」

「そうですか? わたしは、このくらいやるだろうな、と思ってましたけれど」


 ふふふ、とミーシャは笑う。

 『虹の飛島』が二人のコンビであったころから、ミーシャはその担当をしている。

 そのミーシャからすると、この躍進は、まさしく自慢であった。


「コンビとして、ジェシカ君とアガット君のコンビが登録をしに来たのが、五年前。そこにルディランズ君が入ったのが、その三か月後。それから、順調に実績を積んでいると思ったら、いきなり一年休止して」

「あれは驚きましたねえ」

「戻ってきたと思ったら、しばらくして竜を討伐して一気に名が売れて、そこからは、メンバーを増やし、実績を積んで、この度、クランとしての申請が通った、と」


 ふむ、とフィリップは頷く。


「整理してみると、やはり早い」


 冒険者がクランを一から設立する場合、通常ならば十年単位での時間がかかる。

 多くの場合は、どこかのクランなりギルドなりに所属した上で、経験を積み、実績を積んで、やがて独立、という順番だ。

 ただ、クランやギルドからの独立、となると、もともと所属している先への義理などのしがらみも増えて、独立、というのはかなり稀なことになる。


 では、クランやギルドに所属せずにいけるか、というと、今度は実績を積むのが難しくなる。

 一パーティーでできる仕事など、たかが知れているからだ。

 そうなると、今度は同じようにパーティーを組みつつも、クランなどに所属していない冒険者とチームを組んだりして、人数を増やす。

 だが、クランやギルドの所属しないパーティー、というのは、所属しないなりの理由があるものだ。

 それらの理由のすり合わせ、連携の問題、クランやギルドを作る際の責任の所在、などなど、問題はそれなりにある。

 結果、それらの調整もうまくいかない、というのも珍しくない。


 人を集めるにも、実績というものは必要だ。

 これは、ただ実力があればいい、というものではなく、その実力を発揮するための舞台も必要である、ということでもある。

 

 その点で行くと、『虹の飛島』は運が良かった、ということもある。

 番の竜種の討伐など、一度も会わずに冒険者人生を終える者の方が圧倒的に多いのだから。


「・・・・・・やはり、ルディランズか」

「まあ、ルディ君は一つ抜けてますよね」


 ジェシカやアガットも、同世代の冒険者たちの中では一つ抜けた資質を持っている。

 だが、鍵になっているのは、やはりルディランズだろう。


「・・・・・・レベル、二六なんですけどね」

「試験迷宮、受け直させてみたらどうだ?」

「あれ、一回受けたら、もうそれ以降は任意ですから」


 ミーシャは苦笑を浮かべた。

 レベルは、中堅なら、三〇~四〇。上位の冒険者で、大体六〇から七〇くらいが平均だ。

 ジェシカは、九八。アガットは一一六である。

 とはいえ、九〇を越えていれば、もう冒険者としては最上位と数えていい。

 冒険者全体で見ても、ほんの一握りだ。


「チームランクは、この間の査定で三に上がっています。あと二つで一級ですよ」

「大躍進、か。大したものだ」

「期待の新人が、いつのまにか期待のクラン。いやあ。楽しいですねえ!」

「そうか」


 わくわくした表情のミーシャに、ふ、とフィリップは笑いを漏らす。

 ミーシャのわくわくする感情は、フィリップにもよくわかる。

 担当する冒険者の躍進は、協会職員にとっては、一番の楽しみの一つだ。


「とはいえ、すでに就業時間は終了している。あまり残業せずに帰りたまえ」

「ええ。この申請の処理だけ終わったら」

「何の書類かね?」

「一つは、新規メンバーの勧誘。もう一つは、ルディランズ君が連れてきた、新人ちゃんの登録書類ですねー」

「奴隷を連れて来たんだったか」

「珍しいですよね。まあ、冒険者稼業は、来る者拒まずですけれど」


 書類にペンを走らせ、書き上げる。


「まあいい。出来たら、私の机の上に置いておいてくれ。明日の朝一で処理しておこう」

「はい。・・・・・・課長は、帰宅ですか?」

「私は、これから会食でね。まだ仕事だ」


 肩をすくめ答えるフィリップに、ミーシャはにこやかに手を振った。


「お疲れ様でーす」

「ああ、お疲れ」


 協会を出ていくフィリップを見送り、ミーシャは腕をまくる。


「さて、あと少し」

・冒険者協会

国際組織。

冒険者を管理し、異界攻略やモンスター討伐を冒険者に依頼する。

依頼主は、協会のこともあるし、誰かの依頼を仲介することもある。

冒険者の身分証明となるライセンスカードの発行並びに管理の手数料、異界素材やモンスター素材の売買、情報収集とその売買、冒険者が必要とする各種道具の売買などで利益を上げる。

依頼の仲介料を取らないこと、常に安定したレートで素材の買取を行うこと、身分証明としてきちんと保証があること、など、所属することによるメリットは非常に大きい。

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