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クラン昇格(3)

 ホールの扉を開き、中に入ってきたのは、どこかくたびれた印象を持つ青年であった。

 白髪の混じった黒髪に、眠そうな緑の垂れ目。

 大きなフード付きのマントをまとっているが、それ以外にはあまり目立つところのない青年だ。

 見た目だけなら、十代後半から二十代前半程度だが、微妙に年齢不詳っぽい雰囲気がある。

 くたびれた雰囲気、かつ、どこか胡散臭い。

 それが、『虹の飛島』の初期メンバーである、魔術師、ルディランズ・マラハイトだ。


「やあ、遅れた遅れた」


 はっはっは、と笑いながら、ほい、と手を上げる。


「すまんね」

「すまんね。じゃない。大事な話してるのに」

「うん? パーティー編成に何か問題が?」

「ないわよ」


 ふん、とジェシカはそっぽを向いて、それから、ちら、とルディランズへと目を向ける。


「てか、どこ行ってたの?」

「そりゃメンバー探しよ」

「・・・・・・はあ?」


 両手を横に広げ、はっはっは、と笑う。


「俺は、メンバー集めからだからな。とりあえず、一人連れてきたぜ!」


 ぐ、と親指を立てるルディランズ。

 ジェシカは、その後ろに、一人立っている少女がいることに気が付いた。


「ん?」


 そこを覗き込むと、薄着の少女が一人、立っている。

 金に近い茶髪はあちこちが跳ねており、頭頂部には髪と同じ色の毛に包まれた、三角形の耳がある。

 腕や足も毛に覆われており、手先には鋭い爪が見える。

 目は鋭く、顔はあまり毛はない。

 顔立ちの整った少女ではあるが、服装を含めて、ちょっとぼろい。

 目立つのは、首にはめられた革製の輪。


「って、奴隷じゃないのよ!!?」


 ジェシカが叫ぶと、ルディランズは、からからと笑った。


「だから何か?」

「どこにそんな金あったってのよー?!」

「心配するな。俺のポケットマネーだ」

「・・・・・・逆に心配になってきた」


 はあ、とため息を吐くジェシカに対し、ルディランズはさほど気にしていない。


「まさか、その子をメンバーにする気?」

「いいだろう? メンバー選定は俺の自由にしていいって約束だぞ?」

「・・・・・・・・・・・・そうは言ったけどさあ・・・・・・」


 そこで、ジェシカはじっとりとルディランズを睨み上げ、


「まさか、ハーレムパーティーにしよう、とか企んでないでしょうね?」

「ははは。何をばかな」


 からから、とルディランズは笑う。

 どうにも信用できない、とジェシカはルディランズを睨みつけるが、それとは別に、入ってきた少女の方へと目を向けた。


「名前は?」

「ブレア。ブレア・フェス、と名前を付けた」


 ふふ、とルディランズが胸を張る。


「何で、この子なの?」

「そうだな。じゃあ、聞いてくれ」


 うむ、と頷き、ルディランズは壁際のテーブルからボトルを一本取ると、手酌でカップに中身を注ぎ、口にする。


「朝起きて、メンバーを探す方法を考えていたんだ」

「そこまでは普通ね」

「とりあえず、協会のミーシャに頼んで、有望そうな新人が入ったら、情報回してくれるように頼んだ」

「いいことだわ。全体的に、まだメンバー足りてないしね」


 クランへと昇格ができたとはいえ、現状、メンバー数はぎりぎりに近い。

 バックアップのチームを含めて、ようやく規定数を達成しているような状態だからだ。

 パーティーの上限は六人。

 それぞれのパーティーも、まだメンバーは増強できる。


「で、そのあとどうしようかと思ったんだが、とりあえず、占いをやってな?」

「うらないー?」

「で、いい結果が出そうな方角に移動したら、なんと奴隷商があり、そこでブレアが売られていたわけだ」


 ふっふっふ、とルディランズは笑う。


「めっちゃ拾い物」

「・・・・・・本当に?」


 ジェシカの目は、疑わし気である。

 それは、ジェシカだけではない。

 他のメンバーの目もそうだ。


「まあ、お前らが疑うのもわからんでもない」


 ふっふっふ、とルディランズは笑う。


「ていうか、こいつをパーティーに入れるとしたら、いろいろ準備がいるだろうな、とは思う」

「へえ?」


 ふうん、と疑わし気にブレアを見て、それからルディランズへと視線を戻す。


「足手まといにはならないの?」

「入ったばっかのビアンくらいかな」

「超足手まといじゃない!」

「ぐっふ!」


 思わぬ流れ弾にビアンが胸を押さえて崩れるが、それに構わず、二人は続ける。


「どうせ、俺一人じゃできることはたかが知れてる。メンバー集めしながら、ゆっくり鍛えるさ」

「まあ、三番隊のリーダーはルドだから、方針は任せるけどさあ・・・・・・」


 んー、とジェシカは、ブレアを見て、何気なく口にした。


「なんだか、冴えない子よね?」


 その言葉を聞いたルディランズは苦笑し、ブレアはうつむいてしまう。

 その姿を見た後に、ん? とジェシカは首を傾げた。


「あれ? なんかおかしいわ。今の」

「おう。ジェシカならわかると思った」


 自分の言動に違和感を持ったジェシカは、首を傾げ、しばらく唸ってからはっとする。


「・・・・・・っ呪い!?」

「大正解」


 ぱちぱちぱち、とルディランズは拍手する。


「なるほど。それで・・・・・・」


 はー、と、ため息を吐き、ルディランズを睨みつけて、


「ちゃんとしなさいよ?」

「分かってる分かってる」


 はいはい、と軽く請け負うルディランズ。

 その笑みにいらっと来たジェシカは、一発頬をはたいた後、


「よし! パーティーを始めましょう!!」

「・・・・・・なんで俺今殴られたの?」


 かんぱーい、と高らかにジョッキを打ち合わせる面々を見ながら、ルディランズはぼやくのであった。

・冒険者と奴隷

基本的に、この世界で奴隷になるのは、冒険者ばかりである。

冒険をしていく上で必要となる様々な出費を賄えず、あるいは、依頼を失敗した時の違約金、または、無計画、などの要因により、借金を背負い、やがて奴隷になる。

奴隷とはいえ、定められた借金分の労働を行うことで解放されるし、奴隷の扱いには、最低限の扱いを保証する法律があるため、それほどひどい扱いも受けない。

奴隷に落ちた冒険者は、実力か運が足りない、とみなされ、冒険者としては半人前以下とみなされる風潮がある。

そのため、冒険者が奴隷を戦力として買うことは少なく、多くが冒険者以外が様々な仕事をさせるのに買っていくことが多い。

首輪には、主人が任意で痛みを与える魔術と、常に位置を知らせる魔術が付与されている。

ただし、主人に隷属させるような効果はないため、下手な使い方をすると脱走されたり、反逆されたりすることもある。

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