『剣聖』の孫
剣を抜く、という動作は、心理的なスイッチだと思っている。
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剣聖の孫、という立場に生まれたアランだったが、だから剣を握ったわけではない。
むしろ、アランの父などは、アランを剣の道から遠ざけようとすらして、幼いアランの周りには剣を置かないようにしていた。
では、アランが剣を握った理由は、何だったのか。
単純に、それが楽だった、というだけだ。
もともと、アランは魔術を学んでいた。
ただ、体を鍛えるのも好きだった。
体術と魔術の組み合わせを考えているうち、魔術を棒にまとわせて放つようになった。
そのやり方が、一番効率がよく、感覚的にも扱いやすかったのだ。
ちなみに、このやり方に関しては、別に珍しいものではない。
魔術は基本的に、決まった詠唱を決まったようにやれば、普通に撃ち出せる。
そこから応用して、魔術の軌道を変えたり、狙う的を変えたり、ということをやりだすと、きわめて難しくなる。
というのも、そこからは、魔術の詠唱自体に工夫が必要になってくるからだ。
慣れれば、息をするようにできることだが、そこまで行くと、魔術師の領域である。
魔術をもっと簡単に応用的に使えるようにするには、詠唱を工夫するより、それ以外のやり方を工夫した方が早い。
そのために、例えば棒に魔術を纏わせ、ぶん回すことで飛ばす、というのは、よくやる方法の一つである。
アランの場合は、棒の振り回しの技術を突き詰めるうち、剣を振る、というやり方を学ぶことになった。
さらに訓練を続けるうち、魔術を使うより、剣で斬った方がはやい、ということに気づいた。
気づいてしまった。
もう、ここまでくると、アランの父も苦笑して、アランに剣を触れさせないことをあきらめた。
他の兄弟たちが、文官や魔術の道に進む中、一人だけ、剣士になった。
そして、『剣聖』に師事することになり、その才能は開花した。
*****
剣を鞘から抜く。
構えることなく、自然体で立つ。
剣を抜くと、それだけで世界が静かになった気がする。
目の前には、こちらを殺そうとするモンスターが一体。
それ以外の気配は、ひどく希薄に感じる。
「・・・・・・ひとつ」
息を整え、前へ進む。
「斬る」
言葉にするのは、意思を剣に込めるため。
振りかぶり、モンスターが襲い掛かってきて、振り下ろす。
「斬った」
言葉通りになった。
*****
「見事、と言わざるを得ませんな」
「そうかい? いや、そうだろうとも!」
ははは、と酒杯を回しながら、アルノーは笑った。
アランが、モンスターを一体切り伏せ、剣の血払いを行い、鞘に納めて戻ってくる。
「さすが、『剣聖』の血を引く、というべきですかな?」
アルノーに話しかけるのは、アルノーの私兵隊長だ。
アルノーの家に古くから仕える、信頼のおける騎士である。
「小生の血も引いているが?」
「なるほど。では、その血の影響もあるのでしょうな」
「ははは。お世辞がうまいねえ」
アランは、『剣聖の孫』と呼ばれている。
それが、剣士としての才のすべての理由であるかのように。
アランは、それをまったく気にしていないが。
「まあ、周りが下手に気を回してもしょうがないからね」
「では、なぜ彼一人にお任せに?」
「不満かね?」
「我々の仕事です」
「おっと、それは済まないね」
剣を納めたアランは、アルノーの前に立つと、ぺこり、と一礼。
「お目汚しでした」
「いやいや、見事なものだよ」
「そう、でしょうか?」
「ええ。鍛錬を積んだ美しい剣技でした」
二人にうなづかれて、ははは、と頭をかいて照れた様子を見せるアランは、年相応の青年、というより、多少幼い少年にも見える。
「では、我々はモンスターを片付けますので、お二人は馬車でお待ちください」
「ああ、任せるよ」
私兵隊長は、部下たちに指示を出すために、その場を離れた。
残された二人。
アルノーが、ふとアランを見ると、アランは自分の手をじっと見ている。
「おや、何か気になるかい?」
「はあ。いえ、まだまだ、おじい様の剣には遠い」
「おやおや・・・・・・」
遠い、とわかるだけでも大したものだと思うけどねえ、とアルノーは思うが、口には出さない。
まだまだ若い、これからであるアランだ。
少なくとも、オシアが同年代であったころより、アランは強い。
いずれ、オシアを超えることなど分かり切っている。
だが、
「・・・・・・まあ、そのころには、オシアはいないか」
アルノーと違い、オシアは定命の者だ。
明確に超えられるようになるころには、オシアは死んでいる可能性が高い。
「ま、心の問題であるだけに、すぐには解決は難しいかね」
アルノーからしてみると、青い、としか思わないが、
「いやはや、楽しみだねえ」
この旅で、何か学んでくれればいい、と思う。
・棒振りによる魔術射出
魔術師が杖を使う理由の一つ。
魔術の制御力を上げることも理由ではある。
ただ、杖の先端を標的に向けることで、魔術の射出先の指定が直感的になり、簡単になる。
普通に魔術師として鍛錬を積めば、わざわざ杖を標的に向ける必要もないし、複数の標的を同時に狙うのもできるようになる。
学び始めたばかりの初心者が、魔術の標的を定める場合に、杖に魔術を込めて放つ練習をする。
この時に、杖の先端をただ向けるだけで放てるものもいれば、杖を振った方が放ちやすいものもいる。
この辺は、感覚的なものなので、個人差が大きい。
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